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「映画の面白さが詰まった作品です」10月25日公開の映画『八犬伝』、犬塚信乃役・渡邊圭祐さんインタビュー

  • 2024.10.4

※本記事は、雑誌『ダ・ヴィンチ』2024年11月号からの転載です。

運命をひとつにする八犬士の中でも、中心的存在を担う犬塚信乃。この凛々しくも精悍な青年剣士を演じるのが渡邊圭祐さんだ。信乃の生きざま、宝刀・村雨を振るう殺陣の見どころ、そして『八犬伝』という物語の精髄について語っていただいた。

取材・文:野本由起 写真:MARCO

「まっすぐ、ただまっすぐに信乃を演じました」

自身が演じた役柄について、そう語る渡邊さん。犬塚信乃は、亡き父から託された宝刀・村雨を守り、強欲な伯母夫婦のもとで暮らす剣士。“孝”の字が浮かぶ珠を持つ彼は、やがて運命に導かれるように旅立っていく。

「信乃が登場するのは、“虚”と“実”で言うと“虚”のパート。でも、彼にとっては自分が今いるところが現実です。個性がはっきりとした八犬士たちの真ん中で、とにかくまっすぐひたむきであろうと意識しました」

映画への出演が決まり、これまで『南総里見八犬伝』の世界に触れる機会がなかった渡邊さんは、予習を兼ね、先人たちによる舞台のDVDを観ていったという。

「最初に観たのが、2013年に上演された阿部サダヲさんの主演舞台『八犬伝』。いきなりコメディ要素の強い作品から入ってしまい、戸惑いました(笑)。他の作品もいくつか観ましたが、共通するのは青春もののような熱さや青さ。歴史的な背景を描きつつ、八犬士たちの絆や友情も感じられ、もはや『八犬伝』というひとつのジャンルになっているなと。この物語を“虚”とし“実”とどう重なり合っていくのか、撮影前から楽しみでした」

江戸時代の作品ながら、今なお愛され続けているのも物語としての強さがあるから。

「少年マンガの要素をギュッと凝縮したような作品ですよね。桃太郎のように仲間を集めて強大な敵に立ち向かい、その過程では親子の情や友情、恋愛も描かれ、大事なメッセージも語られて。だから、いつの時代もワクワクするんだと思います」

“虚”のパートで大きな見どころとなるのが、宝刀・村雨を振るう殺陣だ。同じ珠を持つ者同士とは知らず、犬飼現八と芳流閣の屋根の上で死闘を繰り広げるシーンは、『南総里見八犬伝』屈指の名場面。映画では、VFXを駆使したダイナミックなアクションシーンになっている。

「大きな公園に斜めにセットを組んでいただき、その上でアクションをしました。ただ、このシーンよりも大変だったのが、里見家を祟る玉梓との最終決戦。八犬士が揃って戦いに赴くのですが、実はこれが最初に撮影したアクションシーンだったんです。しかも、現八との戦いは一対一なので、カメラアングルなどで多少のごまかしが効きますが、乱戦となると引きの構図になるので、足の運びや刀さばきなどがはっきり映るんです。剣士らしさは、そういった所作に表れるので完璧に仕上げなければならなくて。複数人が画面に収まるので、失敗もできず大変でした。それでも次第に呼吸が合い、他のキャストとも絆が深まっていくのは楽しかったです」

ただ、一点だけ残念だったことがあるそう。

「犬村大角役の松岡広大くんから、かっこいい納刀の仕方を教わったんです。刀を鞘に納める所作は、剣士の力量が伝わるところ。斬ったあとに手首のスナップで血を振り落とし、スッと刀を回して鞘に納める所作を広大くんに教わり、どこかに入れたいと狙っていました。そこで玉梓と相対する場面で試したら、アクション監督が飛んできて『渡邊くん、それはちょっとかっこつけすぎだね』って(笑)。信乃たちが押されているシーンなのに、余裕があるように見えてしまったんです。僕の中では会心の出来だったので、あれは悔しかった。いつかまた殺陣のある作品に出た時のために、あの所作は取っておきます」

悪は滅びない。だから人は勧善懲悪の物語を求める

“実”パートの撮影も並行して行われたが、渡邊さんが撮影現場を見る機会はなかったそう。

「スタッフさんからは、プレッシャーをかけられました(笑)。特に助監督からは『“実”のパートを撮ってきたよ。役所さんと内野さんの掛け合い、凄かった!』って。でも、あまり意識せず、“虚”は“虚”として演じました」

映画では、“虚”と“実”ふたつのパートが交互に展開される。完成した作品を観て、渡邊さんはどんな印象を抱いたのだろうか。

「“虚”はアクション主体ですが、“実”は馬琴と北斎のふたり芝居がメインです。“実”が濃密だからこそ“虚”の軽やかさが際立ちますし、また“実”に戻った時にグッと引き込まれる。アクション大作の臨場感やスピード感、集中して世界に入り込む人間ドラマの奥深さの両面を持ち合わせていて、映画の面白さが詰まった作品だと思いました」

執筆に人生を捧げた馬琴の生き方も、渡邊さんの心を動かした。

「シンプルに、人としてかっこいいですよね。なにかひとつに心血を注ぐって、なかなかできることではありません。誘惑も挫折もありそうなのに、寄り道せずひたすら小説一本で行く。理想ではありますが、自分にはできない生き方だと思いました」

馬琴は、悪がはびこる世の中だからこそ、正義を貫く物語を生涯かけて描き切る。物語の中だけでも勧善懲悪を貫くという馬琴の姿勢にも、渡邊さんは共鳴する。

「悪は至るところにはびこっているし、ひとつ潰したからと言ってどうにもなりません。僕らはそういうものに蓋をして、我慢しながら日常を生きている。だからこそ、巨悪を叩くストーリーはスカッとして気持ちいいんだと思います。結局のところ、勧善懲悪はファンタジーですが、こうした物語が今必要とされるのもわかる気がします」

劇中で渡邊さんがもっとも痺れたのは、馬琴の妻・お百のひと言。

「ネタバレになるので詳しく話せませんが、寺島しのぶさん演じるお百のひと言が胸に沁みて。きっと男女で解釈が違うんじゃないかな。実際、僕と女性のマネージャーさんでは捉え方が違いました。馬琴と北斎の冒頭のシーンも素敵ですし、役所さんと内野さんがどう話し合って演じたのかも気になりますが、一番印象に残ったのはお百のシーンでした」

人生について、創作について深く考えさせられる映画でありつつ、肩の力を抜いて鑑賞できる娯楽大作でもある。当然ながら、原作を知らなくてもまったく問題ない。

「『南総里見八犬伝』も滝沢馬琴も知らなくて大丈夫。原作ものを映像化するうえで、僕はこれが一番大事だと思うんです。今回の映画『八犬伝』はアクションが多く、馬琴と北斎の掛け合いでは思わず笑ってしまうことも。子どもから大人まで楽しめるので、ぜひ予備知識なしで楽しんでください」

ヘアメイク:荒木美穂 スタイリング:九(Yolken) 衣装協力:ジャケット8万1000円、パンツ4万9000円(KOH’S LICK CURRO TEL03-6427-1405)、シャツ4950円(Casper John/Sian PR TEL03-6662-5525)(すべて税込)、その他スタイリスト私物

映画『八犬伝』 2024年10月25日(金)より全国ロードショー 原作:『八犬伝』(上・下)山田風太郎(角川文庫刊) 監督・脚本:曽利文彦 配給:キノフィルムズ 出演:役所広司、内野聖陽、土屋太鳳、渡邊圭祐、鈴木 仁、板垣李光人、水上恒司、松岡広大、佳久 創、藤岡真威人、上杉柊平、河合優実、栗山千明、中村獅童、尾上右近、磯村勇斗、立川談春、黒木 華、寺島しのぶ

『八犬伝』(上・下)

山田風太郎 角川文庫 各968円(税込) 戯作者・滝沢馬琴は、浮世絵師であり友人の葛飾北斎に構想中の物語を聞かせていた。それは、宿縁に導かれた8人の犬士が悪や妖異と戦う『南総里見八犬伝』。波乱万丈の“虚の世界”と、馬琴の28年に及ぶ執筆の日々を描いた“実の世界”が交錯する傑作長編。

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