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心のデトックスの形は人それぞれ。【TheBookNook #31】

  • 2024.10.4

理由はないけど泣きたい日、ありますよね。【TheBookNook #31】では、八木さんがそんなときに心を揺さぶる三作品を紹介します。辛く苦しい……。でもそれで終わらず、読後に優しさが残る物語たちです。涙を流してすっきりし、明日からまたがんばれるように。ぜひお手に取ってみてください。

文 :八木 奈々
写真:後藤 祐樹

理由はないけど、泣きたい日。あなたにもありますか……?

悲しい、寂しい、辛い……誰かに話を聞いてほしいだとか、大きな悩みがあるとか、そんなことではなく、ただ、ほんの少し疲れた日。

目まぐるしく過ぎていった一日の終わりのため息と一緒に、日常とは少し離れた物語の世界に身を委ね、涙を流す時間。

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思わず泣ける作品も素晴らしいですが、思わぬ作品で泣いてしまう瞬間もまた、いいものです。今回は、理由の説明はできないけれど……なぜか、読後泣いてしまっていた。

そんな私の心に長く残っている三作品を紹介させていただきます。

泣いてすっきりして笑って、みなさんが明日からもがんばれますように。

染井為人『正体』

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凶悪犯か、無実の青年か……。当時27歳の夫と妻27歳、2歳の息子が惨殺された。逮捕されたのは18歳の少年。無実を訴えるも控訴もできず死刑判決を受け……そして脱獄。

この作品は、さまざまな場所で潜伏生活を送りながら捜査の手を逃れ必死に逃亡を続ける彼を追う488日の物語。……彼の本当の目的は。冤罪とは。罪とは……。何を話してもネタバレになってしまいそうなほど、一瞬一瞬、一文字一文字が“鍵”となっていきます。

終盤まで逃亡する彼の視点で描かれることは全くなく、周りの人間の視点だけで進む構成となっており、そのため、彼の口から現在の心境や恐れが直接語られる場面はほぼなく、読者の想像にそのすべてが委ねられます。……そう、すべて。

でも、だからこそ予想外な結末に切ない余韻、辛い読後感が長く残るのです。誰がこんな結末を想像できたでしょうか……。のめり込んで軽快に読める各章の面白さと、それに反するほど重いテーマをずっしりと感じられる重厚な読後感。読んでいる間はずっと彼のことが怖かった……。

関わる人を惹きつける、彼のやさしさの“正体”が知りたかった。映画化されることも決まっていますが、ぜひ先に活字で味わっていただきたい。涙の種類が変わってきます。

井上真偽『アリアドネの声』

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「無理だと思ったらそこが限界」……この言葉の意味が読む前と後でガラリと変わる本作品。

巨大地震で地下施設に閉じ込められてしまった女性を救う救助劇なのですが……。その女性は“見えない、聞こえない、話せない”3つの障がいを抱えていました。

迫りくる崩落、浸水、火災……。命のタイムリミットは6時間。便りの綱は一台のドローン。臨場感あふれる救助描写と、一秒も記憶に留められないドローンの難解機能説明にただただ圧倒されていきます。

でも、考えてもみてください。目が見えず耳も聞こえない人を遠隔で安全地帯に誘導するなんて“無理”ですよね。危険地帯となった地下から、それもたった一台のドローンで救い出すなんて“無理”ですよね……。

そんな誰もが諦めてしまいそうなほど難関な救出。中盤で生じた疑惑が晴れた瞬間があまりにも鮮やかで、鳥肌が立ちました。そうなるに至った覚悟と恐怖と不安を自分のことのように想像して胸に熱いものがこみ上げてきます。

みなさんならどう誘導しますか……? ラストに見えた絶景はこの先もずっと忘れることなく私たち読者の胸に残ることでしょう。規格外の感動を味わえました。出会えてよかった一冊。

桜庭一樹『砂糖菓子の弾丸は撃ち抜けない』

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“こんな人生、ほんとじゃないんだ”。

図書館の返却棚でふと目に留まった、“ラノベ三大奇書”のひとつでもある本作品。盛大なネタバレともいえる1ページ目から物語は始まっていきます。

変わった性格の転校生とのかかわりを通して、主人公が少しずつ成長していく物語……といえば聞こえがいいでしょうか。青春の、特に塩辛く淋しい部分を凝縮したような味がしました。

ただ気をつけてください……。青春小説のような顔をしながら、意識の隅にたしかにあった何かから容赦なく殴られるような痛みを感じさせてきます。

この物語の登場人物はみんな、心のどこかが壊れているのです。でも、それは普通のこと。この物語は、自分のことを“人魚”だと言い張る少女が、バラバラ死体になるまでの物語……。

正直、心の状態が健康な人にしかおすすめできません。途中で何度かもうここまでか……、もうダメかも、という瞬間があり、今振り返っても苦しくなるような200ページでした。

こんなにもさらっと読めて、こんなにも辛く温かい200ページは初めてです。鬱展開ではあるものの、胸糞小説ではない。痛みと愛を余すことなく書ききった名作。……好きって絶望だ。

■心を揺さぶられ涙して、最後に優しさが香る物語たち

今回は、私の涙腺を揺らした作品たちの中から、それぞれ角度の違う三作品を紹介させていただきました。

どれも苦しい、辛い、だけで終わらず、読後に優しさを感じることができます。周りの目を気にせず物語の世界に浸れることは素晴らしいことです。日常とは遠いところですっきりしたいときに、ぜひ。

■読書タイムのおともに

快適な睡眠環境を提供するためにデザインされた優れたサポートアイテム「テンピュール」のベッドウェッジがおすすめ。

睡眠時だけでなく、さまざまな使い方ができ、たとえば背中を支えて読書やテレビ鑑賞を快適にしたり、足を持ち上げればむくみの軽減や血行促進に役立てたりすることもできます。

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