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自分の手料理に誇りを持っていた主婦、息子に「ファストフードが食べたい」と言われて焦燥感

  • 2024.10.3
「主婦であり母である」ことに自身の存在意義を持つ女性は、少なくない。しかし、健康は「手作りの食事で」守るとかたくなに考えていると、いつしか家族にとって窮屈な存在になってしまうのかもしれない。
「主婦であり母である」ことに自身の存在意義を持つ女性は、少なくない。しかし、健康は「手作りの食事で」守るとかたくなに考えていると、いつしか家族にとって窮屈な存在になってしまうのかもしれない。

2023年の総務省統計局のまとめによれば、15歳~64歳の女性の就業率はパートも含め75パーセントを超える。

主婦である女性たちの中には働きたい人もいれば、そうではないが働かざるを得ない人たちもいるのだろう。男は外で稼ぎ、女は家を守る時代ではなくなっている。

とはいえ、「主婦であり母である」ことに自身の存在意義を持つ女性も少なくはない。

家族に喜んでもらうのが私の生きがい

「たとえ仕事をしていても、家族の笑顔を見るのが私の楽しみだし、家族の健康を守るのが私の仕事だと思っていました」

週5日、パートで働くエリさん(45歳)には、14歳と12歳の息子がいる。夫は口うるさいことは言わないタイプで、エリさんにはいつも「無理するなよ」と声をかけてくれるが、エリさん自身が、自分がいなければこの家庭は回らないと信じていた。

「夫も子どもたちも、私の料理が大好きなんです。夫は外で会食があっても、適当に食べて帰宅後にもう一度食べ直す。息子は友だちの家に泊まりに行って帰ってくると、『やっぱりお母さんのごはんが美味しい』と言ってくれる。そういうのが私の日々の生活のモチベーションだったんです」

「基本的には全部手作り」主義

だから土日には1週間の献立を考えて買い物に行き、せっせと作り置きをし、長男が塾に行く日はお弁当を作り、夫が深夜に帰宅してもおかずを温め直して出した。食べ物が体を作るのだから、食べることをおろそかにしてはいけないと祖母に習ったと彼女は言う。

「時間がないときは冷凍食品も使いますが、基本的には全部手作り。手作りが一番いいとは限らないけど、自分で作れば味の濃さも調整もできるし、母・妻としては自分が作ったものを食べて笑顔になってもらいたいんですよ」

家族に愛される食事を作り、家族に愛される「お母さん」でいることを、彼女は好んでいたし、それが自身のプライドでもあった。

「僕たち、食べたいものがあるんだ」

「自分の時間がなくても、家族が笑顔ならいい。そんなふうに思っていたんですが、子どもたちも大きくなってくると、友だちとファストフードに行ったりするようになりますよね。極力そうさせたくなかったけど、絶対ダメとも言えなかった」

この夏、家族で日帰りドライブをした。昼は到着先で名物を食べたが、夕飯は自宅に帰ってからのつもりだったエリさん。

「ところが渋滞にはまって、帰りがすっかり遅くなって。『帰ったらすぐ支度するからね』と言うと、息子が遠慮がちに『僕たち、食べたいものがあるんだ』って。何でも作るよって言うと、『あのね』とファストフードのとあるメニューを挙げたんです。いつもはお小遣いを心配して選べないから、今日はそれが食べたいって。

夫は大笑いしながら、『そうかあ、セットで食べたらけっこうかかるもんな。よし、じゃあ、今日は好きなものをいくら食べてもいいぞ』って。息子たちは大喜び。え、それってどういうこと? と私は呆然としてしまいました」

私の努力は台無し? ため息をつくしかなかった

持ち帰るのではなく店で食べたいという息子たちに、エリさんはため息をつくしかなかった。夫は、「子どもはああいうものが好きなんだよ。たまにはいいじゃないか」と諭すように言った。

「それがなんだか腹立たしくて。日頃の私の努力は台無しじゃないですか。受験生の長男と来年中学に入る次男の頭脳と体の栄養を考えている私の立場はどうなるのと、かなり気持ちが沈みました」

子どもたちにとって、今はまだわからないし、食べたいものは母親の料理より出来合いのハンバーガーかもしれない。だが、いつか母の愛情はわかってくれるはず。

「母親として、私がこんなに頑張っているのにと押しつけるわけにもいかない。だから余計に落ち込みます」

夏以来、明らかにエリさんの笑顔は減っているのだが、家族はそれにも気づかないと彼女は嘆く。夫に言ったら、「なに、まだあんなことを気にしてるの?」と驚かれ、それもまたイラッときたと彼女は苦笑する。

「母として、妻としての誇りなんて、勝手に自分で感じていただけなんでしょうね。私がいなくなったとしても、おかずなんてどこでも買えるしだれも日常生活では困らない。そういえばお母さんの料理食べたいねなんて、そのうち一度くらい言ってくれる。そんな程度の存在感なんでしょう。そう考えたら虚しくて」

考えすぎだし、人はいろいろな味を食べたがるものだし、息子たちだって一生、きみの料理を食べ続けるわけにもいかないだろと夫は笑った。息子たちと一緒にいられるのは限られた時間。だからこそ、自分の手料理が一番愛されているとエリさんは思いたいのだ。それはエリさん自身が、母として息子たちに愛されている証でもあるから……。

<参考>
・「労働力調査(基本集計)2023年平均結果」(総務省統計局)

亀山 早苗プロフィール

明治大学文学部卒業。男女の人間模様を中心に20年以上にわたって取材を重ね、女性の生き方についての問題提起を続けている。恋愛や結婚・離婚、性の問題、貧困、ひきこもりなど幅広く執筆。趣味はくまモンの追っかけ、落語、歌舞伎など古典芸能鑑賞。

文:亀山 早苗(フリーライター)

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