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【日本橋】三井記念美術館 特別展「文明の十字路・バーミヤン大仏の太陽神と弥勒信仰―ガンダーラから日本へ―」

  • 2024.10.2

文明の十字路・バーミヤン、東京初公開、東西二体の大仏「仏龕壁画 描き起こし図」

三井記念美術館で開催中の特別展「文明の十字路・バーミヤン大仏の太陽神と弥勒信仰―ガンダーラから日本へ―」[2024年9月14日(土)〜11月12日(火)]を見て来ました。

バーミヤンは、古くからユーラシア大陸の各地を結ぶシルクロードの交通の要所「文明の十字路」として栄えた地域です。

『西遊記』の三蔵法師のモデルと言われた唐の玄奘三蔵(げんじょうさんぞう)も同地を訪れ、『大唐西域記(だいとうさいいきき)』に、黄金に輝く東西二体の大仏と、篤く仏教を信仰する国としてバーミヤンを記しています。

バーミヤン遺跡は、現在のアフガニスタン中央を走るヒンドゥークシュ山脈の渓谷の中にあります。 首都・カーブルから西北西に約120㎞、標高2500mの高地にある渓谷の崖に、多くの石窟群をはじめ、かつては東西二体の大仏がそびえ立ち、その周囲を壁画が飾っていました。

2001年3月にイスラム原理主義組織・タリバンにより東西二体の大仏と壁画は破壊されますが、破壊以前に行われた調査時のスケッチや写真をもとに、2022年~23年に壁画の描き起こし図が完成しました。 本展での展示は、東京で初公開となるそうです。

会場では、東大仏と太陽神信仰、西大仏と弥勒信仰(みろくしんこう)の関わりを示すインド・ガンダーラ他の貴重な彫刻を見ることが出来ました。

※特別な許可を得て撮影しています。館内は撮影禁止です。

 

出典:リビング東京Web

右から、大唐西域記 6冊 江戸・承応2年(1653)刊 龍谷大学図書館蔵 通期展示、玄奘三蔵像 1幅 鎌倉時代・13~14世紀 東京国立博物館蔵 展示:9/14~9/27、玄奘三蔵坐像 1軀 鎌倉時代・13~14世紀 奈良・薬師寺蔵 通期展示

そびえ立つ東大仏(ひがしだいぶつ)と西大仏(にしだいぶつ)、壁画から見るバーミヤン東西文明の交流

玄奘三蔵の『大唐西域記』に記されたバーミヤン東西二体の大仏は黄金に輝いていたそうです。 会場入口にはバーミヤン東大仏の在りし日の写真が、西大仏とともに掲示されていました。

バーミヤン東大仏は、像高38mのガンダーラ様式の仏立像で、遺された写真では顔の部分は崩れ落ちており、身体を覆う薄い衣の衣文線(えもんせん)が見えます。 西大仏は、像高55mの仏立像で、衣文線など東大仏より写実的であるとされています。

東西二体の大仏の周囲にはそれぞれ《バーミヤン東大仏龕天井壁画(ひがしだいぶつがんてんじょうへきが)》、《バーミヤン西大仏龕壁画(にしだいぶつがんへきが)》と称される壁画が描かれていました。

東大仏の尊格は「釈迦仏(しゃかぶつ)」と『大唐西域記』に記されているそうです。 西大仏の尊格の記載はないそうですが、壁画から弥勒(みろく)と考えられています。

インドの太陽神《スーリヤ像》

東大仏の仏龕(ぶつがん)天井壁画に描かれていたのは、イランのゾロアスター教の経典『アヴェスタ』に出て来る「太陽神ミスラ」だと考えられています。 ギリシャでは「ヘリオス」、インドでは「スーリャ」と称される太陽神は、複数の馬が引く馬車の輿に乗る姿で表されるところは共通しています。

マトゥーラー出土の《スーリャ像》。上半身裸で、首飾りや腕にも飾りを付け、七頭の馬が引く馬車の輿に乗る姿です。

 

出典:リビング東京Web

スーリヤ像 1箇 マトゥーラー 4〜6世紀 龍谷ミュージアム蔵 通期展示

風神雷神の風神のルーツ!?《風神像(ふうじんぞう)》

グプタ朝の《風神像》。

逆立った頭髪と翻る衣、ぽっこりお腹が恐(こわ)カワイイ風神はユーモラスな雰囲気です。

壁画の太陽神ミスラの上方にも逆立つ頭髪、衣を翻す風神が左右に描かれていて、風神の図像がバーミヤンにまで伝わっていたことを示しています。

日本では、俵屋宗達(たわらやそうたつ)、尾形光琳(おがたこうりん)、酒井抱一(さかいほういつ)が描いた「風神雷神図屏風(ふうじんらいじんずびょうぶ)」がよく知られています。 京都・三十三間堂(さんじゅうさんげんどう)には、国宝《中尊 千手観音菩薩坐像》、国宝《千体千手観音立像》を守るように風神雷神の立像があります。

風神雷神図像の源流がイランや、インドなどにあることが、よく分かる展示です。

 

出典:リビング東京Web

風神像 1軀 グプタ朝・5〜7世紀 平山郁夫シルクロード美術館蔵 通期展示

太陽神信仰と「釈迦仏」、東大仏と《バーミヤン東大仏龕天井壁画(ひがしだいぶつがんてんじょうへきが) 描き起こし図》

《バーミヤン東大仏龕天井壁画 描き起こし図》。 紙本墨画で線描だけの描き起こし図は、太陽神ミスラと周辺の図像がはっきりと分かります。

太陽神ミスラは、周囲が鋸の歯のようなギザギザした円形の光背の中央に立ち、マントを広げ、長い筒袖の衣服で、手に杖と剣を持ち、四頭の白馬が引く馬車の輿に乗る姿であらわされています。 両脇侍に、盾と弓矢を持つ女神、人面鳥、上方左右に天衣を翻す風神の姿。その両側には仏菩薩たちの姿が描かれています。

会場入口の写真からは、東大仏を見上げたときに、天井壁画の太陽神と釈迦仏が重なるように見えます。 太陽神と釈迦仏とのつながり、あるいは釈迦仏を太陽神の象徴としていたのでしょうか。ゾロアスター教と仏教の信仰の融合が感じられます。

 

出典:リビング東京Web

右から、バーミヤン東大仏龕天井壁画 描き起こし図 宮治昭監修・正垣雅子筆 1幅 紙本墨画 2022年、バーミヤン西大仏龕壁画 描き起こし図 宮治昭 監修・正垣雅子筆 1幅 紙本墨画 5幅のうち 2023年 どちらも龍谷ミュージアム蔵 通期展示

《バーミヤン西大仏龕壁画(にしだいぶつがんへきが) 描き起こし図》の兜率天(とそつてん)と「弥勒」信仰

《バーミヤン西大仏龕壁画 描き起こし図》。 弥勒菩薩(みろくぼさつ)の住まう兜率天世界が描かれているとされ、西大仏は下生した弥勒大仏とされています。

中央の壁画が剥落した部分には弥勒菩薩坐像が描かれていたと考えられていて、想定復元図も展示されていました。

釈迦滅後、56億7千万年後の未来に下生して世界を救済するとされる弥勒菩薩は未来の救世主「未来仏(みらいぶつ)」として信仰されて来ました。 西大仏を見た玄奘三蔵は「金色に輝き宝飾がまばゆい」と荘厳な姿を『大唐西域記』に記しています。

 

出典:リビング東京Web

左から、バーミヤン西大仏龕壁画 想定復元図 宮治昭 監修・正垣雅子筆、バーミヤン西大仏龕壁画 描き起こし図 宮治昭 監修・正垣雅子筆 1幅 紙本墨画 5幅のうち 2023年、バーミヤン東大仏龕天井壁画 描き起こし図 宮治昭監修・正垣雅子筆 1幅 紙本墨画 2022年 龍谷ミュージアム蔵 通期展示

ガンダーラの仏伝浮彫、ヘレニズム文化と仏像の造像

原始仏教では、法輪の形で釈迦の姿を表していました。

仏像が作られるようになるのは、ギリシャ・マケドニアのアレクサンダー大王の東征後、ギリシャ神像を伴ったヘレニズム文化がインド・ガンダーラ地方に伝わったことによるとされています。

ギリシャでは、高貴な魂は美しく理想的な肉体に宿るとされ、ギリシャ神話の神々は、理想的な人体表現で表されました。

ヘレニズム文化の影響を受けたガンダーラでは、初めは礼拝の対象の仏舎利(ぶっしゃり)を収めたストゥーパの周りに飾りとして仏伝浮彫が彫られます。 やがて独立して礼拝の対象として仏像が作られるようになります。

仏陀として偉大なる悟りを得た釈迦を、ギリシャ神像にならって高貴な魂を宿す仏像としたのかもしれません。

 

出典:リビング東京Web

特別展「文明の十字路・バーミヤン大仏の太陽神と弥勒信仰―ガンダーラから日本へ―」展示室4 展示風景 三井記念美術館

弥勒信仰、アジアから日本へ

「未来仏」とされ釈迦滅後、56億7千万年後の未来に下生して世界を救済する仏「弥勒菩薩」。 「2~3世紀のガンダーラ地方では既に弥勒信仰」があり、優れた弥勒菩薩像が作られました。

やがて、仏教伝来とともにバーミヤンを含む中央アジアから中国・朝鮮半島を経由して日本へ伝わります。 会場では、ガンダーラから中国・朝鮮半島、日本へ弥勒信仰の広がりを辿る弥勒菩薩像の展示を見ることが出来ました。

《弥勒菩薩交脚像》

上半身裸の菩薩像で、きらびやかな装身具を身に付けた交脚倚坐(こうきゃくいざ)姿の《弥勒菩薩交脚像》(左)です。 引き締まった口元に半眼の穏やかな眼差しが、全体的に調和と均整のとれた美しさを感じさせるガンダーラの優れた弥勒菩薩像です。

 

出典:リビング東京Web

左から、弥勒菩薩交脚像 1軀 ガンダーラ 2〜3世紀 平山郁夫シルクロード美術館蔵 通期展示、兜率天上の弥勒菩薩像 1面 ガンダーラ 2〜3世紀 大阪・四天王寺蔵 通期展示

重要文化財《弥勒菩薩半跏像》

日本では、「6世紀の仏教伝来より弥勒の存在は重要視されていた」そうです。 白鳳時代の重要文化財《弥勒菩薩半跏像》。宝冠をいただき、衣をまとい、装身具を身に付け、右手人差し指は右頬に、左ひざに乗せた右足首の上に左手が置かれた半跏像です。 冠、装身具を身に付けるところは、共通しています。

奈良時代、法相宗の寺院で盛んになった弥勒信仰は、平安時代後期以降も未来仏として信仰の高まりを見せました。 「上生・下生信仰の他、密教、阿弥陀信仰とも関連し、独自の展開を遂げた」とされています。

 

出典:リビング東京Web

重要文化財 弥勒菩薩半跏像 1軀 白鳳・天智5年(666) 大阪・野中寺蔵 通期展示

文明の十字路・バーミヤンを経て伝わったみほとけの教えと、ほとけの姿

インドでゴータマ・シッタールタ釈迦牟尼仏陀が、菩提樹下で降魔成道(ごうまじょうどう)の後、悟りを開き、伝道を開始された初転法輪(しょてんほうりん)から2千数百年。 インド・ガンダーラで生まれた仏像とともに、中央アジアを通り、文明の十字路・バーミヤンに仏教文化を花開かせ、中国・朝鮮半島を経て日本へ伝わりました。

仏像や仏画は、経典に説かれている姿や内容に従ってあらわされるそうです。

バーミヤンの人々の純粋な信仰心が、仏教経典にある釈迦牟尼仏陀を、唯一無二の偉大な存在として、巨大な東大仏にあらわしたのかもしれません。 また、仏法真理の未来への救済を信じて「未来仏」である弥勒大仏を西大仏としてあらわしたのかもしれません。

東西二体の大仏龕壁画の描き起こし図からは、文明の十字路・バーミヤンのかつての繫栄と信仰の息吹が伝わって来ました。

三井記念美術館の特別展「文明の十字路・バーミヤン大仏の太陽神と弥勒信仰―ガンダーラから日本へ―」は11月12日(火)まで。 是非お出かけください。

 

「三館合同キャンペーン 秋の三館美をめぐる2024」

根津美術館、三井記念美術館、五島美術館では、この秋も三館合同キャンペーンを開催しています。 キャンペーン期間中の展覧会どれか1つの観覧済み観賞券で、他の2館の入館料が割引になります。

※詳しくは、各美術館のホームページをご覧ください。

 

出典:リビング東京Web

特別展「文明の十字路・バーミヤン大仏の太陽神と弥勒信仰―ガンダーラから日本へ―」展示室1 東大仏と太陽神 展示風景 三井記念美術館

ミュージアムグッズ

ミュージアムグッズは、線香 鶯梅(660円)、ブックマーカー ラピスラズリ(1‚430円)、和三盆製栗落雁 山からのおくりもの(780円)を購入。

栗落雁は、栗のほっこりした甘さです。

ミュージアムグッズ 三井記念美術館

 

〇三井記念美術館

URL:https://www.mitsui-museum.jp

住所:東京都中央区日本橋室町二丁目1番1号 三井本館7階

ハローダイヤル:050-5541-8600

交通:東京メトロ銀座線三越前駅A7出口より徒歩1分、東京メトロ半蔵門線三越前駅徒歩3分A7出口より徒歩1分、東京メトロ銀座線・東西線日本橋駅B9出口より徒歩4分、都営浅草線日本橋駅徒歩6分B9出口より徒歩4分

 

◯特別展「文明の十字路・バーミヤン大仏の太陽神と弥勒信仰―ガンダーラから日本へ―」

会 期:2024年9月14日(土)〜11月12日(火)

※会期中、展示替えを行います。前期:9/14 ~ 10/14、後期:10/16 ~ 11/12

開館時間:10:00 〜 17:00(入館は16:30まで)

休館日:月曜日 ※9月30日(月)、10月7日(月)、10月15日(火)、10月21日(月)、10月28日(月)、11月5日(火)

入館料:一般1,500(1,300)円/大学・高校生1,000(900)円/中学生以下無料

※ 70歳以上の方は1,200円(要証明)。

※ 20名様以上の団体の方は( )内割引料金となります。

※ リピーター割引:会期中一般券、学生券の半券のご提示で、2回目以降は( )内割引料金となります。

※ 障害者手帳をご呈示いただいた方、およびその介護者1名は無料です(ミライロIDも可)

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