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『世界の幽霊出現録』優しい、イタズラ好き、邪悪だけじゃない世界の幽霊の目撃証言を記録

  • 2024.9.30
ダ・ヴィンチWeb
『世界の幽霊出現録』(ブライアン・インズ:著、大島聡子:訳/日経ナショナル ジオグラフィック)

『世界の幽霊出現録』(ブライアン・インズ:著、大島聡子:訳/日経ナショナル ジオグラフィック)に掲載されている幽霊の目撃証言は、紀元前8世紀のエンドル(イスラエル)から現在までと長いものの、やはり19世紀英国における幽霊の目撃はその質と量において群を抜いている。

1000年も前に築かれたスコットランドのファイビー城では17世紀初めに緑のドレスに身を包んだほのかに光る女性の幽霊(グリーン・レディー)が現れ、目撃報告が幾度もされたという。また、ロンドン郊外のハンプトン・コート宮殿では16世紀に非業の死を遂げた女性の幽霊が今でも目撃されており、2015年にはグレーのドレスを着た女性とみられる幽霊(グレー・レディー)の写真が撮影されている。

なかでも凄まじいのがスコットランドのグラームス城である。スコットランド王マルカム2世が1034年にこの城で殺害され、1383年にはジョン・ライアン卿が決闘で命を落とした。その150年後には城主夫人ジャネット・ダグラスが魔女裁判にかけられ火あぶりの刑に処されているなど、グラームス城はかなり血なまぐさい。もちろん幽霊もたくさん出る。1486年に城のどこかの部屋で拘束され食べものを与えられずに死んでいった「グレーのあごひげの男」の幽霊は20世紀初めに目撃され、火あぶりにされたジャネット・ダグラスの幽霊「グレー・レディー」はいまだに長い廊下を彷徨っているという。そのほかにも骸骨のように痩せ細った「脱走者ジャック」と呼ばれる男の幽霊や、時計台に現れる幽霊「ホワイト・レディー」などグラームス城は幽霊たちで賑やかなのである。おまけにこの城には代々城主であった伯爵家の名をとった「ストラスモア家の呪い」という不気味な秘密があり、あまりにおぞましい内容のためだれにも教えてはならず、代々当主だけに受け継がれている秘密だという。貴族の因習と秘密に幽霊譚という英国ならではのゴーストストーリーのすべてが現実に存在していることに感動すら覚えるのだ。

また英国で有名なのが1977年から1978年にかけて起こったポルターガイスト事件「エンフィールドの魔女」である。母と4人の子どもが暮らす家でビー玉やブロックが宙を飛び、重いタンスが床をずるずると動き、壁をドンドンと乱暴に叩く音がするなど激しいポルターガイスト現象が起こった。この現象の発生中には心霊研究協会によって調査がされており、写真や録音テープなど詳細な記録が残されたことでも知られ、2016年には『死霊館 エンフィールド事件』というタイトルで映画化もされた。また映画といえば『悪魔の棲む家』(1979年)のモデルとなったアメリカのアミティビルにある大邸宅の怪奇現象も本書では取り上げており、一家惨殺事件の現場となった大邸宅に越してきた家族に起こった怪異の真相とその顛末はとても興味深かった。

とはいえ、本書に登場する幽霊たちには悪意を持ったものはひとつもなく、恐怖を覚えることはない。なかには気がつくと部屋のものが整頓されているという、とても綺麗好きな幽霊の証言に心温まることもある。

本書はこれまでの「幽霊の目撃」を集めただけの凡百の本とは一線を画している。それは時代や場所(実在しかつ所在は明確)、そして目撃者の氏名まではっきりとしている点だ。柳田國男の『遠野物語』では怪異の体験者が実名で登場することで実際に証言としてのリアリティを帯びて現代にも受け継がれているのと同様に、本書は幽霊という存在のリアリティを読者に深く印象付けているのである。

文=すずきたけし

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