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怪異に宣戦布告?!とある高校に流布する怪談話「きれいな本」の真相とは。梨氏による新感覚ホラーモキュメンタリー

  • 2024.9.30
ダ・ヴィンチWeb
『お前の死因にとびきりの恐怖を』(梨/イースト・プレス)

昔から心霊現象が苦手で、日頃、ホラー作品に手を伸ばす機会が少ない。しかし、梨氏による『お前の死因にとびきりの恐怖を』(イースト・プレス)は、装画の爽やかさと、謎めいた帯文に惹かれた。

“私は、怪異に、宣戦布告します”

「新感覚のホラーモキュメンタリー」と謳われる通り、本書はこれまでのホラー作品とはまったく違う恐怖を体験できる。

とある高校の文芸部の部室から、謎めいたデータが入ったUSBメモリが発見された。本書で描かれる怪異は、このデータの一部によるものである。

過去、ある男子生徒が自殺した。その事件を何者かが意図的に捻じ曲げたであろう痕跡が、USBメモリには残っている。誰が、どんな目的でそんなことをしたのか。データに残っているファイルに信憑性はあるのか。章ごとに切り替わる証言者の語りと共に、事件の謎が一足ずつ迫ってくる。

第2章で証言するのは、新聞部副部長の高松啓登。高松たち新聞部員は、自身の高校に伝わる怪談話「きれいな本」にまつわる記事を校内新聞に掲載する予定であった。しかし、普段は執筆内容に寛容な教師から、記事掲載にストップがかかる。そのことに違和感を覚えた新聞部員は、「きれいな本」に関する情報を集めるべく、怪談話の舞台である文芸部で捜索を開始した。

結果として、文芸部の部室からは目ぼしいものは見つからなかった。だが、その後、新聞部の大掃除をしている最中に「夏号 平成二十八年刊行」と印字された冊子が発見された。その冊子が「きれいな本」である可能性は極めて高いと見られたが、校内で語り継がれてきた怪談話に合致する内容ではなかった。ただ、冊子の袋とじ内には、「真」なる人物が精神的に追い詰められていく描写が赤裸々に綴られていた。そこには、先述した自殺者の最期を捻じ曲げることを目的とした文章が書き連ねられており、その執念と不気味さはゾッとするほどであった。

第3章以降は、合唱部生徒の証言や書き残されたメモをもとに、事件の考察が続く。それによると、自殺した生徒は「及川悠真」で、彼の死と関係がある「きれいな本」を書いたのは「永井理生」という女子生徒だと特定された。「きれいな本」の登場人物は「真」。「悠真」なる名前との符合に、肌が粟立つ。その後、第6章を境に物語は急転する。

“死んだ人のことは、できるだけ可哀想な目に遭わせなければならないのだから。”

第6章冒頭に記されたこの一文を読んだ時、はじめは背筋を走り抜けるような怒りを感じた。恐怖ではなく、怒り。死者を冒涜するかのような行動は理由がいかなるものであろうとも、決して許されない。しかし、物語後半、真相が明らかになるにつれて私の怒りは急速に萎み、自身の短絡的な感情を恥じた。人が過ちを犯す時、そこには往々にして抗いようのない理由がある。その理由を知ってなお、他者を断罪できるほど私は立派な人間だろうか。いや、私はそれほど“きれい”な人間ではない。

人が恐怖を感じる対象は実にさまざまだ。怪異に恐怖を感じる場合もあれば、人間そのもの、もっと言えば「生きていること」そのものに恐怖を感じる場合もある。命は大切で、生きていることは尊くて、自殺は間違った行為。その主張自体は、言わずもがな正論なのだろう。だが、限界まで追い詰められた人間が最後の一線を踏み越えてしまったとして、その決断を誰が責められようか。身近な人が命を絶った時、痛ましい現実を受けとめるのは困難だ。そのような葛藤の最中、もし周囲が故人の決断を咎めるような発言をしたら、心を痛める人は存外多いのではないだろうか。

“フィクションだからって現実に影響を及ぼさないなんて、誰が決めたの。”

学校の怪談、お札、集団ヒステリー、大量のカミソリ。ゾッとするモチーフが次々に登場する本書において、私の心がもっとも震えたのは、この一文だった。フィクションは物語で、いわば創作物である。だが、現実に多大なる影響を及ぼすことは過去の作品が証明している。悪意のない罪、救えなかった罪、救われなかった魂。本書で描かれる怪異と恐怖は、人間の根底を容赦なく炙り出す。私が手を伸ばすきっかけにもなった美しい装画の真相も含めて、ミステリー要素をも味わえる本書は、間違いなく「現実に影響を及ぼす」一冊であろう。

文=碧月はる

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