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「ツッコミガチ勢」と名乗る僕が考える「ツッコミ」とは/ツッコミのお作法①

  • 2024.9.30

はじめまして、トンツカタンの森本晋太郎と申します。

普段はトンツカタンというトリオで、お抹茶と櫻田(佑)という二人の相方とコントをやってツッコんだり、たまに漫才をやってツッコんだりしています。個人の活動として大きなところでは、芸人さんをゲストに招いて白い部屋の中でひたすらボケてもらい、僕が100回ツッコむまで出られないYouTubeチャンネル「タイマン森本」などがあります。そうです、みなさんが思ってる以上にツッコミに全振りした芸人です。ちなみに他媒体で連載しているコラムのプロフィール欄には「趣味でもあるツッコミに特化したYouTubeチャンネル「タイマン森本」も好評」と書かれていました。どうやら仕事と趣味を両立させる形でツッコミをやっていたようです。素敵なベン図ですよね。

突然ですが、みなさんはご自身の人生初ツッコミを覚えていますでしょうか?僕は幼稚園から高校までインターナショナル・スクールに通っていたという特殊な経歴の持ち主なのですが、小学校3年生のある日にその瞬間は訪れたのです。授業が始まる前の教室で日本語がしゃべれる同級生たちと雑談で干支の話になりました。僕の学年は大体みんな午年(うまどし)か巳年(ヘビどし)です。

「俺はウマ」 「僕、ヘビ」 「俺もヘビ」

その流れで、近くにいた日本語が堪能なインド人のネハル・ドシ君にも「お前、何年?」と誰かが聞きました。 「俺、ネハルだよ」 「そっちのドシじゃねぇよ!」

まるで雷に打たれたかのように全身にゾクゾクと痺れる感覚が駆け巡りました。確実になにかの歯車が動き出したのです。

「い、今のはなんだったんだ……?」

さながら能力が覚醒した主人公のように、意味もわからず両の掌を見つめながらそうつぶやきました。

その後、お笑いをよく観るようになった僕は、あれが「ツッコミ」だったと知ります。そしていつのまにか、誰かが何かズレたことを言ったときにそれに言葉を添えて説明したり状況を俯瞰して整理したりする役回りになっていきました。インターナショナル・スクールというツッコミ不在の環境の中で、数少ないお笑い好きの友人たちからは「晋太郎はツッコミだよね」と言われることも多かったです。ちなみに、記念すべき生涯初ツッコミ「そっちのドシじゃねぇよ!」は特にウケてはいませんでした。なんなら少しスベっていたと思います。史上初、不発のターニングポイントでもありました。

特徴がない「一般人」ツッコミといわれて

今回「ダ・ヴィンチWeb」さんで連載をさせていただくことになり、編集者の方からは「ツッコミを通じて、人との心の距離を縮める方法を伝授してほしい」とお話をいただきました。ずいぶんと壮大なオファーです。まだ芸歴12年目、テレビに多少出させてもらっているとはいえ基本的にすべて24時以降という逆シンデレラ状態。ネクストブレイク枠に長々留まり続けている人間にはかなり荷が重いです。とはいえ、僕も各種SNSのプロフィールで「ツッコミガチ勢」を名乗っている身です。せっかくなのでグダグダ言ってないで思い切って引き受けてみようと思います。「ダ・ヴィンチWeb」で連載してるってかっこいいですし。

そもそもツッコミとは何か? あらためて自分の言葉で説明するのも小っ恥ずかしいですが、まず大前提として基本的には、おかしなことを言っている・やっている「ボケ」という現象を正す役割です。

ただ、ツッコミ芸人と呼ばれる人の中にはいろいろなタイプがいます。僕がお笑いを志したきっかけであり、今も憧れ続けているくりぃむしちゅーの上田(晋也)さんのように喩えを駆使する人もいれば、バイきんぐの小峠(英二)さんのように強いツッコミで真っ直ぐ笑いをとる人もいます。最近だと、きしたかのの高野(正成)さんのように感情を爆発させるタイプもいますし、漫才における東京ホテイソンのたけるのようにツッコミボケと呼ばれるようなタイプもいます。ざっくり分けると「パッション」と「ワード」の2つの軸があるといえるかもしれません。

ちなみに僕はというと、「ど真ん中」だそうです。「だそうです」というのは、以前ある番組でそう断言されたからです。

サンドウィッチマンさんとアンタッチャブルさんの番組『アンタウォッチマン』(テレビ朝日系)で、ツッコミにフィーチャーした回が放送されたときのこと。ありがたいことに僕らトンツカタンも呼んでいただきました。番組にはほかにも若手芸人が数組出演しており、それぞれのツッコミが「テクニック」か「勢い」、「冷静」か「感情」のどこに寄ったタイプなのかを分析してポジショニングマップを作るというコーナーがありました。

自分はどこに位置するのかワクワクしているうちに僕の番が回ってきました。進行役のアンタッチャブル柴田さんが「彼はここですね!」と森本の名前をペタッとフリップに貼ります。その位置は、4方向のどこにも向かわないグラフのど真ん中。スタジオのほかのお三方からは「特徴がないってことでいいのね?」「万能型? なんにもないんじゃなくて?」と疑問が続出し、最終的に「一般人の中ではいちばん面白いツッコミ」という結論になりました。さっき「ありがたいことに」とお伝えしましたが、正式に撤回させてください。ただ、自分が無個性タイプのツッコミなんだとあらためて自覚する機会にはなりました。

ひとつのボケも無駄にしないことを目指す〈ボケロス削減ツッコミ〉

今のお笑い界ではスター性があって自然と前に出てくるフロントマン気質のツッコミの方もいますが、僕はあまり前に出る性格ではありません。一歩引いて、ボケの面白さを汲み取って伝える役割に徹するツッコミが性に合っています。この連載のようにツッコミにスポットを当てていただくこともありますが、あくまで本質的にはボケの人ありき。誰もボケなくなったら商売上がったりの存在です。

だからこそ、どんなボケも絶対に切り捨てたり見捨てたりせずに必ず最後までツッコむと決めています。ボケのロスゼロを目指す、〈ボケロス削減ツッコミ〉とでもいえるかもしれません。

もちろん、今の僕の実力では全てをツッコミで笑いに変えることはできません。僕の知識や経験不足によりお手上げの場面もあります。それはもう多々あります。なんなら昨日もありました。そういうときもどうにかあがいて持ちうる最善の言葉選びをした上で、「すみません、今回は僕のせいであなたの面白さを伝えきれませんでした」と思いながら一緒に散るというのがポリシーです。長々と説明してしまいましたけど、要はいつでも一緒にスベることはできますということです。決して胸を張って言うようなことではないですよね。

以前、『トシちゃんに会いたい』というライブがありました。トシちゃんこと田原俊彦さん愛あふれる7人の芸人が集まり、その中から「本物のトシちゃん」を決めるというベリークレイジーライブで、僕はトシちゃんではなくMCを務めました。それぞれが思うトシちゃんになりきって登場するオープニングから、ダンスを披露する「悩み事を隠すトシちゃん」コーナー、各自による即興コントのはずが勝手に合同コントになった「即興トシちゃん」コーナー、レイザーラモンRGさんがただただ「ごめんよ 涙」を歌いきった「イントロトシちゃん」コーナーなど、2時間以上にわたって繰り広げられた全トシちゃんボケを、僕なりに必死で食らいつきました。ジェネレーションギャップもあって正直なんのことかよくわからないディープなトシちゃんボケにもとにかくツッコんでいたらなぜか最終的には僕がトシちゃんということで幕を閉じました。今でもなぜ僕が本物のトシちゃんになったのか説明できません。

終演後、出演していたハリウッドザコシショウさんから「君、いいよ」と声をかけてもらいました。ザコシショウさんとはその半年くらい前に、Abemaの『マッドマックスTV』という番組でご一緒したのが初対面。ザコシショウさんと永野さんとトム・ブラウンみちおさんと僕がひとつの部屋に入れられ、同時にボケてくる3人に僕がツッコミ続けるという、本来この世にあってはならない企画でした。なので、『トシちゃんに会いたい』の後にかけられた一言は、前回の収録も踏まえて僕のツッコミとしてのスタンスに対して言ってもらったことなのかな、となんとなく感じました。

後日、渋谷凪咲さんとザコシショウさんの番組『凪咲とザコシ』(テレビ朝日系)に呼んでもらう機会がありました。内容は「トンツカタン森本のプロフィールを勝手に予想!」。何も知らされていない僕がスタッフさんから聞かれるままに答えたプロフィール情報がクイズになっていて、それをお二人が当てるという企画です。

その中のひとつに、「芸人としてこれだけは負けないと思うところ=ボケと???する覚悟」というクイズがありました。それを見たザコシショウさんは「心中でしょ」と即答。まるで見透かされているようで気恥ずかしいのと同時に嬉しさが込み上げて来たのを覚えています。

その後、「スベってるボケを捨てないで拾ってあげる、それがたとえウケなくても俺は拾うよ、ってことでしょう」「ボケの芸人からしたら全部乗ってくれて、本当にありがたいよね」と真正面から褒められて、めちゃくちゃ嬉しかったです。そんな話をザコシショウさんにしたことは当然なかったのですが、たった2回の共演でも伝わる人には伝わるんだ、これでいいんだ、と思えた瞬間でした。

用意してきてくれる相手に最大限のリスペクトを

この気持ちは「タイマン森本」を始めてから一層強くなりました。撮影に向けて、僕は特になんの準備もしていきません。ふらっと現場に行ってツッコませてもらうだけです。一方、ゲストに来てくれる芸人のみなさんは収録の数日前から「何をやろうか」と考えてくれて、そのために衣装を買ってきたりわざわざ小道具を作ってきてくれたりします。だからこそ絶対的なリスペクトを持って、なるべくすべてが活きるように相手をさせていただく。結果として、初対面の方でも「タイマン」を1回やるとライブを数本一緒にやったぐらい関係性が深まっているような気がします。あくまで僕視点なので片思いかもしれませんが。

これを読んでくださっているみなさんは、日常生活で周囲の人からひたすらボケてこられる機会はそうそうないと思います。少なくとも、「部屋に入ってきてください」と言っているのに、ドア付近で入ってきそうで入ってこないという奇行を繰り返す相手に100回以上ツッコむことはないでしょう。

でも僕がネハルくんに「そっちのドシじゃねぇよ!」とツッコんだように、周りの人がなんかちょっとズレたことを言ったりやったりしてる場面に出くわすことは時折あると思います。そういうときに無視したりせず、なるべく返したり広げたりする姿勢を見せ続けると、自分を受け止めてくれる存在として信頼してもらえるかもしれませんし、「なんかコイツやかましいから距離置こうかな」と思われるかもしれません。そりゃ、世の中いろんな人がいますから。

取材・文/斎藤岬

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