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継ぎたいと思うレストラン文化を生み出し、未来につなぐ──音羽香菜/Otowa Restaurant【食から社会を変える vol.4】

  • 2024.9.30
総料理長を務める長兄の元(右)と。次兄の創は共同シェフと同社代表を兼任する。ゲストに開かれたオープンキッチンはまさに劇場。Photo_ Nobuko Baba
総料理長を務める長兄の元(右)と。次兄の創は共同シェフと同社代表を兼任する。ゲストに開かれたオープンキッチンはまさに劇場。Photo: Nobuko Baba

本当に自分にできるのか──日本人初、史上最年少。世界各国の高級ホテル・レストランが加盟する国際組織「ルレ・エ・シャトー」の国際執行委員への就任の打診に、音羽香菜は、一瞬耳を疑った。 父・和紀が、美食で地方を変えたいと、栃木県宇都宮市にレストランを構えたのが1981年のこと。音羽は英米の大学に学んだのち、アメリカのホテルで経験を積み、27歳で帰国後は、父の店のイベント部門を担当してきた。打診があったのは、三男を出産したばかりの頃。「共働きで、年に4回もの海外出張をこなすことなどできるのだろうか」。不安もあったが、夫の賛同も得て、「多様な視点を持つ者同士が議論することで進化をもたらす」という組織の趣旨に「自分だからこそ、できることがあるかもしれない」と受諾した。夜は店に出ることも多く「家族団欒は朝食で」というほど多忙を極める毎日。でも、レストランは、人を幸せにする夢のある仕事。ネガティブな印象を持ってほしくないので、決して『ごめんね』とは言いません」。自身も、忙しく働く両親を見て育った「かつての子ども側」、家族で過ごした休日の思い出はごくわずかだ。父から「継いでほしい」と言われたことは一度もない。それでも、「家族と過ごす時間を何よりも大切にし、仕事もプライベートも120%楽しんでいた父を見ていた」きょうだい全員が店を継いだ。

地元食材のヤシオマスを使った色鮮やかなシグネチャー。Photo_ Courtesy of Otowa Restaurant
地元食材のヤシオマスを使った色鮮やかなシグネチャー。Photo: Courtesy of Otowa Restaurant

この業界で働く素晴らしさを感じてほしいと、昨年デンマークで行われたルレ・エ・シャトーの総会に、当時8歳の長男と出席した。「世界中のメンバーが息子を連れている私に温かい視線を向けてくれ、直接話しかけてくれました」。時代の移り変わりとともに、社会も変わってきた。「お客様至上主義で休日返上で働く時代から、店の都合や考えをきちんとお客様に説明し、理解してもらうことができる世の中になってきました」。自分は誰で、何を大切に、どんな未来を描いているのかを伝える「コミュニケーションと相互理解」を進め、お互いに歩み寄り、凸凹をパズルのピースのように埋めていくことが、持続可能な社会につながっていくと考える。

広い店内は機能性に富み、窓際の一角は個室としても使われる。Photo_ Nobuko Baba
広い店内は機能性に富み、窓際の一角は個室としても使われる。Photo: Nobuko Baba

今回の挑戦を経て、「本当にやりたいことがあったら、できるようにするためには何が必要なのかを、強い意志を持って、戦略的に考える」ことの重要性を学んだ。「宇都宮に美食を中心とする文化を生み出す」という夢の実現には、数世代による継続が必要だと考えた父は、子どもたちを見事に巻き込んでいった。「今思えばそれは父の『戦略』だったんです。私も、思い切り楽しむ姿を見せながら、次世代が『継ぎたいと思う』レストラン文化を生み出し、未来につないでいきたいです」

Text: KYOKO NAKAYAMA Editor: Yaka Matsumoto

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