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8年前の名作でブレイク前の主役級俳優が“迷”キャラクターを…!豪華キャスティングの“クドカンドラマ”を振り返る

  • 2024.11.5

2016年に放送され、多くの視聴者から共感を得た『ゆとりですがなにか』。「野心がない」「競争意識がない」「協調性がない」と揶揄され、“ゆとり世代”と勝手に社会に括られた、アラサー男子3人が、仕事や家族、恋や友情に迷い、あがきつつ、それぞれ人生に懸命に立ち向かう物語。宮藤官九郎が脚本を担当した、笑いあり涙ありの痛快社会派コメディだ。

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(C)SANKEI

クドカンならではの共感必至の物語

2017年にはスペシャルドラマ『ゆとりですがなにか 純米吟醸純情編』が放送され、その後、スピンオフドラマ『山岸ですがなにか』も配信された。そして、2023年には続編となる映画『ゆとりですがなにか インターナショナル』も公開。本シリーズが長きにわたってファンを惹き付け続けているのは『池袋ウエストゲートパーク』同様、宮藤ならではの、時代に沿った共感必至の要素がたっぷりと盛り込まれているからではないだろうか。

食品メーカーの営業マン・坂間正和(岡田将生)、小学校教員の山路一豊(松坂桃李)、風俗店の呼び込みをしている道上まりぶ(柳楽優弥)。一見、接点のない3人は、“レンタルおじさん”と呼ばれるフリーカウンセラー・麻生厳(吉田鋼太郎)を介して繋がることに。正和と山路は麻生の顧客、まりぶは麻生の息子で、それぞれ性格も異なり仕事で関わることもないが、やがて親友と呼べる存在になっていくのが面白い。

仕事や恋愛における面倒な人間関係を描く

正和は、「ゆとりモンスター」と呼ばれている問題児の後輩・山岸ひろむ(仲野太賀)に振り回されたり、会社の系列の居酒屋に出向を命じられ店長として苦労するなど、悩みが尽きない。結婚を目前に交際している恋人・宮下茜(安藤サクラ)は、同期入社だが、明らかに正和より有能な社員だ。

山路は、自分や相手がセックスによって変わってしまうことを恐れるあまり、ずっと童貞を貫いている。生徒思いの良い教師ではあるが、教育実習生の佐倉悦子(吉岡里帆)を恋愛対象として見てしまうなど、恋やセックスに対して拗らせるタイプ。

まりぶは、幼少期は神童と呼ばれるほどの秀才だったが、複雑な家庭のせいで挫折し、現在は水商売に身を置きながら、東大合格を目指して11浪中。内縁の妻との間に娘が1人いる。

毎日、さまざまな問題が巻き起こる中、1つひとつ解決していく3人や周囲の人々の様子には、共感するところが多い。特に、仲野が演じる山岸の態度や発する言葉には「いるよね、こういうヤツ」と頷いてしまうが、クドカン節全開の個性的で、時代を反映したセリフは、迷言のようにも聞こえるが、名言として突き刺さってくるものがある。

どの世代にも刺さる数々の名言

本作に登場したセリフの中で印象的だったものに、「飲み会? それって強制参加っすか?」「忙しくてメールチェックしてないんスよね、次からLINEでお願いしまーす」「道分かんなくて駅からタクっちゃいました」などがある。職場で上司などに、こんな口調で話してしまう山岸にイラッとしつつ、今は昔とは違うのだから仕方ないのかも……と思わざるを得なくなったりする。

一方、“ゆとり世代”として括られることにムッとしがちな正和が、「みんな違う。クズだけど、それぞれ違うクズなんだから。ゆとりなんて言葉で括らないでください」と言い放つセリフがある。これは自虐ともとれるが、個人個人を一括りにされることへの苛立ちは、どの世代でも共感できるので、名言の1つだと思う。

また、童貞を捨てられない山路による、「世界中の女と試すのは無理じゃん。つか、無しじゃん? 1人を選ぶってことは、それ以外を捨てるってことだよ。だったらさ、1人も選ばなければ、誰も捨てない、誰も傷つけない、俺も傷つかない。これ、間違ってる?」というセリフは、傷つきたくないから深い付き合いはしたくないという、少なからずそう思っている人がいそうな現代社会において、クドカン作品ならではの名言の1つではないだろうか。

今を時めく実力派の人気俳優たちが集結

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笑って泣けて、心に染み入ってくるセリフやシーンが多い『ゆとりですがなにか』。最近は朝ドラ『虎に翼』や、放送中のドラマ『ザ・トラベルナース』、映画『ラストマイル』などで活躍している岡田を筆頭に、10月期の主演ドラマ『ライオンの隠れ家』が話題の柳楽、昨年はドラマ『VIVANT』での出演が注目され、公開中の映画『スオミの話をしよう』でも主要キャラクターの1人を演じている松坂と、人気・実力ともに高い3人が共演しているシリーズとして、名作ドラマの1本として選びたい作品だ。

山岸を怪演した仲野も、『虎に翼』で“朝ドラ史上最も理想的な夫”を演じたほか、2026年放送予定のNHK大河ドラマ『豊臣兄弟!』の主演に抜擢されるなど、今、大注目を浴びている俳優。茜役の安藤は言わずもがな、朝ドラ『まんぷく』や『ブラッシュアップライフ』などの主演ドラマや、数々の映画で高い評価を受ける名優だ。人気俳優が一堂に会し、個性的な演技を披露している『ゆとりですがなにか』は今観ても、いや、今観るからこそ楽しめる傑作だと思う。

ブレイク直前の主役級俳優が“迷”キャラクターを好演

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(C)SANKEI

最後に、本作で筆者が忘れられない爆笑シーンについて紹介したい。悦子の彼氏・小暮静磨が、彼女が山路と浮気していると思って小学校に乗り込んでくる一幕がある。静磨は山路を「やまみち」と呼び、教諭を「きょうろん」と読むほどのおバカ。静磨は悦子の携帯を盗み見ようと、暗証番号を「0000」から順番に打ち込んでロックを解除。山路とのやり取りは消去されていたが、予測変換でメッセージを復元するという執念深さを見せ、見ている側の笑いを誘う幕があった。

そんな静磨を演じたのは、今では主役級俳優となった北村拓海だ。オーバーオールとファッションメガネを愛用している“迷キャラクターの静磨に扮した、ブレイク前の北村の名演技も『ゆとりですがなにか』の見どころの一つ。ぜひチェックしてみてほしい。



ライター:清水久美子(Kumiko Shimizu)
海外ドラマ・映画・音楽について取材・執筆。日本のドラマ・韓国ドラマも守備範囲。朝ドラは長年見続けています。声優をリスペクトしており、吹替やアニメ作品もできる限りチェック。特撮出身俳優のその後を見守り、松坂桃李さんはデビュー時に取材して以来、応援し続けています。
X(旧Twitter):@KumikoShimizuWP