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ショッキングなシーンで幕開け… 予想できない考察要素に期待高まる“異色の教育ドラマ”

  • 2025.1.23

人生の勝ち組とか負け組という言い方が日本社会に定着して久しい。恵まれた家庭に生まれて良い高校に入り、良い大学に行き、良い会社に就職する「上級国民」を目指している人も多いだろう。

TBSの日曜劇場の新ドラマ『御上先生』は、そんな現代の価値観に警鐘を鳴らす作品となりそうだ。ただ自分の利益のために上を目指すのがエリートなのではない、真のエリートとは何かを問いかける異色の教育ドラマだ。

受験生刺殺、不倫、天下り、3つの事件に関わりが?

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日曜劇場『御上先生』第1話より (C)TBS

第一話の冒頭、いきなり国家公務員試験会場で受験生が刺殺されるというショッキングなシーンで、本作は幕を開ける。そのニュースは文部科学省のオフィスを騒然とさせるが、主人公の御上孝(松坂桃李)は意に介さず、荷物のパッキングに忙しい。彼は、これから私立隣徳学院3年2組の担任教師になるべく、派遣されるのだ。

教師としての初日、御上は受験を控えた生徒たちに対して挑発的に振舞う。生徒も副担任の是枝(吉岡里帆)も反発するが、中でも報道部の部長・神崎(奥平大兼)は、御上を失脚させようと独自に調査を開始。御上が高校に派遣されてきた原因をスクープして校内新聞で発表する。

御上は、天下りあっせんの容疑をかけられており、それを同僚にリークされ、ほとぼりが冷めるまで高校に飛ばされてきたのだと神崎は新聞に記載した。御上はそれは「だいたいにおいて事実」だと認める。

神崎は、教師の不倫を暴き辞職に追い込んだことがある。御上はそんな神崎に対して、そんなゴシップを報じてどうするんだと、またも挑発していく。そして、自分には天下りの事件を起こした記憶はない、他者の不正を肩代わりしたということをほのめかしていく。そして、「本当の闇を知りたければ、僕を手放すな」と告げ、自分が巻き込まれた天下り事件と、神崎が暴いた教師の不倫、そして冒頭の刺殺事件にはつながりがあるかもしれないと言い出すのだ。

一見、無関係な3つの事件にどんなつながりがあるというのか。御上は「バタフライ・エフェクト」を例に取って説明する。「ブラジルの蝶の羽ばたきが、テキサスで竜巻を引き起こすか?」という問いから説明されるバタフライ・エフェクトは、個人の小さな行動が予期せぬ大きな出来事を引き起こすこともあることの比喩として用いられる言葉だ。

「教師の不倫を暴いたら刺殺事件が起きて、天下りも発生するのか?」と視聴者は疑問に感じることだろう。それらの因果関係が考察要素となり、このドラマの物語を牽引していくことになりそうだ。

真のエリートとはどういう人物か

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日曜劇場『御上先生』第1話より (C)TBS

本作は、そんな事件の真相を巡る物語を通して、「エリート」の意味や教育の目的について考えさせてくれる内容になりそうだ。担任としての初日、御上は生徒に向かって、ただ自分が良い暮らしをしたいだけの上級国民とエリートは本来違う意味だと語る。エリートの語源はラテン語で意味は「神に選ばれた者」だそうだが、御上は「真のエリートは弱者に寄り添う者のこと」だという。

確かにエリートという言葉は、一般的に良い学校を出て高い給料をもらっている人々のことを指すようになっている。しかし、そんな自分の利益だけを追求する者は本当のエリートではないと、御上は言うのだ。

赴任してきた隣徳学園は、有数の進学校で勉強のできる人間の集まりだ。そこから御上のように官僚になる人も多い。そんな生徒たちに受験戦争で勝ち抜くだけではない、学びのあり方をも御上は提示したがっているように見える。

御上は、日本の教育を変えたい、そのためには手を汚してでも文科省に残らなければならなかったと生徒たちに打ち明ける。崇高な目標を達成するためには、手を汚す必要があるというのは、矛盾しているが世の常と言える。御上は自分を犠牲にしてそれをやる覚悟をしているのだろう。

松坂桃李の奥深さがドラマ全体の緊張感を生む

主人公の御上を演じるのは、松坂桃李。相手をいらだたせるのが上手いなと思わせたら、次の瞬間には発破をかけて前を向かせるユニークな主人公像を奥深さを感じさせる佇まいで演じている。その真意はどこにあるのか、心の奥底まで見えるようで見えない巧みな芝居が、ドラマ全体の緊張感を生んでいる。

その御上の文科省の同僚・牧野役の岡田将生は人当たりの良い第一印象とは裏腹のどす黒い側面を感じさせる芝居を一話から披露。上司の塚田(及川光博)とともに、天下り事件の真相を知る人物として、物語のカギを握りそうだ。

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日曜劇場『御上先生』第1話より (C)TBS

本作は生徒役に期待の若手俳優が大挙出演しているのも見逃せない。神崎役の奥平大兼は、もう1人の主人公となりそうな存在感を一話から発揮。記者クラブの御用記者をやっている父親への反発で、自分は調査報道をしっかりやるんだと意気込んでいる彼の正義感は、危うさを秘めているものの力強い。彼が辞職に追い込んだ教師の冴島(常盤貴子)はコンビニでアルバイト生活を余儀なくされ、苦しい生活を強いられていることを御上に突き付けられる。そして、その記事が天下りや刺殺事件とどうつながるのか、そして事件の真相をめぐって彼の調査能力がどう活かされていくのか、注目だ。

その他、クラスメイトには蒔田彩珠や髙石あかり、影山優佳、永瀬莉子といった若手俳優が揃っている。今後、これらの生徒にスポットが当たるエピソードも描かれていくのだろう。

御上の言動は危ういものの、日本の教育を根本から良くしたいという情熱は本物のようだ。考察要素に加えて、そんな社会派的な要素もあり、見ごたえある物語が展開されそうな第一話となった。

TBS系 日曜劇場『御上先生』 毎週日曜よる9時



ライター:杉本穂高
映画ライター。実写とアニメーションを横断する映画批評『映像表現革命時代の映画論』著者。様々なウェブ媒体で、映画とアニメーションについて取材・執筆を行う。X(旧Twitter):@Hotakasugi