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こうすれば再び株価大暴落が起きても耐えられる…市場の変化にビクともしない鋼メンタルを持つ人の投資基準

  • 2024.9.30

夏以降、株式市場が荒れている。長期投資家の渋澤健さんは「インデックスファンドを買っている人の多くが、『価格(株価)』だけを見て、個々の企業の『価値』を見ていない。価値を見極めて購入していれば、一時的な値動きに影響されず冷静な判断ができるはずだ」という――。

投資は世の中の成長を身につけること

投資を英語にすると、「インベスト(INVEST)」。

「ベスト(VEST)」に「入れる(IN)」という意味です。

つまり、世の中の成長を身につける。

いわば、「日常生活圏外から、いろんな視点や成長を呼びこむことができる引換券を自分のベストのポケットに入れる」というような意味合いですが、投資初心者にとっては、個別銘柄の投資先については未知の領域であるのが問題です。

だから「全体」や「平均」を買うインデックスファンドを買う。これは非常に合理的なことですが、盲点があることを前回述べました。インデックスファンドを買っている人の多くが、「価格(株価)」だけを見て、個々の企業の「価値」を見ていない、あるいは気にしていないということです。

本来、株式市場というのは、個々の会社の価値創造が反映される場ですから、投資する会社それぞれにあるストーリーや価値を見極めていくことは思いのほか重要です。

投資も立派な“推し”である

たとえば私たちには、好みがあります。いろいろなドラマや映画を見て、この役者がいい、ストーリーがいい、監督が好きなど違いを見つけて、こちらから好きになっていく。

ですが株式投資となると、YouTubeの○○チャンネルを見ただけで満足している。極端な話になると、誰かのチャンネル一択で投資先を決めてしまう。

でも、ちょっと待ってください。

株式投資にも好みがあっていいのです。

個々の会社のストーリーを重視し、自分の好みに合った企業の価値を見つけられると、俄然別の側面が見えてきます。「この会社の価値と個性が好きだから、私はこの株を買うのだ」と。

JPX東京証券取引所
※写真はイメージです

そう、投資も立派な“推し”なのです。

ですからたとえ相場がくずれても、そのときはより低い値でその“推しの価値”をより多く購入できる機会になります。

上がっても、下がっても、自分の好みに根差していれば健康的な現状把握ができるのです。数字の上下だけを見ていたら、投資の豊かさにはいつになっても気づけません。

個別銘柄を選ぶときのポイントは

実践の話に移りましょう。

投資信託を買うのもいいですが、前述の通り応援したい会社があれば、個別銘柄を買う選択肢もあります。個人投資家が個別銘柄を選ぶときの参考までに、私が仲間たちと16年前に立ち上げた、長期投資の運用会社「コモンズ投信」の選び方を紹介しましょう。

30年が象徴する、世代を超える価値創造を担う日本企業30社。当社では「コモンズ30ファンド」として、それら30社に投資しているアクティブファンドを運用しています。運用実績は15年ですが、設定来の年率リターンは12.77%。同期間のTOPIXの年率リターンは11.14%、日経平均225は11.48%ですから、インデックスファンドより高い実績を誇っています。この30社については、設定来、半分ほどが変わっていません。

投資対象の30社を選ぶときは、レイヤーで考えていきます。

まず「収益力」。会社が儲かっていること。これは当たり前のことですが、そこには「競争力」が必要です。競争力を高めるには、当然「経営力」があり、社内外の「対話力」が不可欠です。そのベースには、会社を支える「企業文化」がある。

この5つのレイヤーから、われわれ投資委員会で侃々諤々かんかんがくがくと意見を交わし、全員一致したら選択し、全員一致しないと選択しない。全員一致が条件です。このように合議制で進めています。ちなみに全員が一致するのは難しいものですが、世代を超える30年投資について、一人の目線だけに任せることはできません。

会社の価値を教えてくれるPBR

ただし「収益力」は氷山の一角です。その海面に見えているのは、数値化できる財務的な価値です。見える価値は過去の結果から出た数字で、もちろんそれも大事ですが、これから10年、20年、30年先のことを考えると、それだけでは不十分。競争力や経営力といった経過だけでなく、なかなか見えない根幹の価値に投資することが自分たちの役目だと思っています。

そのために大切にしているのが「対話」です。投資先企業がいかに価値創造をしているかを知るために、各企業との対話に時間を割いています。

これまでいろいろな会社と対話を重ねてやや残念に思うのは、「いいものを持っているのに生かし切れていない」会社です。

意思決定が遅い、あるいは会長のキモ入りプロジェクトだからおいそれとはいじれない……、そんな実例がありました。

個人投資家がそれを見抜くヒントに、PBR(株価純資産倍率)があります。PBRとは、企業の株価と純資産の比率を示す指標で、株式市場から見た企業価値の期待値への判断材料になります。つまりPBR=1.0ということは、資本市場から見て、その会社の価値は財務的な「見える価値」になります。悪くはありません。

「PBR」と書かれたニュースの見出し
※写真はイメージです

ただPBR=1.0以上なら、将来、高まる価値がある。要するに資本市場から見ると、見えない価値に対して評価があるということ。一方、PBRが1.0割れならば、その会社は見える価値を毀損きそんしているという評価です。

ですから個別銘柄を選ぶときにPBRに注目することは、見えない価値を見るための重要な判断指標になると知っておいてください。ただ、その企業が見えない価値を可視化できて、財務的な見える価値として可視化できる可能性が高まれば、PBR1.0割れは割安で買い材料になります。

その先のストーリーが買い材料に

繰り返し述べている「見えない価値」を一言で表すと何でしょうか。

それは、人。そこで働いている人です。なぜなら、人がいないと価値をつくることは不可能だからです。

ならば人の価値を可視化する深堀りが必要ではないかと、岸田政権の「新しい資本主義実現会議」で提案したところ、人的資本経営の考え方の流れが生じ、2023年3月から大手企業約4000社を対象に「人的資本の情報開示」が促されました。

本来、人的な情報開示は人事部が持っている内部を管理する数字です。それを外向けに出すことには、各企業の経営層や人事部は戸惑いました。

しかし、私が長期投資家の立場として経営陣や人事部の方にお願いしているのは、「今のリアルな状態を見せてください」ということです。

現状が満足できていない状態でも、将来目指す先はより高い次元だという道標があれば、その期待値が買いの材料になるからです。だからこそ、戦略などをめぐる対話が求められてくるのです。

株式投資を始めたばかりの人は、積立投資であっても決してほったらかしにせず、それぞれの会社の個性を調べることをお勧めします。

100社あれば、100社のストーリーがある。過去のストーリーだけでなく、未来のストーリーも予測してみる。新NISAが、会社のストーリーを知る好奇心の扉になってくれる。これが個人投資家にとって、何よりも大切なマインドであると言えるでしょう。

グラフを描くビジネスマン
※写真はイメージです

構成=池田純子

渋澤 健(しぶさわ・けん)
シブサワ・アンド・カンパニーCEO
1961年生まれ。83年テキサス大学卒業。87年UCLA大学MBA経営大学院卒業。JPモルガン銀行、ゴールドマン・サックス証券会社などを経て、2001年シブサワ・アンド・カンパニーを創業。08年コモンズ投信を設立し、会長に就任。多数の公職と共に、外務省「SDGsを達成する新たな資金を考える有識者懇談会」座長などを務める。著書に『渋沢栄一 100の訓言』(日経ビジネス人文庫)、『SDGs投資』(朝日新書)など多数。渋沢栄一の玄孫(5代目の孫)にあたる。

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