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移民女性の自立をサポートするレストランをつくった理由──ジェシカ・ロスヴァル & キャロライン・カプリオッシ/Roots【食から社会を変える vol.2】

  • 2024.9.29
2020年にルーツを立ち上げたジェシカ・ロスヴァル(右)とキャロライン・カプリオッシ。Photo_ Courtesy of Roots
2020年にルーツを立ち上げたジェシカ・ロスヴァル(右)とキャロライン・カプリオッシ。Photo: Courtesy of Roots

食を通じて社会問題に向き合うマッシモ・ボットゥーラは、「世界で起きている問題の根底には、既成概念で物事を見ることによる、社会の分断がある」と語る。加藤峰子同様、彼のもとで学んだジェシカ・ロスヴァル(加藤とは元ルームメイトでもある)が、友人のキャロライン・カプリオッシとともにイタリア・モデナで行うプロジェクトが、今年6月、「世界のベストレストラン50」で「チャンピオン・オブ・チェンジ賞」を受賞した。

ディナー営業の前に全員で食べるまかないは、皆が「ファミリータイム」と呼ぶ大切な時間だ。Photo_ Courtesy of Roots
ディナー営業の前に全員で食べるまかないは、皆が「ファミリータイム」と呼ぶ大切な時間だ。Photo: Courtesy of Roots
昨年4月には、2022年の「アジアのベストレストラン50」で最優秀女性シェフ賞に輝いた「été」の庄司夏子がボランティアで指導に訪れた。Photo_ Kyoko Nakayama
昨年4月には、2022年の「アジアのベストレストラン50」で最優秀女性シェフ賞に輝いた「été」の庄司夏子がボランティアで指導に訪れた。Photo: Kyoko Nakayama

イタリアで増え続ける難民や移民、中でもシングルマザーの就職率は極めて低い。「社会で最も弱い立場」の彼女たちに無料で料理の職業訓練を行い、訓練修了後に母国の料理を、研修先でもあるレストラン「ルーツ」で数カ月間提供してもらうというプロジェクトだ。女性たちの実地訓練というだけでなく、ゲストからすると、アフリカや中東など、目新しくエキゾチックな料理を楽しむことができ、双方にメリットがある。目指すのは、人々の視点を変えること。「難民・移民は差別されるべきではなく、その独自の文化を持ち込むことで、私たちの文化をより豊かにしてくれる存在」だと二人は語る。基本的に4カ月ごとに研修生は入れ替わるが、卒業後もきちんと料理人として就職できるように就職斡旋も行い、卒業生の就職率はほぼ100%だという。雇用における契約書が差別的な内容になっていないかにも気を配る。

ルーツの料理は研修生の出身地によって替わる。中東の前菜「メゼ」のスタイルで提供された、モロッコ、トルコ、ガーナ料理の盛り合わせ。Photo_ Courtesy of Roots
ルーツの料理は研修生の出身地によって替わる。中東の前菜「メゼ」のスタイルで提供された、モロッコ、トルコ、ガーナ料理の盛り合わせ。Photo: Courtesy of Roots

ルーツは女性たちの居場所でもある。卒業生が足繁く立ち寄り、研修生の悩みに応じることも多い。卒業生の中には、世界の料理人が憧れる、ボットゥーラの三つ星店「オステリア・フランチェスカーナ」の厨房で活躍する者もいる。「本人と相談し、朝からの勤務で、夜に子どもとの時間が取れるベーカリー部門を担当してもらっています」とジェシカ。

ルーツの店内。Photo_ Courtesy of Roots
ルーツの店内。Photo: Courtesy of Roots

今ルーツでは、サービススタッフの育成もスタートし、次の目標として、起業家プログラムも考案中だ。「対象を飲食業界だけに限ってはいませんが、オーナーシェフとして店を開業したいという夢をサポートしたい」と彼女たちは声を揃える。将来的には完全に自立した卒業生たちによるレストランが生まれるかもしれない。またルーツで生まれた国際色豊かな料理を集めた料理本の制作も考えている。「難民・移民による犯罪が多いと言われるけれど、それは社会的に孤立してしまった結果。お互いを理解するための架け橋を作ることは、社会問題解決の基本。このプロジェクトは、美食を通して移民・難民女性の支援をするだけでなく、国籍や性別に関係なく、皆が幸せに、安心して暮らせるインクルーシブな社会を生み出すためのイニシアチブなのです」

Text: KYOKO NAKAYAMA Editor: Yaka Matsumoto

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