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自閉症のわが子が「誤認逮捕」される?悪気のない行動で“誤解”を招かないために

  • 2024.9.29
わが子が「誤認逮捕」されないためにできることは…(画像はイメージ)
わが子が「誤認逮捕」されないためにできることは…(画像はイメージ)

「自閉症スペクトラム(連続体)」という言葉が使われているように、自閉症は軽度から重度まで、さまざまな人がいます。外見ではその人が自閉症とは分からないですが、相手に目が合わなかったり、言葉を発することができなかったりする重度の場合、数秒接していれば、普段、障害のある人と関わりがない人でも分かります。

でも、軽度の場合や知的障害を伴わない場合、仮に「逮捕」されたとき、刑事の誘導尋問にかかりやすいと聞いたことがあります。

例えば、取調室で、こんなやりとりがあったとします。

刑事「君がやったんだね?」本人「君がやったんだね」

このように、本人が完璧な“おうむ返し”をした場合、知識がある刑事は「あれ、おかしな日本語だな。もしかしてこの人は自閉症なのかもしれない」と分かってくれるかもしれません。

子どもの頃だけでなく、大人になってもこの状態であれば、知的障害もあり、自閉症としては軽度ではないでしょう。そのため、親が早い段階で障害に気付き、幼児期から療育手帳を取得しているかもしれません。療育手帳を持っていれば、障害者であることが証明されます。

しかし、ごく軽度の知的障害の場合は療育手帳が交付されません(自治体によって異なりますが、IQがおおむね70~75以下でなければ交付されない)。先述の刑事の言葉でいえば、「君がやったんだね」の「ね」を省略して「君がやったんだ」と詰め寄られたとき、条件反射で「僕がやりました」と反応したら、そして手帳もなかったら、もしかしたら誤認逮捕されるかもしれません。

「絶対に逮捕されないという保証はありません」

実際に、障害者の悪気のない行動が誤解を招き、誤認逮捕されかねないケースとして、私は次のようなことを見聞きしてきました。

【毛玉】

私の息子は、知的障害を伴う自閉症です。息子が学生の頃、特別支援学校で、保護者と地元警察署との勉強会が開催されたときのことです。

ある保護者が「息子は毛玉にこだわりがあり、隣に座っている女性のニットのセーターに毛玉が付いていたら、おそらくそれをちぎろうとすると思うのですが、この場合も痴漢扱いされて、逮捕される可能性はあるのでしょうか?」と質問しました。

警察はこう答えました。

「あくまでも『相手が嫌な思いをした』ら、障害児であっても逮捕される可能性は十分あります。犯意があったかどうかが焦点となるので、釈放はされると思いますが、絶対に逮捕されないという保証はありません」

【ボール】

知り合いにいる、25歳の自閉症の青年の話です。

公園にいるとき、足元に転がってきたボールを拾ってあげて、幼い子に渡しました。「人に会ったらあいさつしましょう」としつけられていた彼は、「遊びたい」という気持ちでボールを渡した後、笑いながら幼児に言葉をかけました。母親は不審者だと思い、警察に通報。その都度、彼の母親はハンコを持って、警察に息子を引き取りに行っていたそうです。

【バスの座席】

特別支援学校のスクールバスで、「奥から順番に座りましょう」「座席は詰めて座りましょう」と教えられていた子。ある日乗った公共のバスは空いていて、乗客はたった3人でした。

でも、その子は学校で教えられたルールを順守して、乗客の女性の横にピタッと座りました。空席はたくさんあるというのに、見知らぬ男性がすぐ横に座ってきたので、女性は運転手に助けを求めたそうです。

【チャックが開いているかばん】

ある自閉症の青年が、見知らぬ女性のかばんのチャックが開いているのが気になって気になって仕方がない様子でした。青年は女性に「チャック閉めてください」と命令。驚いた女性はチャックを閉めましたが、まだ1センチほど開いていました。すると、青年は「チャックを閉めてください」とさらに命令。女性は「警察を呼びます」と携帯を出したそうです。

【気になるロゴ】

私の息子は幼い頃、「コーチ(COACH)」のバッグのロゴに執着していました。私はバッグを持っていなかったのですが、ロゴにこだわっていたようです。

息子は、電車内でコーチのバッグを持っている女性を見ると、ペタッと触りに行きました。当時は幼かったので許されていたのでしょう。幸い、現在はそのこだわりは消えましたが、もし成人した今もこうしたこだわりと行動が続いていたら、スリと思われ、通報されていたかもしれません。

親だけで「この子を何とか育てよう」としないで

日本の福祉は“自己申告制”です。療育手帳の取得、障害基礎年金の受給といった福祉サービスを受けるとき、障害のある本人がこうした手続きをすることは困難です。

知的障害がない、あるいは軽度などで療育手帳の交付対象者とならなくても、医師の意見書(精神科医でなくても小児科医でも可能、診断書とは別物)があれば、「障害福祉サービス受給者証」が発行されます。これを取得すると、障害者総合支援法や児童福祉法に基づいて提供されている福祉サービスを、行政の給付金を受けながら利用できるようになります。

親だけで「この子を何とか育てよう」とせずに、福祉サービスを利用して“行政とつながっている”ことが、誤認逮捕を防ぐことなども含めて、将来、子どもを救うことになるのではないでしょうか。

子育て本著者・講演家 立石美津子

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