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デビュー直後から快進撃を続ける奥平大兼が『Cloud クラウド』で見せつける新境地

  • 2024.9.29

『MOTHER マザー』(20)で衝撃的デビューを果たし、いまや日本映画人気を牽引する存在に成長した奥平大兼。8月に公開された映画『赤羽骨子のボディガード』ではボディガードが顔をそろえるクラスの司令塔、染島澄彦役でアクションに挑戦。続くサスペンススリラー『Cloud クラウド』(公開中)では、菅⽥将暉演じる主人公を脅かす手下役で存在感を示している。デビューから4年、まだ21歳ながら、数々の作品で爪痕を残してきた彼の軌跡を振り返る。

【写真を見る】主人公は、高額転売で生計を立てる男、吉井

新人賞をかっさらった『MOTHER マザー』での鮮烈デビュー

初出演した映画『MOTHER マザー』で瞬く間に注目を集めた奥平。本作で主演の長澤まさみはシングルマザー役で新境地を開拓。奥平は彼女にネグレクト、虐待されながらも母を慕わずにはいられない息子を熱演した。初めてのオーディションで大役を得た奥平は演技未経験で、大森立嗣監督にみっちりとワークショップで鍛えられて現場に臨んだそう。その純粋な反応に長澤も本気で対応し、母親が息子をビンタする場面は渾身の一発。奥平の本物のリアクションは見逃せない。

新人とは思えない出演場面の多さだが、「緊張しない」という本人は初めての撮影を大いに楽しんでいた模様。大女優を前にしても物怖じしない堂々とした態度、並んでも遜色ないスクリーンから放たれるオーラ。突如現れた新星、シンデレラボーイはその年の日本アカデミー賞をはじめとした数々の新人俳優賞を総なめにする。

クルド人の少女の心に寄り添う男子高校生に『マイスモールランド』

映画ファンにとっては知る人ぞ知る存在だった奥平が、お茶の間で話題になり始めたのが初出演ドラマの「恋する母たち」。3人の主婦の恋愛模様を描いた作品で、奥平はゲイの高校生を演じた。同じく「恋母」で息子役だった宮世琉弥、藤原大祐と共にブレイク。その後のドラマ「ネメシス」ではナルシストな天才ハッカー役に扮し、劇場版『映画 ネメシス 黄金螺旋の謎』(23)でも続投した。

エンタテインメントな「ネメシス」とは対照的に、映画『マイスモールランド』(22)は社会派ドラマ。在留資格を失った在日クルド人の少女が主人公で、奥平は彼女のバイト仲間の聡太役。ガールフレンドの置かれた状況を理解できないまま、なんとか手を差し伸べようとする、日本人の男の子を等身大で演じている。絵が大好きな奥平がヒロインの嵐莉菜とアート制作する場面の眩しさはひと際。

天真爛漫で純粋な陽キャ男子に扮した『ヴィレッジ』

公私共に交流がある藤井道人監督と横浜流星が6度目のタッグを組んだ『ヴィレッジ』(23)は、「新聞記者」で関心を集めた藤井監督によるオリジナル脚本が話題に。横浜は閉鎖的な村のゴミ処理場で働くしか道がなく、しかたなく不法投棄を強いられている青年、片山優役。奥平は借金返済のため、東京からやって来た同じゴミ処理場で働く若者、筧龍太役を演じた。

村出身で周囲からいじめを受けている優の事情をよく知らず、彼を慕う部外者の龍太。強面メンバーのなかでも目を引く、奥平の金髪+全身タトゥー姿はインパクト大。無口な横浜と陽キャな奥平のやりとりが重苦しいムードのアクセントとなり、後々じわじわ効いてくる。所属事務所の先輩、横浜と奥平はこれが初共演となった。

初主演作『君は放課後インソムニア』では、不眠症の高校生に

石川県七尾市を舞台としたオジロマコトの人気コミックを映画化した『君は放課後インソムニア』(23)は、美しい街のなかで同じ秘密を持った高校生の男女が繰り広げる青春ストーリー。森七菜とダブル主演で、奥平はこれが映画初主演。使用されていない高校の天文台で出会った曲伊咲(森)と中見丸太(奥平)。不眠症の2人は意気投合するが、天文台の無断使用が発覚し、引き続き天文台を使用するため天文部を復活させることに。

星の写真を撮り合う2人の爽やかなやりとりが初々しく、やがて訪れるエンディングがせつない。演技派で知られる2人の揺れ動く心のリアルさ、繊細な表現に魅了される。奥平は『君は放課後インソムニア』、『あつい胸さわぎ』、『映画 ネメシス 黄金螺旋の謎』、『ヴィレッジ』の演技が評価され、TAMA映画賞最優秀新進男優賞を受賞した。

eスポーツに没頭するヤンチャな高専生に『PLAY! ~勝つとか負けるとかは、どーでもよくて~』

「最高の教師 1年後、私は生徒に■された」にミステリアスな生徒役で出演し、黒幕最有力としてドラマ考察を一気に盛り上げた奥平。芦田愛菜や加藤清史郎といった同世代のベテランと並んでも、引けを取らない役者に成長した姿を見せた。『PLAY! ~勝つとか負けるとかは、どーでもよくて~』(24)は、日本映画で初めて本格的に「eスポーツ」を取り上げた作品だ。モデルは徳島の高等専門学校に在籍した実在の人物で、鈴鹿央士とダブル主演。スクリーンでゲーム映像を見せる難儀を持ち前の演技力でカバーしている。

日常に楽しみのない翔太は「全国高校【eスポーツ】大会メンバー大募集」の勧誘を見て、ゲーム未経験ながらこれに応募。ゲーマーの先輩に指導され、東京での決勝戦を目指す。天才ゲーマーで真面目な先輩が鈴鹿、金髪にピアスとヤンチャな見た目でゲームは初心者の翔太が奥平の役どころ。まるで気の合わない彼らがしだいに一つになっていく様は、スポ根映画のような爽快感を放っている。

『Cloud クラウド』で見せる、新たな奥平大兼の姿とは

駅のホームで、謎の男性(松重)からなにかを受け取る佐野 [c]2024 「Cloud」 製作委員会
駅のホームで、謎の男性(松重)からなにかを受け取る佐野 [c]2024 「Cloud」 製作委員会

国際的に活躍する黒沢清監督と菅田将暉が初めて組んだサスペンススリラー『Cloud クラウド』。“転売ヤー”として真面目に働くうち、知らず知らず周囲に敵を作り窮地に追い込まれてしまう、菅田扮する吉井の受難を描く。

本作で奥平が演じるのは、都会から郊外に転居した吉井の助手を務めることになる現地の青年、佐野。登場人物すべてを敵に回してしまう吉井に、恋人よりも根気よく付き合う謎めいた人物でもある。吉井に恨みを持つ人物を演じた、窪田正孝、荒川良々、岡山天音といった共演者たちが集団で振り切った狂気を見せるなか、最年少の奥平は誰よりもクール。吉井にとって本当の味方なのか、はたまた彼も恨みを持っている一人なのか。佐野の、いまいち掴みどころのない飄々とした雰囲気に翻弄されたまま物語は進んでいく。彼はいったい何者なのか、常に余裕を見せている姿が逆に恐ろしい。

そんな余裕がにじむ奥平だが、現場では黒沢監督から直に「菅田将暉を超えてほしい」との指令を受けて、かなり緊張していたんだとか。とはいえ、撮影のないオフの時間は菅田や岡山と一緒にロケ地の街を散策していたそうで、大先輩たちを相手に気後れしない、大胆な性格は健在だったよう。

次にどんな姿を見せてくれるのかワクワクさせられる!

ヒューマンドラマ、社会派、ラブストーリー、アクション、サスペンス…どんなジャンルも自然体でこなしてしまう役者、奥平大兼。21歳になったばかりでこのフィルモグラフィは破格!次にどんなテーマを選ぶのかすら未知数だが、『君は放課後インソムニア』『PLAY!』でダブル主演を果たした彼にやがて訪れるであろう単独主演映画の公開に期待したい。

文/高山亜紀

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