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気品と恐怖が絶妙な『ゴースト・ハント』。翻訳者が「最後のゴースト・ストーリー作家」と呼ぶ、ウェイクフィールド英国風幽霊譚

  • 2024.9.28

今年4月から「東京創元社創立70周年フェア」と銘打って書店店頭でフェアが展開されている。このフェアは4月、7月、11月の3回にわたり開催され人気漫画家による書き下ろしカバーやアニバーサリーカバーの名作文庫がラインナップされており、創立70周年にふさわしい賑やかさを書店店頭で見ることができる。

そんな「東京創元社創立70周年フェア」だが、7月の第二弾のラインナップを眺めていると一際目を惹いた作品があった。

2012年に文庫として刊行されてから長らく品切れであったものの、今回のフェアで記念復刊となったH・R・ウェイクフィールドの『ゴースト・ハント』(鈴木克昌他・訳/創元推理文庫)である。

本書は英国正調のゴースト・ストーリーを引き継ぐ名手である怪奇作家ウェイクフィールドの短篇集。その作品世界は上質で気品に溢れながらも、物語のそこかしこで蠢く恐怖と戦慄が絶妙な身の毛もよだつ怪奇譚ばかり。

一人の画家と妻と幼い子どもの家族が休日を過ごすために訪れた赤い館で得体の知れない怪異に遭遇する「赤い館」。屋敷に踏み入れたものの、暗闇の屋敷の中に閉じ込められる男の恐怖を描く「目隠し遊び」。キャストン荘と呼ばれる貴族の別荘の寝室にまつわる怪異が周囲の人々に不幸を招く「暗黒の場所」など、英国ゴースト・ストーリーの伝統ともいえる“幽霊屋敷”をテーマにした短篇の数々は名手の名に恥じない傑作ぞろいである。

なかでも白眉なのが表題作である「ゴースト・ハント」である。

ラジオ番組「ゴースト・ハント」の司会を務めるトニー・ウェルドンは、3回目となる番組でロンドン近郊の屋敷からラジオ中継を始める。この屋敷は建てられてからいままで、30人以上の自殺者を出している曰くある屋敷であり、トニー・ウェルドンは心霊研究の大家であるミニヨン教授とともに屋敷内を実況しながら探索していくのであった。ほぼトニー・ウェルドンの一人称で語られていくのだが、彼にふりかかる恐怖はそのままラジオの実況中継として彼の言葉として伝えられていく。本作は主観的でありながらもラジオ実況という設定のため、読者はトニーが体験する恐ろしい出来事をラジオを聴くようにして知ることになるのである。

このように、幽霊屋敷を舞台にした格調高き古典的な英国正調幽霊譚のほかにも、当時の最新のメディアであったラジオを取り入れた「ゴースト・ハント」のようなモダンなホラー短篇も収録されているところが本書のユニークなところである。

英国では18世紀中ごろから1920年ごろまでゴースト・ストーリーが流行したとされるが、その流行の末期に登場したのが本書の著者であるH・R・ウェイクフィールドである。ウェイクフィールドは1920年代の英国に登場し、怪奇・幻想短篇の名手として知る人ぞ知る存在であった。本書巻末のあとがきでは訳者の一人である鈴木克昌氏が彼を「最後のゴースト・ストーリー作家」と呼んでいるように、まさに正統な英国ゴースト・ストーリーの系譜をもつ作家なのである。

復刊を機に、是非とも格調と上品さに包まれた英国風幽霊譚を味わってほしい。

文・写真=すずきたけし

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