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【競走馬のセカンドライフ】性格によって苦労する馬たちの再就職事情

  • 2024.9.28
競走馬の再就職はつらいよ
競走馬の再就職はつらいよ / Credit:pixabay

大ヒット作「ウマ娘」でも知られるように、個性豊かな馬たちは私たちを楽しませてくれます。

例えば、中央競馬史上7頭目の三冠馬であるオルフェーヴル。

デビュー戦では快勝するも、レース前の馬が鞍を付ける装鞍所(そうあんじょ)では暴れて植え込みに突進、直線では大きく斜行、ゴール後には騎手を振り落とすという暴君ぶりでした。

また、ゴールドシップは厩舎スタッフに噛み付く、ゲート入りを盛大にゴネるなど数々の奇行で有名です。

中でも1番人気で出走した2015年宝塚記念(GⅠ)では、すんなりゲートに入ったかと思いきや、暴れて立ち上がり、出遅れ大敗。

スタート直後に多くの競馬ファンを絶望させました。

彼らのようなスターホースたちの活躍もあり盛り上がりをみせている競馬ですが、近年、アニマルウェルフェア(動物福祉)の意識の高まりから、国際的に引退競走馬のセカンドキャリアにも注目が集まっています。

しかし、セカンドキャリアに向けた訓練には課題が多く、それに関する研究も行われています。

日本大学と競走馬理化学研究所の研究チームは、馬の性格に関連する可能性のある候補遺伝子を18個特定しました。

研究の詳細は2023年2月20日付で『Animals』に掲載されました。

目次

  • 競走馬の再就職は簡単ではない
  • 再就職のために必要な訓練

競走馬の再就職は簡単ではない

国内外で競走馬が引退した後のセカンドキャリアに注目が集まっています。

日本ダービー(GⅠ)を制したウオッカなど数々の名馬を輩出した、角居勝彦元調教師が引退競走馬の支援施設を開設したことでも話題になりました。

また、イギリスではなんと競走馬の国勢調査を行い、引退後の競走馬が行方不明にならないよう、どのような生活を送っているのか追跡するためのトーレーサビリティを高める活動に取り組んでいます。

競走馬は、平均寿命25〜30歳といわれ、概ね5歳前後で引退しますが、長い馬では引退後30年近く生きるため、「第二の馬生」はとても重要です。

日本では引退後、種牡馬または繁殖牝馬にならない馬の多くは乗用馬として乗馬クラブなどで活躍しています。

しかし、人間同様、競走馬の再就職もそう簡単ではありません。

農林水産省が2024年6月に発行した「馬産地をめぐる情勢」によると、2022年末の在籍登録頭数21,458頭のうち、約半数の11,024頭が2023年に競走馬登録を抹消しています。

登録抹消した主な理由は、一度登録抹消して中央競馬と地方競馬間で移籍し再び競走馬登録する再登録馬3,961頭、乗用馬3,257頭、繁殖馬1,281頭でした。

それ以外には、馬のワクチン開発といった研究に用いられる研究馬、競走中や調教中などに死亡したへい死、所在がはっきり分からない馬もいるというのが現状です。

この登録抹消頭数には再登録馬も含まれてはいるものの、乗用馬として再就職できる馬は約30%と割合が高いとはいえません。

一体なぜなのでしょうか?

軽種馬(サラ系)のライフサイクル
軽種馬(サラ系)のライフサイクル / Credit:農林水産省畜産局競馬監督課-馬産地をめぐる情勢(2024)

再就職のために必要な訓練

競走馬はレースで勝つため、一般的な乗用馬とは異なる調教により、他馬より速く走るための闘争心や全力疾走することを教えられます。

ところが、乗用馬として重要なのは、乗っている人間が求めるペースとバランスを保ちながら運動することです。

再就職先によっては、競走馬時代のように経験豊富な乗り手ばかりではなく、経験の浅い人間も安全に背中に乗せなければなりません。

つまり、乗用馬になるためには競走馬時代に学んだことをリセットしなければならないのです。

このリセットの過程はリトレーニングと呼ばれ、馬にとっても人にとっても難しく、時間がかかります。

馬の性格と気質によって学習能力や人間に危険が及ぶような行動の傾向などが異なるため、リトレーニングの効率改善と事故頻度の低減には馬の性格と気質を考慮することが不可欠と考えられています。

冒頭で記載した愛すべき「名馬」であり「迷馬」たちのように、ぶっ飛んだ性格では困ってしまいますよね。

馬の性格と遺伝子の関連性について、日本大学と競走馬理化学研究所の研究チームが興味深い研究を行っていました。

馬の性格と遺伝子には関連がある?
馬の性格と遺伝子には関連がある? / Credit:pixabay

18個の性格関連候補遺伝子を特定

研究チームは、既に解明されている人間の性格関連遺伝子を手がかりに、サラブレッド101頭の全ゲノム多型データベースとバイオインフォマティクス手法を用いて、馬の性格形成に関与する候補遺伝子を特定しました。

まず、遺伝子データベースから抽出した、ビッグファイブと呼ばれる性格特性(協調性、誠実性、外向性、神経症傾向、開放性)に関連する人間の遺伝子について、馬のオーソログ遺伝子を探しました。

その後、サラブレッドの全ゲノム多型データベースを使い、DNA配列に生じる変化であるDNA多型の情報を基に、候補遺伝子の調査を進めました。

オーソログ遺伝子とは、異なる種に存在する共通の祖先由来の遺伝子のことを指し、基本的に類似した機能を持っています。

つまり、人間の性格関連遺伝子の馬バージョンを探し、目星をつけてから詳しく調べていく作戦です。

結果、比較に使用した28個の人間の性格関連遺伝子すべてに対し馬のオーソログ遺伝子がみつかり、そのうち18個を馬の性格の多様性に影響する可能性がある候補遺伝子と特定しました。

18個のうち3個は他の研究でも性格に関連する候補遺伝子として報告されていますが、他の15個は新発見でした。

今回新たに発見された15個の候補遺伝子と性格の関連性までは明らかにされていませんが、今後、行動データを用いた研究などによりこのバイオインフォマティクス手法が確立されれば、遺伝子を使った馬の性格予測や関連するタンパク質の機能調査に役立つことが期待されます。

研究が進み、遺伝子と性格の関連性がさらに解明されれば、競走馬の再就職が捗るかもしれません。

参考文献

Horses share personality-related genes with humans, findings show
https://www.horsetalk.co.nz/2023/02/21/horses-personality-genes-humans/
Retraining an ex-racehorse from the anatomical and biomechanical viewpoint
https://www.horsesinsideout.com/post/retraining-an-ex-racehorse?srsltid=AfmBOooHwnvpMsdsujlhqeESsfL1Z66ibpCoCx7z_XG4p0iBQK6xpKF8

元論文

Identification of Personality-Related Candidate Genes in Thoroughbred Racehorses Using a Bioinformatics-Based Approach Involving Functionally Annotated Human Genes
https://doi.org/10.3390/ani13040769

ライター

門屋 希実: 大学では遺伝学、鯨類学を専攻。得意なジャンルは生物学ですが、脳科学、心理学などにも興味を持っています。科学のおもしろさをわかりやすくお伝えし、もっと日常に科学を落とし込むことを目指しています。趣味は釣り。クロカジキの横に寝転んで写真を撮ることが夢。

編集者

海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。

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