1. トップ
  2. 静かで鋭い若葉竜也の“佇まい”を考察 「アンメット」ほか演じた世界の一部を振り返る

静かで鋭い若葉竜也の“佇まい”を考察 「アンメット」ほか演じた世界の一部を振り返る

  • 2024.9.28
「ペナルティループ」<PG-12> (C)2023『ペナルティループ』FILM PARTNERS
「ペナルティループ」<PG-12> (C)2023『ペナルティループ』FILM PARTNERS

【写真】若葉竜也と杉咲花が仲良く体育座り

俳優・若葉竜也の出演作三作を集めた「特集 若葉竜也の佇まい」が、日本映画専門チャンネルにて10月5日(土)に放送される。

若葉竜也の佇まいは、静かで鋭い。どんな役でも若葉竜也にしかできない人物にしてしまう。観る者に彼以外は考えられないと思わせるほど、その世界に溶け込む。無駄な力がいっさい入らず、常に肩の力が抜けていて、ゆるっとスマートに化ける。

だが、どこかシャープで鋭い、若葉竜也にしかない芝居がある。雑音がなく、まるで初めからその人物として人生を重ねてきて、これからもその世界で生きていくかのような、そんな佇まいだ。ゆえに私たちに“若葉竜也”は見えない。“彼”を演じる若葉竜也ではなく、“その世界で暮らす彼”にしか見えないからだ。

本コラムでは若葉が化けるいろんな“彼”と、そんな“彼”が溶け込んださまざまな世界の一部を覗き見してみよう。

一世界目:ドラマ「アンメット ある脳外科医の日記」

「アンメット ある脳外科医の日記」(全11話) (C)子鹿ゆずる・大槻閑人/講談社/カンテレ
「アンメット ある脳外科医の日記」(全11話) (C)子鹿ゆずる・大槻閑人/講談社/カンテレ

“記憶障害の脳外科医”である主人公・川内ミヤビ(杉咲花)が、目の前の患者を全力で救い、自分自身も再生していく新たな医療ヒューマンドラマ。若葉演じる三瓶友治は、アメリカの大学病院から、ミヤビが働く丘陵セントラル病院に赴任してきた脳外科医。医師として優秀だがマイペースで変わり者。何を考えているか分からない、謎だらけの男だがその言動には説得力がある。

人間の心の機微と脳の複雑さを繊細に描く。これはもう言葉で表現するよりも「ただ観て欲しい」という一言に尽きる。基本的には飄々としていて“頭の中”が見えないが、ミヤビのことになると時に感情がむき出しになる三瓶先生は、どこか気になってしまう。天才らしい風変わりな雰囲気と独特なオーラを醸し出す。「アンメット」の世界で生きる三瓶先生は、間違いなく若葉にしかできない。そんなことを思わせる。

二世界目:映画「街の上で」

「街の上で」 (C)『街の上で』フィルムパートナーズ
「街の上で」 (C)『街の上で』フィルムパートナーズ

若葉竜也映画初主演作。今泉力哉監督が、変容する "カルチャーの街" 下北沢を舞台に紡ぐ、古着屋と古本屋と自主映画と恋人と友達についての物語。僅か11館での封切りから、熱狂的な支持により、約120館まで全国拡大公開となった本作で、若葉は主人公・荒川青を演じる。

下北沢の古着屋で働いている青は、基本的にひとりで行動している。たまにライブを見たり、行きつけの古本屋や飲み屋に行ったり。口数が多くもなく、少なくもなく。ただ生活圏は異常に狭いし、行動範囲も下北沢を出ない。“シモキタ”で事足りてしまうからだ。

そんな青の日常生活に、ふと訪れる「自主映画への出演依頼」という非日常、またいざ出演することにするまでの流れと、出てみたもののそれで何か変わったのか分からない数日間、そしてその過程で青は、さまざまな女性たちに出会っていく。

下北沢で暮らす青をはじめ、登場人物たちがとてもリアルだ。まるで誰かの日常を勝手に覗き見してしまっているかのようなリアルさ。下北沢という街の非日常感の中にある日常が、映画というフェイクの中にあるリアルとマッチして溶け合う。実に不思議な感覚。

その世界観を助長させているのは、間違いなく若葉の“普通すぎる会話”だろう。あまりにも自然で、まるでファミレスで隣の人の会話を聞いてしまったような感覚になる。

三世界目:映画「ペナルティループ」

「ペナルティループ」<PG-12> (C)2023『ペナルティループ』FILM PARTNERS
「ペナルティループ」<PG-12> (C)2023『ペナルティループ』FILM PARTNERS

何度でも復讐できるプログラム=ペナルティループ。若葉演じる岩森淳が、最愛の恋人・砂原唯(山下リオ)を殺めた犯人・溝口登(伊勢谷友介)への復讐殺人を何度も繰り返していく模様を描く。

朝6時に目覚めると、時計からいつもの声が聞こえてくる。日付は6月6日。岩森は身支度をして家を出て、唯を殺めた溝口を殺害し、疲労困憊で眠りにつく。翌朝目覚めると周囲の様子は昨日のままで、溝口もなぜか生きている。そしてまた6月6日である今日も、岩森は恋人の仇討ちを繰り返す。その復讐ループの中で岩森の心境が徐々に変化していく。

非現実的な世界のはずなのに、どこか現実の延長、近未来だと思わせる本作。浮かばれない情念を抱える被害者側の遺族や恋人らのための救済プログラム。被害者側が加害者側になる。ないはずの世界なのに、あるように思えてしまう。

同じようなシーンの繰り返しで、登場人物も少ない。だが、飽きさせない。若葉×山下、そして若葉×伊勢谷のどこか違和感があるが、どこまでもナチュラルな芝居は癖になる。同時に、アンビバレントなこの世界観をより一層引き立てている。

スイッチ一つですべてが変わる「若葉竜也の佇まい」

それぞれの作品の世界で生活する若葉だが、役柄に引きずられることはないという。「僕は“仕事は仕事”という考え方の人なので、そこでメンタルをやられて、ほかの仕事に悪影響を与えるとか、プライベートまで崩してしまうということは決してないんです。一個一個、スイッチを切り替えてやっているので、そこは大丈夫です」(引用:若葉竜也が華麗なる転身を振り返るチビ玉から演技派俳優への軌跡とは)と過去のインタビューで語っていた。

スイッチの切り替えがはっきりしているからこそ、さまざまな作品世界で違う人物として生きられるのかもしれない。“パチンッ”とスイッチ一つですべてが変わる若葉。そんな「若葉竜也の佇まい」をこの特集を通して追うことで、あなたも生きたことがない人生とそこで生じる味わったことがない感情を体験することができるかもしれない。

構成・文=戸塚安友奈

元記事で読む
の記事をもっとみる