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「食は美味しさを媒介とするリアルメディア」──加藤峰子/FARO【食から社会を変える vol.1】

  • 2024.9.28
銀座「ファロ」のシェフパティシエである加藤峰子は、今年の「アジアのベストレストラン50」でベスト・ペイストリー・シェフ賞を受賞。Photo_ Nobuko Baba
銀座「ファロ」のシェフパティシエである加藤峰子は、今年の「アジアのベストレストラン50」でベスト・ペイストリー・シェフ賞を受賞。Photo: Nobuko Baba

普遍的な価値を追求する好奇心豊かな魂が覗き見た世界──それが、加藤峰子が作るデザートだ。「美食は風土と素材、生産者、料理人、食べる人との“知恵の循環”。その豊かな文化を、ただ食べるだけ、ただ満たすだけの快楽で終わらせたくない」と加藤は語る。外交官の両親に連れられ、幼い頃から世界の名店を訪ねるなかで、食が持つ限りない可能性に気づかされた。「美食は、物理学、数学、生物学、地質学、農学、人類学、歴史学、哲学、心理学、社会学など、幅広い文化に関わるもの」で、自身が生み出すデザートを、「お客様の体内に入ることで気づきや問題提起を、美味しさを媒介にして届けるリアルメディア」だと捉えている。絶滅が危惧される在来種の植物などを積極的に使うのも、「美しい皿を作りたいという自己満足ではなく、今に責任を持って次世代につなぐ仕事をしたい」からだ。

Photo_ Courtesy of Faro
Photo: Courtesy of Faro

多様な情報を体系的に捉えて「編集し創造する」習慣は、イタリアの大学を卒業後に勤務した『ヴォーグ・イタリア』編集部で培われた。その後、パティシエになるという夢を諦めきれず、自作のケーキを店に持ち込んでプレゼンし、夢を実現。やがて社会活動家としても知られる世界No1シェフ、マッシモ・ボットゥーラのもとで働き、大きな影響を受けた。「意味やストーリーが込められ、食べた人の人生が少し変わるような気づきを生む」食の可能性を知った。さらに、自身が母となったことで「気候変動などの危機をいかに回避していくか」も深い関心事項になった。

国産檜を使った「薔薇と檜そして扁桃」は、森林大国である日本が、世界有数の木材輸入国であるという事実、国内の森林が疲弊している現実を、「食べる」行為と、「美味しさ」という刺激を通し「体感して」ほしいと作られた新メニュー。Photo_ Courtesy of Faro
国産檜を使った「薔薇と檜そして扁桃」は、森林大国である日本が、世界有数の木材輸入国であるという事実、国内の森林が疲弊している現実を、「食べる」行為と、「美味しさ」という刺激を通し「体感して」ほしいと作られた新メニュー。Photo: Courtesy of Faro
檜やスギ、カラマツなどで作った「木のガラムマサラ」が芳しい「木々の香りとピスタチオの森」も、「薔薇と檜そして扁桃」と同じコンセプトで開発されたメニューだ。Photo_ Courtesy of Faro
檜やスギ、カラマツなどで作った「木のガラムマサラ」が芳しい「木々の香りとピスタチオの森」も、「薔薇と檜そして扁桃」と同じコンセプトで開発されたメニューだ。Photo: Courtesy of Faro

しかし、「環境問題の解決のためにはまず、目先の不均衡や問題点を解決しなければ」との思いから、今、加藤が最も注力するのが、飲食業界が抱える大きな問題である「人材の持続可能性」の追求だ。特に女性には、「調理師学校では男女比が半々なのに、10年経っても続けている人は数パーセント」という現状がある。結婚、出産などでキャリアが中断し、未来を描けないと辞めてしまう人も少なくない。一石を投じるべく、今年2月に、飲食業界の女性たちを集めた対話プロジェクト「Think Me」を立ち上げた。自身は世代や性別を超えた連帯や互助を美徳とするイタリアで子育てをし、計画的に人生を進めることができた。そんな土壌を生み出すことが、持続可能なキャリア形成には重要だと考えている。

「『生きづらさ』は何かの歪みの結果。『女性だから、母だから、こうあるべき』という無意識にインプットされた先入観から解放されることが、次世代のあらゆるジェンダーの人たちが生きやすい社会につながる。業界全体が話し合う場を持つことで、そんな未来に向けた小さな一歩を踏み出したい」、それこそが加藤の原動力だ。

Text: KYOKO NAKAYAMA Editor: Yaka Matsumoto

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