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真心ブラザーズ「制約が増えても、頭は大自由に」/アルバム『SQUEEZE and RELEASE』インタビュー

  • 2024.9.28

最近になって変人だと自覚できました(笑)

━━デビューから35周年を迎えられました。活動を続けていくことで、徐々に重みみたいなものを感じますか?
 
桜井秀俊さん(以下桜井さん):重みはないですね。逆に、音楽活動が日常になっていく感じで。 どこかにたどり着こうという気持ちでいて、それをすべてやめてから、振り返る時間ができたら、重みみたいなものを感じるのかもしれない。まだ動いてるうちはフットワークは軽く。
 
 ━━なるほど。
 
桜井さん:でも、これまで作ったアルバムを聴き返すと、 当時こんな感じなんだとか振り返ることはありますよ。特に、20代の頃に作った作品と比べると、こんな違うのかみたいな。それこそ(写真の)アルバムをめくるような感覚ですね。
 
YO-KINGさん:今回のアルバムは、35周年だからみたいなことは考えてなかったですけど、1995年に発表した『KING OF ROCK』みたいな勢いのあるものを作ろうっていうテーマが最初にありました。
 
 ━━それは、どういうきっかけだったのでしょう?
 
YO-KINGさん:昨年のツアーで収録曲のいくつかを披露したところ、観客の反応がよくて。思い返したところ、最近こういう勢いのある楽曲にトライしていないという話になり、できるかできないか別として、制作に取り組みました。
 
 ━━制作風景はどんな感じでしたか?
 
YO-KINGさん:最初は街にあるリハーサル・スタジオで、 1000本ノックみたいな感じで、とにかく曲を作って、スマートフォンのボイスメモにアイデアをためていました。そこに残った粗い音の雰囲気がよくて。その雰囲気が残る音にしたいと思いました。
 
 ━━前作『TODAY』は、自粛期間を乗り越えて制作された作品。今回は、そこから解放されて自由を噛み締めて、かつ楽しんでいる雰囲気が伝わってきました。
 
桜井さん:前作はどこか暗いというか。閉塞感やそれを打破するみたいなもののなかにいたから、それをごそっと出すのがいいんだろうなとは思っていて。ある意味、とてもよくできた作品になりました。それから、また通常の活動ができるようになって、どうなるの?と思いながら制作をしていたら、いい意味で抜けている感じがするものになっていて、面白かったですね。特にYO-KINGさんが、想像以上というか今まで見たことのない、切れ味の鋭さを表現されていて(笑)。
 
YO-KINGさん:最近になって、ようやく自分が変人だってことを自覚してきまして(笑)。そこをブースト(誇大)する作業を今回はしましたね。
 
 ━━結果、今回のアルバムはおふたりの音楽への思いがギュッとスクイーズ(凝縮)され、それを自由にリリース(解放)された雰囲気が伝わってきました。
 
YO-KINGさん:96年発表のシングル「空にまいあがれ」が、これまで得た幸福感を解き放ちスペースを作って、新たな幸福を受け入れる余地を生むっていうような曲なんですけど、そのイメージがこのタイトルに合ったんですよね。
 
 ━━アルバム全体の構成は、どのように考えたのでしょう?
 
桜井さん:僕らとマネージャーさんと3人で、全体のバランスを考えながら構成していったという感じですね。結果、短編映画を観ているような流れのある作品になったと思います。

いかに清潔感のある暮らしをするのかが大切

━━また、何度も繰り返して聴きたくなる構成にもなっていますよね。特に冒頭に収録された「あたまの中は大自由」は、痛快な気分になれるというか。<自由>の前に<大>がつくことによって、真心ブラザーズの音楽だからこそ体験できるダイナミズムを感じることができました。
 
YO-KINGさん:<大>がないとタイトルとして成立しなくて。<大>があるから笑えるし、人と違う表現になるかなっていうね。ただの<自由>だと、普通になってしまう。それだと面白くないし、趣味でやってるなら普通でいいんでしょうけど。 プロとして活動している以上、普通はダメだから。そこは無理してでもぶっ飛んだことを表現しないといけないと思いますね。
 
桜井さん:今回のアルバムにおけるセッションで、最初に彼が提示してくれたのがこの楽曲だったのですが、<きやがったな>と(笑)。中学2年生というか小学校4年生くらいの気持ちで、制作に取り組もうとする心意気を感じたんですよね。頭の中だけは自由なんだから、そこは邪魔させないぜ、みたいなものとか。また、それを他人に強要する感じは、小4 の頃のクラスにいたガキ大将みたいな面倒くささがあった(笑)。それは、まさに『KING OF ROCK』を制作していた頃と同じ感覚でしたね。
 
 ━━(笑)。
 
桜井さん:YO-KINGさんが、面白い方向へ突っ走っていくということは、楽曲で描かれる視野が狭くなっていくのではと感じたので、僕はそこでそぎ落とされた魚のうろこみたいな部分も拾ったような視界の広い楽曲を制作しました。そのことで、彼の尖った部分がより強調されて伝わるのではないかと思い、制作しましたね。
 
 ━━桜井さんが手がけられた「Mic Check」からも開放的な雰囲気が伝わりますね。途中ではラップも披露されています。
 
桜井さん:(苦笑)。ラップは素人なんで。本格的なラッパーの方の評価は怖いので、耳をふさいでいます。僕は、バンドマンで、シンガーソングライターでもあるから、ループしたトラックの上でマイクを握るというスタイルではなく、バンドの音がまずあって、そこに言葉をのせるという感覚で作りましたね。韻を踏むっていう手法もうっすら聞いたことがある程度でしたが、実際に口にすると気持ちよかったので、サビの部分で取り入れたりしました。
 
 ━━こちらも、桜井さんが手がけられた「おれんち」では一転し、日本のノスタルジックな景色を連想させる楽曲になっていますね。
 
桜井さん:現在、暮らしているのが実家なんですけど、親父が建てたものを引き継いでいるので、だいぶ年季の入ったものになったのですが、それでも修繕を重ねながら、美しい状態で過ごしたいという気持ちが強くあって。それをうまく表現できたのかなって思います。例えば、自分の靴をちゃんと磨くとか、ギターのメンテナンスはひとりでできるけれど、 家だとそういうわけにはいかない。さまざまな人間が関わり合いながら、家を大切に守っていく姿勢というか、全員で屋根を修理するわちゃわちゃな雰囲気が、バンド・サウンドとして表現されているのかなって思いました。
 
 ━━ちなみに、家でもっともこだわりのある空間はありますか?
 
桜井さん:とにかく玄関は綺麗にしていますね。そこから人が出入りするし、風も入るから、まずはそこをちゃんとしないと。玄関のたたきに靴を置きっぱなしにしないとかね。装飾にこだわるというものではなく、清潔感を保ち続けることが、暮らしにおいて何よりも大切なことではないかなと思いますね。

急がずに、よい変化が訪れるまで活動したい

━━ラストに収録された「急がない人」は、『KING OF ROCK』にも収録された「スピード」のアンサー・ソング的な楽曲なのですか?
 
YO-KINGさん:そんなこと全然考えていなかった。『KING OF ROCK』のラストに収録された楽曲も「スピード」(ヴァージョン違いの「スピード2」)なので。今後、取材で使わさせていただきます(笑)。
 
 ━━「スピード」は周囲を気にせずに、とにかく疾走していく勢いを感じる内容でしたが、「急がない人」は社会や暮らしをじっくりと見つめながら、大切なものとていねいに向き合う、現在のおふたりの姿勢を感じることができました。
 
YO-KINGさん:人間は忙しい方がいいと思うんですけど、<急ぐ>とはちょっと違うと思っていて。 特にお風呂はね。銭湯に行くと、すごい早歩きの人とかいて、危ないんですよ。湯船に浸かっているときぐらいゆっくり動いてよって。ほかにも暮らしの節々で、せわしなく動いている人の姿って、かっこ悪いなって思うことが多くて。緊急のときはしょうがないですけど。急いで動くのが癖になっちゃってる人ってやっぱりいますよね。その違和感をブーストしたり、面白おかしく表現した楽曲です。
 
 ━━YO-KINGさんは、銭湯好きとしても有名。何か流儀みたいなものはあるのですか?
 
YO-KINGさん:お風呂そのものもいいのですが、注目していただきたいのはエコー音ね。特に銭湯のね。あのぴちゃぴちゃしたサウンドが、耳に対してのヒーリング効果があると思うので。自宅のシャワーで済ますだけでなく、銭湯でそれを体感してほしいです。
 
 ━━9月には35周年記念公演を敢行、そして11月からは全国ツアーがスタートします。そこでは、耳だけでなく身体全体にいいエネルギーを補填できそうな予感がします。
 
桜井さん:この間、弾き語りのツアーが終わったばかりで、そこでは現場のやり取りみたいなものを楽しんでいただく内容でしたが、それとは異なるバンドで表現したい音楽っていうのも、僕らにはある。11月からのツアーでは後者の部分を楽しんでいただける内容になると思います。今回のアルバムに参加してくださった若い世代のメンバーの方も参加してくださるのですが、彼らと演奏をした結果、どんな音楽が生まれるのか。自分たちでもワクワクしていますね。
 
YO-KINGさん:11月からのツアーでは、レコーディングしたもの以上の熱い演奏ができたらなとは思っているというか。今回のメンバーならば、余裕でエラい音を届けられるのかなって。
 
 ━━また、今後デビュー40年、50年に向けた活動も楽しみです。
 
YO-KINGさん:デビュー当時から比べると、自由に表現することが大変な時代になっちゃったなと思う。うかつに物事を言えない風潮になっている。その制約があるなかで、いかに面白いことやるかっていうことになっているから、これからの表現はさらに困難なものになっていくのかなって。
 
 ━━確かにそうですね。
 
YO-KINGさん:でも、アルバムを受け取った人が、草の根運動みたいな感じで、少しずつ作品を広めてくださったら、状況が変わっていくように思うのです。その変化が訪れるまで、じっくり付き合えるくらいの精神・体力は持ち続けていかなければ。

アルバム『SQUEEZE and RELEASE』

真心ブラザーズ
¥9,900(デビュー35周年記念盤)/日本コロムビア
now on sale

通算19作目となるオリジナル・アルバム。ロック、フォーク、ヒップホップなど、ジャンルにとらわれないサウンドを展開させ、おふたりの自由な感覚を凝縮させた作品に。デビュー35周年記念盤にはフィギュアトイ、Tシャツなどをパッケージしたスペシャルな内容。通常盤は10月9日にリリース。

PROFILE

まごころ・ぶらざーず/YO-KING、桜井秀俊。1989年に結成し、同年デビュー。9月21日、23日には35 周年記念公演『古稀 1/2』を開催。11月4日〜真心ブラザーズ ライブ・ツアー 『SQUEEZE and RELEASE』がスタート。12月7日は東京・新宿 THEATER MILANO-Zaにて公演。
https://www.magokorobros.com/

photograph:Chihaya Kaminokawa text:Takahisa Matsunaga
 
リンネル2024年11月号より
※画像・文章の無断転載はご遠慮ください

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