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菅田将暉さん「きっと誰もが『無自覚の刃』を持っている」 映画『Cloud クラウド』で転売ヤー役

  • 2024.9.27

転売で稼ぐ男の周囲で不審な出来事が相次いで起こり、「日常」が破壊されていく。ネット上で生まれた集団狂気の暴走を描いた映画『Cloud クラウド』が9月27日から公開されます。本作で、「ラーテル」というハンドルネームを使い、転売で荒稼ぎする主⼈公を演じた菅田将暉さん(31)に、役作りで心がけたことや、本作で描かれるテーマに対する思いなどをうかがいました。

「ちょっと変」なしぐさが不気味さに

――「⽣活を変えたい」という想いから、世間から忌み嫌われる“転売ヤー”になった菅田さん演じる吉井良介ですが、役へのアプローチで大事にしたことを教えてください。

菅田将暉さん(以下、菅田): 「ふざけない」ということです。吉井がやっていることは、転売の仕事も含め結構悪事なんです。安く仕入れるために人を説得したり、どこか人を小バカにするようなことを言ったりする。だけど、それをあえて人をバカにしたり、傷つけたりするようには言わない。至って「真面目にやる」という点を意識しました。

吉井のバックボーンについては、ほとんど知らされないし、そこにあまり意味付けもされていません。ただ、現場で黒沢(清)さんが「こう動いてほしい」とか「このセリフの時にはここにいてほしい」といった演出をしてくださるんですけど、それが毎回、ちょっと変なんです。

朝日新聞telling,(テリング)

――「ちょっと変」と言いますと?

菅田: 人間が社会で生活する上で当たり前にやっているようなしぐさが、ちょっと変なんです。例えば、こうやって話をしている時に僕がずっと相手の顔に近づいていたら、おかしいし、嫌じゃないですか。吉井はそういう「ちょっと気持ち悪いな、この人」っていう立ち位置をとるんです。

黒沢さんの『CURE キュア』など過去作を色々思い出してみると、確かに人の動きがちょっと変なんですよね。画で見るとそんなに違和感はないし、多分ちょうどいい感じで不気味さが伝わってくるのですが、きっとそういうところに「この人はいい人なのか悪い人なのか、今どんな気持ちなのか分からない」という部分が出ているんじゃないかと思います。なので「ちょっと当たり前じゃない」「なんか違和感がある」という意識は、吉井を演じるうえでずっと頭に入れていました。

――黒沢監督とは今作が初めてのタッグでしたが、いかがでしたか。

菅田: とにかく現場がすごく楽しかったです。いろいろな大人たちが必死になって1秒、2秒の世界を作るわけですが、そこで究極の「ものづくり」を感じました。黒沢さんを筆頭に「こういうことをやりたい」というアイデアに、みんなでワーッと群がるエネルギーが、とても心地よかったです。自分が「いいな」と思うものは間違っていなかったということを確認できるような時間でした。

ネットがより攻撃性をもった世界で

――映画では、顔も名前もわからない人々による憎悪の連鎖が描かれていました。「誰か」や「何か」をターゲットにした憎悪はSNS上にも溢れていると思いますが、菅田さんはどのように付き合っていますか。

菅田: 僕はTikTokが世に出てきたあたりで、「SNSやネット社会から置いていかれたな」っていう自覚があるんです。情報収集のために、公式のXやインスタ以外のSNSアカウントは一応持ってはいますが、自分で投稿したことはないし、誰かと繋がったこともない。周りで実際に投稿している人を見かけたことがないから、あまり実感がないというか。

昔のニコ動(ニコニコ動画)とかインターネット・ミームが全盛期だった時代に、サブカル的な楽しさを通った世代ではあるんです。ああいうのって、ある意味ニッチな「秘密の空間」だから楽しかった部分もあると思うんですよ。「弱者が強者に立ち向かう」というカウンターカルチャーとしての面白さがあった。でも、今はそれがメインカルチャーになっていて、同じような悪口を言っても、より攻撃性をもってしまう。そこは自分が知っている世界と少し変わったなと思います。

朝日新聞telling,(テリング)

――些細なきっかけで簡単に悪意に飲み込まれたり、無自覚に誰かを傷つけたりする怖さも描かれていましたが、これらの「恐怖」に対してどんなことを考えましたか?

菅田: いろいろな人と共存していく社会の中では、知らずに誰かを傷つけてしまう「無自覚の刃」みたいなものは、自分も含め、少なからず誰もが持っているのだろうなと思いました。そうやって傷つけ合うことで学んでいくこともあると思うんです。

ただ、ネットという世界の中では、相手の顔も名前も、本当のことは何も分からない、今まで出会えなかった人とも出会えてしまう。集団になればそこでの「当たり前」が生まれて、こういう結末を生むこともある。そういう怖さがあると思いました。

集団が生む、良くも悪くも強いエネルギー

――あることをきっかけに、吉井はネット上で集まった集団による「狩りゲーム」の標的にされ、展開が進んでいきます。

菅田: 最初に、ネットカフェで生活している三宅(岡山天音)が分かりやすく「ラーテル」(吉井)の被害者という感じで出てきて、誰が見ても彼がラーテルを恨むのは理解できるんです。それで三宅が「アイツ、コロス」と思い立ち、同じようにラーテルに対して恨みや悪意を持つ人たちを掲示板で募ったら、意外と他の人たちは同じような熱意ではないことを後々知ることになる。

朝日新聞telling,(テリング)

吉井を転売業に誘う先輩の村岡(窪田正孝)や、吉井が働いていた工場の社長・滝本(荒川良々)など、みんなが持ち寄る感情が、きっと映画を見ている人にとっても予想外なんですよ。だからこそ生まれる怖さや、いつの間にか集団に引き上げられて思いが暴走してしまう怖さはあるなと感じました。

――吉井に対する攻撃がだんだん過激になっていく様は、見ていても恐ろしかったです。ここまでの狂気ほどではないけれど、いつの間にか「集団」のエネルギーに引っ張られてしまうことは、日常生活でもありますよね。

菅田: 学校という場所やクラスという集団もそうですよね。それはいじめとか悪い面だけではなく、例えば、前髪を留めるヘアクリップが流行ったことあったじゃないですか。今思うと「あれってなんで流行っていたんだろう」って思うけど、みんながやっているから自分もいいと思う。良くも悪くも、集団の中では盲目的な強いエネルギーが生まれることがあるんだと思います。

ヘアメイク:AZUMA(M-rep by MONDO artist-group)
スタイリスト: KEITA IZUKA

■根津香菜子のプロフィール
ライター。雑誌編集部のアシスタントや新聞記事の編集・執筆を経て、フリーランスに。学生時代、入院中に読んだインタビュー記事に胸が震え、ライターを志す。幼いころから美味しそうな食べものの本を読んでは「これはどんな味がするんだろう?」と想像するのが好き。

■慎 芝賢のプロフィール
2007年来日。芸術学部写真学科卒業後、出版社カメラマンとして勤務。2014年からフリーランス。

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