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“日記本ブーム”到来、背景にはコロナ禍やSNSの普及? おすすめ日記本8選

  • 2024.9.26

日記を書籍化した「日記本」が注目される昨今。2020年4月、下北沢にオープンした日記の専門店『日記屋 月日』のディレクター・久木玲奈さんと店長・栗本凌太郎さんに日記を読む醍醐味と、読者におすすめの日記本を聞きました。

日記を“読む”

日記を“読む”ことで、想像が掻き立てられる。
多くの客が訪れ、日記本ブームを牽引する『日記屋 月日』。これまでに取り扱ったタイトルは1000を超え、自主制作本の持ち込みも年々増えているという。

「過去何度か日記ブームはありましたが、私たちがお店をオープンした2020年以降の実感として、コロナ禍のタイミングが重なったことも影響していると思います。同時に、文学フリマなど個人で出店できるマーケットが注目を集め、新たな書き手たちも発掘されていきました」(『日記屋 月日』ディレクター・久木玲奈さん)

「オンデマンド印刷など、本の形にすることが容易になったことも関係していると思います。あとはSNSの普及により、個人で発信することに抵抗がなく、他者の個人的な日記を読む行為が自然と受け入れられたのではないでしょうか」(『日記屋 月日』店長・栗本凌太郎さん)

日記を“書く”ことは内面を探るような行為だが、日記を“読む”ことは誰かの風景から想像を掻き立てられる行為かもしれない。日記を読むおもしろさについて、ふたりはこう話す。

「特に思うのは、日付があることで生まれる魅力だと思います。日付によって、まったく面識のない人だとしても、その人と自分の生活が自然とつながる。そのうえで、空白の日があれば読んできた日記から相手の生活を想像し、自分で勝手に補ってしまうのが、創造的でおもしろいなと思います」(栗本さん)

「日記には、その人の思考のメモが記録されていると感じます。その記憶を通して自分の記憶にも触れられる。たとえば海水浴に行ったという描写に自然と自分の思い出を並走させてしまう、その瞬間が大好きです。一方で、いくら日記を読んでも結局その人のことはわからない。“他者である”というあたり前を受け止めるのは決してネガティブなことではなく、大きな話になりますが、一人ひとりが生きている、みたいなことを実感できる気がします」(久木さん)

久木さんセレクト

1、『読書の日記 皮算用/ストレッチ/屋上』阿久津 隆/NUMABOOKS

読書とともにある生活を綴った大ボリュームのシリーズ本。
本の読める店『fuzkue』店主が、読んでいる本と自身の暮らしを綴った、600ページ超の日記シリーズ第6弾。「読書記録を読むだけでも十分満足ですが、日記の中に商いと生活、その時どきの読書体験が入り組んでいて読み応えがある。時々、そのとき読んでいる本の文体が乗り移っているのもおもしろいです」(久木さん)。2750円

2、『テント日記/「縫うこと、着ること、語ること。」日記』長島有里枝/白水社

長年縛られてきた母親との関係をもう一度見つめ直した日々。
ぎくしゃくした母親との関係に変化を生むため、写真家の長島有里枝さんが自身の母、パートナーの母と共にテントを制作する様子と対話を記録。「目を背けていた母親との関係を、見つめ直した大事な時期に書かれた日記。憎むこともできるけれど、親子という複雑な関係をなんとかしたい気持ちが素直に記されています」。2530円

3、『ロシア日記――シベリア鉄道に乗って』高山なおみ/新潮社

憧れの作家が綴った日々を、辿りながら旅をする。
数多くの日記を刊行している料理家・文筆家の高山なおみさん。敬愛する武田百合子さんの旅行記『犬が星見た』の軌跡を辿って、画家の川原真由美さんとロシアを旅する。「憧れの武田百合子さんと目線を重ね合わせることで生まれた日記。料理家である高山さんの生き物や出来事に対する観察力がとても魅力的です」。1540円

4、『富士日記(上)』新版 武田百合子/中公文庫

“これぞ日記”。庶民の暮らしが記録された日記文学の至宝。
作家である夫と娘と過ごした富士山麓での13年間を記録した三部作の上巻。淡々としながらも、季節のうつろいや食事の記録などから当時の景色や匂いが感じられる名作。「これぞ日記の文体という感じがして、繰り返し読んでいます。日々の生活を誇張することも、卑下することもなく語る様が等身大で心惹かれます」。1034円

栗本さんセレクト

1、『地震日記 能登半島地震発災から五日間の記録』鹿野桃香

能登半島地震が起こった5日間。携帯にメモしたリアルな思い。
能登半島地震が起こった1月1日から5日間、スマホに書き留めていた日記をZINEにした一冊。「普段通りに過ごしていた年明けから一転した様子がありありと書かれている。日記本は日付があることで自分の過去と結びつき、まるで同じ日を経験したかのように思える、その醍醐味を感じられる本です」(栗本さん)。1000円

2、『Revisit』VIDEOTAPEMUSIC/カクバリズム

楽曲制作をしながら日記を綴る。音楽と本、両面から記憶を記録。
国内のさまざまな土地でフィールドワークを行いながら楽曲制作をする著者がかつて訪れた地を再訪し、曲を作りながら滞在する様子を記録したカセットブック。「数年前に流通していた、販路拡大のために本とカセットテープを一体型にしたもの。文章で読むだけではない、日記の魅力を感じられて、重層的に楽しめます」。5500円

3、『誕生日の日記』阿久津隆、いがらしみきお、イリナ・グリゴレ、植本一子、大崎清夏、金川晋吾、古賀及子、柴沼千晴、鈴木一平、pha、三宅唱、三輪亮介、me and you(久保山領、竹中万季、野村由芽)/日記屋 月日

日記に関心のある15人の誕生日にまつわるアンソロジー。
誕生日に紐づいて書かれた、さまざまな分野で活動する15人の日記を収録。「誕生日は一般的には普通の日でも、その人にとっては別の意味を持つ特別な日。嬉しいけれど悩みを抱える人もいると思います。あらゆる日付が誰かの誕生日であると捉え、ノンブルをつけず日付を印字したので、日を追うように読んでみてください」。2530円

4、『father』金川晋吾/青幻舎

失踪する父親を捉えた、写真と文章による日記本。
写真家・金川晋吾さんによる、失踪を繰り返す父の存在を写真と詳細な日記で捉えた写真集。「カメラと文章、ふたつの視点から父のことが語られるのですが、全然違う感情が伝わってきます。結局、親の考えていることはわからないけれど、それも含めて思いを巡らせている金川さんの文章が魅力的です」。2970円

『日記屋 月日』は東京・下北沢にあるコーヒースタンドが併設された日記の専門店。即売会イベント「日記祭」、オンラインコミュニティ「日記屋月日会」、ワークショップ「日記をつける三ヶ月」などの企画も運営。今年4月、出版部を立ち上げ、『誕生日の日記』を刊行。日記を書く・読むという行為や、その文章に関心を持ち、日記を楽しむ人たちの拠点となる場づくりを目指す。東京都世田谷区代田2‐36‐12

※『anan』2024年10月2日号より。写真・中島慶子 取材、文・羽佐田瑶子

(by anan編集部)

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