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「始まりは曖昧で、終わりはきっとない」。夏(目黒蓮)への手紙に書かれた答え 『海のはじまり』最終話

  • 2024.9.26

目黒蓮演じる月岡夏が、大学時代の恋人・南雲水季(古川琴音)の葬儀の場で、彼女の娘・南雲海(泉谷星奈)に出会う。人はいつどのように父となり、母となるのか。生方美久脚本・村瀬健プロデューサーの『silent』チームが新しく送り出す月9ドラマ『海のはじまり』(フジ系)は、親子や家族の結びつきを通して描かれる愛の物語だ。最終話、この物語の根幹を担うテーマに、そっと答えがあてがわれた。

生きていくためのおにぎり

夏と暮らすアパートを飛び出し、南雲家へと戻った海。縁側に寝そべり、なんだか浮かない表情の海を、南雲朱音(大竹しのぶ)や翔平(利重剛)が見守っている。祖父母2人にとっては、寂しさとたとえ一時的にでも孫が戻ってきた嬉(うれ)しさが入り交じり、複雑な心境だろう。

元気がなく、朝ごはんも受け付けない様子の海に、朱音はそっと告げる。「お箸を持つ元気がなかったら、おにぎり食べるの」と。「おじいちゃんとおばあちゃんね、ママが死んじゃった日でもご飯食べたの」「海のために生きなきゃいけないから、おにぎりにして食べたの」と重ねる。

生きていくための食事、これからの時間も歩いていくためのおにぎり。シンプルな、白ごはんの具なしおにぎりは、水季と海にとっても象徴的な食事だ。特別編において、水季は海のため、そして自分のためにおにぎりを用意していた。

朱音から投げかけられた言葉は、海にとって母のことを思い返すきっかけになり、同時に、かつては確かにそばにいた母のことを共有し合う、大切な時間の始まりにもなった。

行儀はよくないけれど、縁側に寝そべりながらおにぎりを食べる海。いつどんなときだって、何があっても、生きている人間は生きていかねばならない。

海はなぜ、夏との暮らしに違和感を覚え、いったん彼から離れたのか? それは、大好きな水季の話をしてはいけない、と感じたからだろう。そして、忘れなくては前に進めない、という、自分の思いとはズレた励ましを受けている気がしたからかもしれない。海は母のことを思い出して寂しくなりたいし、悲しくなりたい。かつて、確実に存在した水季との思い出を夏と共有し、つらいときは一緒に「つらいね」と言い合いたい。ただ、それだけなのだと思う。

津野の救いになった海の言葉

水季の生前、彼女や海のことを精力的に支えた1人として、図書館で働く元同僚の津野晴明(池松壮亮)がいる。彼は、海が家出をした日も、夏が休日出勤になった日も、時間を割いて助けになってくれた。それは、いまはもういない、しかし確かに近くにいた水季のために違いなく、同時に海のことを放っておけないと感じているからだろう。

津野が水季と心を通じ合わせた時があったことを知るのは、もはや彼自身しかいないのだろうか。彼はこれからも、もしかしたら家族になれたかもしれない大切な人の娘のために、支えとなる道を選ぶのだろうか。

しかし、海はちゃんと知っていたのだ。津野が水季に思いを寄せていたこと、そして、水季もそれに限りなく近い気持ちを抱いていたことを。夏が休日出勤で、津野、夏の元恋人・百瀬弥生(有村架純)、夏の弟・月岡大和(木戸大聖)が海のもとへ集まった日、帰り際の津野を追いかけてきた海が「津野くん、ママのこと好きだった?」と問いかけるシーンから、それが分かる。

「うん、好きだよ。何いまさら」と津野は答える。海はさらに「ママも、津野くんのこと好きだったよね」と言う。シンプルなやりとりだけれど、きっと津野にとってはこれだけで十分だったのではないか。

海がもっと大きくなるまで、津野は休みの日に駆り出されたり、図書館に遊びにきた海の相手をしたりすることになるかもしれない。夏にあまり知られたくない秘密を、海が理解している。それは津野にとって、これからも夏や海を支える柱の1本となることをためらわない理由になるはずだ。

水季が示す「親子がともに幸せに生きる道」

最終話において注目されたのは、夏と弥生の復縁、そして水季から夏へ宛てた手紙の内容だったと思う。

結果的に、夏と弥生が復縁することはなかった。弥生は、彼女自身が後悔することのないよう、自分らしく自由に生きる道へとすでに歩みを進めている。これからも、彼女は海と“友達”として関わっていくだろうし、それ以上でも以下でもない関係性を維持していくに違いない。

水季がつづった夏宛ての手紙には、海と一緒に生きることを選んでくれた夏への素直な感謝と、この物語の根幹を担うテーマ「人はいつどのように父となり、母となるのか」に対する答えが含まれていた。

「始まりは曖昧(あいまい)で、終わりはきっとない」。手紙の追伸に書かれていた言葉だ。それは、「海はどこから始まるのか」という、娘の素朴な疑問に答える過程で行き着いた言葉だけれど、そのまま“親”や“親子関係”を表す的確な表現にも思えてくる。

いつの間にか始まっていて、ときに自覚を交えながら、終わることなく続くものが親子関係なのかもしれない。やめたくてもやめられず、だからこそ、ともに生きていく道を探りながら成長していく。子は親から学び、親も子から学ぶのだ。

これからも、夏と海の2人暮らしには待ち受ける困難があるだろう。素直で聡明で真っ直ぐに育っている海だけれど、もしかしたら、年齢を重ねるごとに、男親しかいない現状が行き違いにつながることがあるかもしれない。

それでも、夏は少しずつ父親になりながら、海と向き合い続けてくれるはずだ。海の母親である水季から受け取った言葉のとおり、「海を幸せにしながら、自分も幸せに」生きていくために。

■北村有のプロフィール
ライター。映画、ドラマのレビュー記事を中心に、役者や監督インタビューなども手がける。休日は映画館かお笑いライブ鑑賞に費やす。

■モコのプロフィール
イラストレーター。ドラマ、俳優さんのファンアートを中心に描いています。 ふだんは商業イラストレーターとして雑誌、web媒体等の仕事をしています。

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