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100年先の未来に向けて、世界に誇れる日本酒――「米ぬか」をアップサイクルして新たな日本酒へ

  • 2024.9.26

日本酒造りで生まれる「米ぬか」を、リサイクルではなく、さらに美味しく、価値を高めるアップサイクルに成功した日本酒があります。

『弍光』の仕上がりに絶対の自信を持つ生駒さん
『弍光』の仕上がりに絶対の自信を持つ生駒さん

それぞれの朝は、それぞれの物語を連れてやってきます。

「SAKE HUNDRED」という日本酒のブランドをご存知でしょうか。720ミリリットルの四合瓶の日本酒は、高くても数千円程度ですが、「SAKE HUNDRED」は、数万円から数十万円といった世界初の“ラグジュアリー日本酒”を開拓し、「世界中の人々の『心を満たし、人生を彩る』こと」をブランドの目標に掲げています。

このブランドを手掛けるのは、株式会社Clear。2013年に設立した、日本酒業界では、まだ新しい会社です。日本酒造りの企画・開発・販売・管理を行っていますが、日本酒の「醸造」は、酒蔵に委託しています。複数の酒蔵と共同開発をすることで、それぞれの酒蔵の強みを引き出し、魅力的なお酒を造ることが出来、そして得た利益が日本酒産業全体の成長にもつながるという理由もあって「委託醸造」の形態をとっています。

株式会社Clearの代表取締役CEO、生駒龍史さんは38歳。日本酒との出会いは、決して良くなかったと言います。

「大学時代、軽音楽サークルに入っていて、ライブの打ち上げで、先輩から飲まされるお酒がいつも日本酒だったんです。僕にとって日本酒は、辛い、きつい、アルコール度数が高い……。そんな得体の知れないイメージがあって正直、怖かったんですよ」

日本大学法学部を卒業後、IT企業に就職した生駒さんですが、上司のパワハラに遭い、入社2ヶ月足らずで会社を辞めます。その後、転職するものの、「起業したい」という思いが強くなり、25歳で独立……。

「当時、1ドルが75円の時代で、海外からアウトドアのアパレルを仕入れて、通販サイトで販売する事業を始めました。他に、売れるものを探していたとき老舗の酒屋を継いだ大学時代の友人が、日本酒をネットで売れないか、と話を持ちかけてきたんです。日本酒にいいイメージがなかったので断ると、『この酒を飲んでから決めてくれ』と勧められたのが、熊本の『香露』という大吟醸でした。一口飲んで日本酒のイメージがガラッと変わりましたね」

日本酒ブランド「SAKE HUNDRED」ラインナップ
日本酒ブランド「SAKE HUNDRED」ラインナップ

当時、まだ珍しかった「サブスク」で日本酒を売り始めた生駒さん。日本各地の選りすぐりの日本酒が、毎月3000円〜5000円で届くというサブスクがヒットし、2013年、株式会社Clearを設立。2018年には、ブランド「SAKE HUNDRED」を創業します。「SAKE HUNDRED」のフラッグシップとして造られたのが『百光』です。「100年先まで光照らすように」という想いが込められています。

シャンパンのようなお洒落な瓶で、ラベルは「百光」以外、全て横文字です。価格は3万8500円……。入手困難な日本酒として知られており、今年一万本を抽選で販売しましたが、7万人の応募が殺到して、“2024年醸造分”は、完売になっています。まさにラグジュアリー日本酒の分野を開拓した銘柄です。

「どんなに高いお酒でも、飲んだら空き瓶しか残らないと言う人がいますが、僕はそう思いません。大切なイベントやお祝い事に飲んだ『百光』は、いつまでも最高の思い出として残るはずです。晩酌で飲んでいる日本酒が“日常”の酒ならば、『百光』は“非日常”の酒だと思っています」

さて、ここから“アップサイクル”のお話です。

『百光』の原料米は、無農薬の有機栽培なので品質も最高級。このお米を200時間以上かけて徹底的に磨きあげます。精米歩合は18%、原料米の多くが「米ぬか」として排出されます。ビタミンやミネラルなど栄養価が高い「米ぬか」は、家畜の飼料や、お煎餅や米油、漬物などにリサイクルされるですが、『百光』から生まれる上質の「米ぬか」を、どうにか日本酒造りに生かせないものかと、生駒さんはずっと考えていました。

「米ぬかは風味を損なうため、積極的に醸造で使われることはなかったんです。それでもサステナブルな時代だからこそ、米ぬかを使って地域環境への貢献をしたかったんです。これまで見向きもされなかった米ぬかを価値のあるものとして、その可能性や魅力をもっと広めたい。日本酒で成功させて、他業種にもPRしたかったんです」

しかし、米ぬかを醸造で使うことは、そう簡単ではありませんでした。多くの日本酒は、米・麹・水を三回に分けて投入する「三段仕込み」ですが、今回は「四段仕込み」という醸造法を用いました。四回目に「米ぬか」と「白麹」を、甘酸っぱい甘酒のようにして投入することで、まるで果汁のようなジューシーな味わいの新しい日本酒が誕生しました。

その名も『弍光』。100年先まで光照らす酒、『百光』への架け橋として、より多くの人々に届ける「第二の光」として生まれました。

価格は一万円を切って、税込9,900円です。 価値のないものを、価値のあるものへ……。100年先の未来に向けて、生駒さんは、世界に誇れる日本酒を創り続けます。

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