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『BLUE GIANT』石塚真一と松下マサナオが考えた、楽器から入るジャズ講義 〜DRUM編〜

  • 2024.9.30
タムラフキコ イラスト
BRUTUS

先生:松下マサナオ(ドラマー)

時空間を自由に率いるジャズドラム

松下マサナオ

ドラムに求められている重要なことは「始まり方」と「終わり方」のセンスだと思います。息が詰まるような緊張状態のイントロから、フレーズ一つで開放的な世界へ連れていくセンス。空気を読み合いつつ「もちろん、こう終わるだろう?」とイニシアチブを取る力。

石塚真一

始まりと終わり、つまりすべての時空間を主導するんですね。

松下

それができているバンドは見ていて気持ちがいいし、場の空気が淀んでない感じがしますね。

石塚

ドラムという楽器の特性は?

松下

管楽器は口で楽器に、ピアノは指で触れる。でもドラムは、スティックやブラシという道具を介して太鼓に触れる。バスドラも足で太鼓を蹴るわけじゃなく、ビーターと連動したペダルを踏んで叩きます。脳の「叩け!」からビーターが太鼓を叩く「ドン」までに段階があるわけで、その連動のスピードを上げる訓練が必要なんです。

石塚

じゃあセッションする時の楽器やメンバーはどう選んでますか?

松下

セッションギグをやる時は、僕が想像し得なかった次元に連れていってくれる人や、おもちゃ箱をひっくり返したような演奏をする人を選びます。崩壊することを全く恐れないメンツの集まった現場が好き。僕もがむしゃらでいたいし、カッコつけてたいですもんね。

石塚

ドラマーは本能的であれ、と。では松下さんにとっていい奏者とは。

松下

楽器の世界では、ジャン!って鳴らした瞬間に奏者がわかる……みたいに言われることがありますが、ドラムの場合、それはフレーズやタイミング、間合いや音色の集合体であり、なんならそこにあるものすべてが含まれると思うんです。だから僕にとって「その人たらしめるもの」は、見た目も大きいと考えています。

例えばジャック・ディジョネットのドラムが大好きなんですけど、彼があの叩き方で、あのセッティングで、あの表情じゃなかったらここまで惹かれないかもしれない。エナジーやエモーショルな部分の話。その場を少し壊すような違和感を持つドラマーに憧れます。

ジャズドラマーとは自分の中に自由な軸を持つ人

石塚

小学生に「どうしたらうまくなるか」と聞かれたらどうしますか。

松下

逆に「なんでうまくなりたいの」って聞きますね。目的が見えていればやることも見えてくるし上達も速い。今ってYouTubeとかで世界中のハイレベルな超若手たちの映像がすぐ観られる。焦りも憧れも嫉妬も同時進行で、レベルアップのスピードが全然速いんです。楽しく練習するだけの時代じゃなくなっている印象は強いです。あくまでプロを目指すならだけど。

石塚

リアルですね。では最後に、楽器によって演奏は変わりますか?

松下

ジャズ箱でのライブ時は基本、会場のものを使うし、あまり関係ないかな。もちろん自分の楽器の方が圧倒的に自由度は高いですよ。

石塚

それは楽器よりも自分の体の方に軸があるということ?

松下

はい……いや、軸が常にブレてると言った方がいいのかもしれません。軸がしっかりしてなきゃダメな楽器と思われがちですが、自分の軸を自由にブレさせられる人、軸の配置を無造作にできる人が、強いドラマーなのかもしれないですね。

ドラムの時代を変えたイノベーターたち

Sonny Payne『Live at the Sands』
Sonny Payne/Recommend:『Live at the Sands』 「カウント・ベイシー楽団のドラマー、ソニー・ペインは、1950~60年代に圧倒的なパフォーマンスで、時代をぶち壊した人。ラスヴェガスのホテルでのライブ盤は、彼の荒々しい暴れっぷりがカッコいい」(松下)
Roy Haynes『Now He Sings, Now He Sobs』
Roy Haynes/Recommend:『Now He Sings, Now He Sobs』 「リズムキープの楽器だった時代を変えたのが、トニー・ウィリアムス、エルヴィン・ジョーンズにロイ・ヘインズ。ドラムが自由になった70年代前後の金字塔です。クリスピーでハイピッチなドラムは今も新しい」(松下)
石若駿「Brilliants feat.石若駿, 秋田ゴールド マン, 佐瀬悠輔」
石若駿/Recommend:「Brilliants feat.石若駿, 秋田ゴールドマン, 佐瀬悠輔」 「時折ため息すら出ない世界レベルのスキル。さらにあの人柄も演奏に表れている無双のドラマー。彼に嫉妬しそれを乗り越えることで日本のドラム業界は新しい時代を迎えるのかなって思ってます」(松下)

profile

ドラマー・松下マサナオ
BRUTUS

松下マサナオ(ドラマー)

まつした・まさなお/長野県生まれ。17歳でドラムを始め、2007年渡米。2年間の武者修行を経て帰国。Yasei CollectiveやGentle Forest Jazz Bandなどでの活動のほか、アーティストサポートも活発に行う。


profile

漫画家・石塚真一
BRUTUS

石塚真一(漫画家)

いしづか・しんいち/1971年茨城県生まれ。サックス奏者の宮本大を主人公にした大人気ジャズ漫画『BLUE GIANT』(小学館『ビッグコミック』でニューヨーク編が連載中)は2023年にアニメ映画にもなった。

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