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残酷すぎる呪いに立ち向かう女性主人公の運命は? 数々の賞を獲得した台湾発のファンタジーアクション大作『207本目の骨』

  • 2024.9.25
ダ・ヴィンチWeb
『207本目の骨』(リン・イーチェン)

呪われた血筋。これはファンタジーマンガにおける鉄板の設定だ。その呪いが陰惨であればあるほど物語は盛り上がり、読者を熱くさせる。しかしながら、台湾発のコミック『207本目の骨』(リン・イーチェン)で描かれる「呪い」には言葉を失ってしまった。あまりにも残酷ではないか、と。

なお本作は、2023年の金蝶賞(ゴールデン・バタフライ・アワード)(初版第一刷)、第14回台湾ゴールデンコミック賞年度漫画賞、第17回日本国際漫画賞入賞(銅賞)を受賞した、台湾本国で大きな話題となっている作品である。

台湾を舞台にした本作には「奇独」という姓の一族が出てくる。彼らは呪いと加護を受けているらしく、奇独家の男の妻は、207本の骨を持つ――つまり通常よりも骨が一本多い赤子を孕むという。そうして胎内で育った赤子は13カ月が経つ頃、手に持った「骨剣」で母親の腹を突き破り、この世に誕生する。同時に、母親は必ず命を落とす。

その子どもは強く成長し、「挟骨者」と呼ばれる存在となる。この「挟骨者」は圧倒的な武力でもあるため、奇独家は都市国家を築き、いつからか世界征服に乗り出した。各国はどうしたか。奇独家に服従を示すため、女を献上したり、政略結婚を進めたりしたのだ。

本作はそんな奇独家に嫁いだタイ・ハンボーが逃げ出すシーンから幕を開ける。

奇独家がしている行為は、まさに「女性を産む道具」とみなす行為にほかならないだろう。家の繁栄のため、国家の存続のため、世界を征服するため、女に「挟骨者」を産ませる。必ず死んでしまうとわかっていても、なお。このあたりの設定は、かつての台湾にあった男尊女卑感情を下敷きにしているのではないか、と想像させられる。ファンタジーとはわかっていてもそこで描かれる男たちの感情や選択にはリアリティがあり、非常にグロテスクだ。

だからこそ、そんな状況に風穴を開けようとするタイ・ハンボーを見ていると、自然と応援したくなる。彼女の正体は軍人だ。半龍帝国で「挟骨者」の秘密を探る研究をしているらしい。そのため彼女は奇独家に嫁いだ。いわば、身を挺して呪われた血筋の呪いを解き明かそうとしているのである。

狙い通り奇独家の子を妊娠したタイ・ハンボーは、研究のために脱走を図ったというわけだ。

しかし、もちろん、そう上手くはいかない。奇独家の面々は逃げ出した彼女を追う。妊娠した彼女に手荒な真似はできないが、かといって生易しい方法も取らない。しかも追手のなかには「挟骨者」がおり、噂の骨剣による不思議な攻撃も仕掛けてくる。タイ・ハンボーは無事逃げ出せるのか、あるいは……。

見方を変えれば、奇独家もまた犠牲者といえるかもしれない。本当ならばごく平凡に暮らしたいのに、呪われた血によってそれが叶わないのだから。とするならば、本作は理不尽な運命を強いられた男と女、それぞれの物語とも読めるだろう。

どちらか一方を踏みつけるのではなく、ともに手を取り合って生きられるような世界は訪れるのか。血なまぐさい闘いが繰り広げられる未来の行方は、タイ・ハンボーが握っている。

文=イガラシダイ

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