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芸術の秋に観たい、映画館に行きたくなる映画3選!

  • 2024.9.25

逆風が似合うモードの風雲児、背中合わせの美醜と向き合う。

『ジョン・ガリアーノ 世界一愚かな天才デザイナー』

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© 2023 KGB Films JG Ltd

2011年の舌禍騒動で華々しいキャリアを無にしたジョン・ガリアーノに、ドキュメンタリー畑の旗手が肉薄。1990~ゼロ年代の絶頂期までファッション界の寵児が疾駆した軌跡をレアな映像と証言で辿る前半と、「社会的自殺」への萌芽を繁忙時の舞台裏に探り、事件の核心へガリアーノ自身と踏み入る後半からなる。フランス映画初期の天才監督アベル・ガンスの『ナポレオン』(1927年)に彼は心酔。その役者じみた挙動が来たるべき皇帝の世界進撃への熱情と時に同化し、別世界の蠱惑を湛えたショーの特異な感覚とも響き合う。破滅を控えた天才の危うさが綱渡り的創作欲に見え隠れし、差別発言は醜態でしかないが、ジョンの贖罪の行脚がいい方角へ向くよう、念ずる心地になる。

『ジョン・ガリアーノ 世界一愚かな天才デザイナー』
監督/ケヴィン・マクドナルド
2023年、イギリス映画116分
配給/キノフィルムズ
ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国にて公開中
https://jg-movie.com/

母を疎んで離反した息子の、胸に沁みる帰郷と旅の再開。

『ぼくが生きてる、ふたつの世界』

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© 五十嵐大/幻冬舎©2024「ぼくが生きてる、ふたつの世界」製作委員会

東北の港町、耳の聞こえない両親の間に生まれた健聴の子・大は、善意を装った周囲の特別視や、晴れやかに努める母の情愛を、思春期を境に厭わしく感じ、成人して家を出る。設定の似た先駆作『コーダ あいのうた』(2021年)に敬意を払いつつ、『そこのみにて光輝く』(14年)の俊英は、家庭と世間を繋ぐ"通訳"から解放された大の、漂泊と帰還の物語に力点を移動。吉沢亮演じる線の細い反抗児の大は、でんでん演じる漁師崩れの渡世人という風情の祖父と妙に相性がいい。名脇役の少し下品な豪傑ぶりが、目標も名実もなく東京の底辺をさすらう道楽息子を暗に救い、文筆の道(原作は五十嵐大の自伝的エッセイ)へ導く。母の天てん稟ぴんに大が気付く駅の閃光的回想も名シーンだ。 

『ぼくが生きてる、ふたつの世界』
監督/呉 美保
2024年、日本映画105分
配給/ギャガシネスイッチ銀座ほか全国にて公開中
https://gaga.ne.jp/FutatsunoSekai/

フランス映画屈指のミューズが、独創の道を拓いた冒険と真価。

『リュミエール』

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LUMIÈRE© 1976 FONDS JEANNE MOREAU POURLE THÉÂTRE, LE CINÉMA ET L'ENFANCE.TOUS DROITS RÉSERVÉS

氷の冷たさと炎の激越さの混交を1950~60年代の大物たちに愛された反逆的スターのジャンヌ・モローは、70年代、希少だった女性映画監督の道に進出。彼女の別の顔を照らす小特集「映画作家ジャンヌ・モロー」が秋を彩る。監督デビューとなる日本初公開の本作は、モロー演じるサラほか、4人の女優仲間が郊外の瀟洒な家で過去を語り合う会話劇に始まる。映画は1年前のパリの夏に遡り、撮影現場や合間の歓談、撮影後のミニパーティやお忍びデートを、いま眼前の出来事のように巡る。ドイツから来たブルーノ・ガンツ、米国から来たキース・キャラダイン、と後の名優扮する若くアブない色男と羽を伸ばしたり、女優たちは痛手を負いつつ、笑えてくるほどタフであけすけ。

『リュミエール』
監督・脚本/ジャンヌ・モロー
1976年、フランス映画102分
配給/エスパース・サロウ
10月11日より、新宿シネマカリテほか全国にて順次公開
https://gaga.ne.jp/lumiere!/

*「フィガロジャポン」2024年11月号より抜粋

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