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ジャンポール・ゴルチエとルドヴィック・ド・サン・セルナン、世代を超えたコラボレーションが生もうとするもの

  • 2024.9.25

史上最年少にして、ジャンポール・ゴルチエJEAN PAUL GAULTIER)の8人目のゲストデザイナーに選ばれたルドヴィック・ド・サン・セルナンLUDOVIC DE SAINT SERNIN)。彼が生まれたのは1990年で、ゴルチエが38歳のときだ。この年に発表された「Adam and Eve, Rastas Aujourd’hui」コレクションショーでは、カラフルなスーツや花柄のコルセット、ダンスクラブに出かけるかのようなルックに身を包んだヘレナ・クリステンセンやロッシ・デ・パルマをはじめ、カップルを装った男女のモデルたちが身を寄せ合いながらランウェイを歩いた。そこにはゴルチエにしか表現できないユーモアとパフォーマンス、そして性的な含みがあり、今日においてあれほどまで特異な演出を目にすることはなかなかない。

一方、ド・サン・セルナンが自身のレーベルを立ち上げたのは2017年。昨年は1シーズンだけアン ドゥムルメステールANN DEMEULEMEESTER)の手綱を取った。ジェンダーとセクシュアリティに対する自由な発想をもとにしながら、時にミニマルに、そして時にグラマラスに身体美を際立たせた服を生み出すことで知られる彼が、ゴルチエのアイコニックな作品の数々を探求している姿は想像に難くないだろう。

ニコラ・デ・フェリーチェやジュリアン・ドッセーナシモーン・ロシャなど、気鋭の才能たちの後に続くド・サン・セルナンは、メンズルックを発表する初のゲストデザイナーとなる。また、彼にとってオートクチュールへの進出は今回が初めてだ。春のショーは1月に発表されるにもかかわらず、彼が自身の2025年春夏ショーをスキップする背景には、そういったことによる大掛かりな準備が関係しているようだ。

『VOGUE』の独占インタビューに応じてくれた二人のデザイナーたちは、世代間の隔たりを快く受け入れているように映った。また、過去を振り返るときも未来に目を向けるときもどこか気楽で、両者には通じるところがある。二人は今、どういったプロセスでコレクションの制作を進めているのか、私たちは何を期待すべきか、ジャン・ポール・ゴルチエの本社から語ってくれた。

──まず、ジャン・ポールはルドヴィックの作品をどのように知ったのでしょうか?

ジャンポール・ゴルチエ(以下、JPG) 彼の作品は知っていたのですが、彼のことは知りませんでした。私はいつも新しいデザイナーたちが何をしているかに興味があるのですが、彼の最初のコレクションを見たとき、男性の装いに対する大胆なアプローチにとても驚いたことを覚えています。私は彼が挑発的で、かつ同時に興味深く、ただ美しいものを作っているのがとても好きです。「このデザイナーはいい」とそのとき確信しましたね。

──そしてルドヴィック、ゴルチエの目に自分が映っていたことを知ったとき、どう感じましたか?

ルドヴィック・ド・サン・セルナン(以下、LdSS) 信じ難いことです。彼に初めて実際に会ったのは、デュア・リパのコンサートのバックステージだったと思います。そのときの私たちはただ、素晴らしいライブを楽しんでいる少女たちのようでしたね。彼にどれだけ憧れているかを伝えてからすぐ、繋がりが生まれたと感じました。ファッションの世界で私が一番好きなのは、ずっとインスパイアされてきたアイコンと一緒に仕事ができるようになるところ! 今こうして一緒に仕事をしていて、自分がこんな幸運に恵まれているというのは、本当に信じられないことです。

──このプロジェクトについて話し始めたのはいつ頃だったのでしょうか?

LdSS 今年の夏の前。ランチをして、とてもいい会話をしました。私にできる、という自信を与えてくれましたし、こんなに素晴らしいメゾンの一部となれることをうれしく思います。

──プロセスについてお聞かせください。ルドヴィックはもう取り掛かっているのでしょうか?

LdSS はい、もう取り掛かっています。実現が決まったとき、興奮してすぐにスケッチを始めました。私は時間をかけてスケッチをするのがとても好きです。無我夢中で描きたいんです。たくさんのリサーチもしました。そしてある日、家でスケッチをしていて、(このコレクションを)どんなふうにしたいかわかった瞬間がありました。それはこの上ないフィーリングで、鳥肌が立つような感覚です。「ああ、これに命を吹き込むんだ、私が伝えたいストーリーはこれなんだ」って。7月にはスケッチを提出して、今最初の12ルックを見ているところです。

──今シーズンのショーを見送った理由もそこにあるのでしょうか?

LdSS 自分のベストを尽くしたかったのだと思います。そして、関連しているような気もするののですが、(自分のコレクションが)今シーズンはこんなものになっただろうという感じもありますね。それでもまだルドヴィック ド サン セルナンのコレクションはあるし、私にとって真新しいことだから、すごく楽しみです。そう、私は新しいことに挑戦しているのです。

──ジャン・ポール、8人目のゲストデザイナーを迎えた今も、このコンセプトはうまくいっていると感じますか?

JPG 率直にそう思います。とてもうまくいっている。メゾンを去るとき、私なしでやっていってほしいと言いました。とはいえ、一人のデザイナーを選ぶなんて…… 誰にすればいいのか。ゲストデザイナーを招待するというのは、ずっと前から考えていたことです。1987年にクリスチャン・ラクロワがジャン・パトゥ(JEAN PATOU)を去ったとき、各コレクションを一人のデザイナーで作るべきだと思った。私は1972年にアシスタントを務めていたことがあったので、ジャン・パトゥに出向いてこのアイデアを提案しました。ヴィヴィアン・ウエストウッドやロメオ・ジリといった、その時々で話題のデザイナーを起用してみてはどうか、と。だけどそのときはとてもフランス人らしい答えが返ってきましたよ、「高すぎる」って。それでも私はそのアイデアを捨てずにいました。なぜなら、さまざまな解釈、そして進化を見ることができると信じていたから。

──そういうことができるのは、しっかりとしたハウスコードを持つメゾンに限られますよね。デザイナーがメゾンを深掘りし、さらに長い時間をかけて探求することができるような、十分な歴史が必要ではないでしょうか。

JPG もちろん。こんなアイデアを提案するというのは、私の自惚れかもしれない。しかし、自分の個性を持ち、デザインで何かを語れる人がいるというのは夢のようなこと。ルドヴィックもまた、すでに自身のブランドでやっていることを、“ゴルチエのため”に披露してくれるでしょう。

──もし一度だけほかのメゾンで働くとしたら、どのメゾンで働きたいですか?

JPG サンローランSAINT LAURENT)でやってみたかった。だけど、今となっては遅すぎます。シャネルCHANEL)でもいい。すでにストーリーのあるメゾンです。ひとつの世界と、もうひとつの世界が一緒になるのを見るのが面白いんですよね。

──ルドヴィック、メゾンとしてのジャンポール・ゴルチエの最初の思い出について聞かせてください。

LdSS 最初は香水のコマーシャルだったと記憶しています。子どもながらに「すごい。この人はストーリーの伝え方を知っている」と感銘を受けました。ファッションでありながら、カルチャーの一部になっている。私がジャン・ポールについて最も尊敬していることのひとつは、彼がデザイナーでありながら、文化やポップカルチャーの一部となり、自分の信じる活動に参加したことです。彼は自分の声を世のため、楽しみのため、そして人々を解放するために使った。そしてそれは、彼が私より先に行ったからこそ、今の私にしかできないことになったのだと感じています。そして、ファッションを通じて自分らしくいること、自分の声やスタイルを持ち、誇りに思うことも。彼はインスタグラムやソーシャルメディアよりもずっと前に、自分の周りにコミュニティを築いていたのです。

──確かにそうですね。

LdSS このような繋がりを築くことができたのは本当に興味深いことです。彼は自分のブランドの顔として、人々と直接関わっていましたから。私たちが外に出ると、人々はまるで彼を知っているかのように声をかけてきます。ファッションデザイナーの役割に対して、彼がとても寛大である証です。私もその感覚を見習おうとしていますし、私たちには多くの共通点があると思います。

ジャンポール・ゴルチエ x サカイ 2021-22年秋冬オートクチュールコレクションより。
ジャンポール・ゴルチエ x サカイ 2021-22年秋冬オートクチュールコレクションより。
ジャンポール・ゴルチエ x グレン・マーティンス 2022年春夏オートクチュールコレクションより。
ジャンポール・ゴルチエ x グレン・マーティンス 2022年春夏オートクチュールコレクションより。

──ジャン・ポール、ゲストデザイナーたちはあなたに新しい何かを見せてくれているのでしょうか?

JPG もちろん。サカイSACAI)の阿部千登勢は日本人だから、当然ながら私とは違うものを作っています。彼女は私のデザインをいくつか取り上げて、それらを脱構築しました。グレン・マーティンスも美しいコレクションを作りましたが、もっと厳格でしたね。彼がやったことには感心しましたよ。ルドヴィックがこれから何かをもたらしてくれるように、これまでのゲストデザイナーたちも皆、それぞれのユニークな視点を私に見せてくれました。

──スケッチはもう見せましたか?

LdSS いいえ……。

JPG 見せない方がいい。だって私は驚かされたいから。もし私がサンローランのためにデザインをしていて、彼がここにいたら、私だったら「こんなことはできない。彼に気に入ってもらえないかもしれない」と不安に怯えていたと思う。ルドヴィックには自由でいてほしいし、自分を信じてほしい。

──ルドヴィック、あなたは今、オートクチュールにも挑戦していますよね。

LdSS アトリエでの仕事は大好きです。手作業で作品を作ること、そしてクラフツマンシップも。この情熱は、バルマンBALMAIN)でオリヴィエ(・ルスタン)と一緒に働いていたときからありました。ランウェイはとてもエキサイティングなものになると確信しています。その光景が目に浮かびますし、そのときを夢見ています。それに、素晴らしいクライアントたちにこれらの作品を披露するという経験も。これらの作品は生きて人々にインスピレーションを与え、そのメゾンの歴史の一部になるのです。それから、セレブリティのためにカスタムピースを作るのもとても楽しみにしていて、すでに考えているルックがあります。それがショーの後の私の目標です。

──ジャン・ポールがなぜルドヴィックの作品に惹かれたのか、その重なりについて考えてみると、ボディとレースの使い方が思い浮かびます。破壊的で、少しフェティッシュにも感じられる要素にお二人が惹かれる理由は何ですか?

JPG 私の方が年上だから、違う理由から来るものかと。まず、祖母のコルセットを初めて見たとき、私にはそれが何なのかわからなかった。肌の色をしたサテン生地に、レースアップ。祖母が教えてくれた、コルセットを締めるために酢を飲んでウエストを細くさせたという話をいつも思い出します。ニューヨークで1920年代か30年代を舞台にしたミュージカルがあったのですが、出演者全員がサーモンピンクのランジェリーを着ていました。若い女の子たちがそれをとても気に入っているのを見て、「ブラやコルセットからドレスを作るのもいいかもしれない」と考えました。(デザイナーとして)周囲で何が起きているのか、人々が何を望んでいるのかを反映させなければなりませんから。女性を苦しめようとは思っていませんでしたが、ユニセックススタイルが台頭した後のことだったので、私は女性の身体美を再定義し、それをもう一度見せたかったんです。ベアトリス・ダルやマドンナが私の服を着たいと言ったのもこのときのことでしたね。

──ルドヴィックはマドンナを意識しているのではないかと思ったのですが……。

LdSS そうかもしれませんね。今の髪の色はブロンドですし。面白いのは、ジャン・ポールはコルセットで、私はアイレット・ブリーフで有名になったということ。私たちはすぐにひと目でそれとわかるようなアイテムを見つけ、そこから二人で一つの世界を築き上げることができました。そしてそれは、ファッションを新しく、これまでとは異なる方法で表現したいという純粋な情熱から生まれたものです。私はウィメンズウェアを学んだので、駆け出しの頃はそれだけをやるつもりでいました。でも、ファッションが個人的な体験を投影したものにもなりうると理解したとき、それは私にとって大きな突破口となりました。私はこのときに、最初のコレクションは男性がウィメンズウェアを着るというものにしようと決めました。そうは言っても、女装しているようには感じさせないように。彼らの姿はリアルで、男性も女性も同じ服を纏えるとインスパイアできたと思います。これはジャン・ポールの視点に沿ったものでもあります。

JPG あの男性用のスカート。私はマスキュリンに見せようとしましたが、フェミニンになりました。

LdSS 当時のジェンダーに対する考えも影響したのだと思います。私はパリの16区で少し保守的な環境で育ったのですが、周囲とは切り離されていました。でも私は、「典型的なメンズの服は私に似合わない。それに、ボディを見せたい」と思っていたんです。そこで、ティーンエイジャーの頃に憧れていた女性たちが着ていた服を、男性に着せてみたらどうだろう、と考えました。すると突然、「すごい、こんなことができるなんて思わなかった」という発見に繋がったのです。

──ルドヴィック、今回の体験は今後のあなたのコレクションに影響を与えると思いますか?

LdSS 面白いことに、1月のオートクチュールコレクションが決まる前から私自身の新作コレクションに取り掛かっていました。今は両方同時に進めているのですが、ゴルチエの歴史にたくさん触れているので、このコレクションを目にする人々が類似点を見つけようとするかどうか気になります。ほかのメゾンに行くと、服の見方、服の作り方、ジャン・ポールならではのパターンの考え方など、たくさん違う方法を学ぶことになる。そしてそれは、たとえ意識しようとしなかろうと、間違いなく私の今後の仕事の仕方に影響を与えることになるでしょうね。

アン ドゥムルメステール 2023-24年秋冬コレクションより。
Photo: Filippo Fior / Gorunway.comアン ドゥムルメステール 2023-24年秋冬コレクションより。

──アン・ドゥムルメステールとジャンポール・ゴルチエ、あなたはまったく異なる2つの美学を扱ってきました。

LdSS そうですね。だけど、私には私の視点があります。ずっとファッションが好きだったので、この二つのメゾンのことはよく知っていました。アーカイブを手にして、実際に服を纏い、どんなものか確かめればすぐに感覚を掴むことができますし、純粋な情熱を持ってデザインに打ち込めます。そして、これまでの機会に敬意を表したい。アンであれジャン・ポールであれ、私が考えるのは「もし彼らが私の年齢で、私たちが今生きている現在の経験を持っていたら、何をするだろうか」ということです。

──新しいコレクションがどういったものになるのか、ヒントをいただけますか?

LdSS それはできません! まだ振り返られていないことが信じられない、あるレファレンスがあるんです。フランス人である私にとって、それは見過ごせないもの。本当に楽しみにしています。

──本当にこの日のためにブロンドにしたんですか?

LdSS 一緒に撮影するまでにブロンドにしたかったんです。2カ月前に仕込み始めて、ここ1〜2週間はこの色です。

JPG ブロンドになった気分は?

LdSS すごくいい。でも仕事が忙しくて、まだ楽しめていません。楽しめるようになりたいです。

Text: Amy Verner Adaptation: Motoko Fujita

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