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デッドリフト500kg!世界最強チャンピオンの筋肉は何が特別なのか?

  • 2024.9.25
世の中には、ジムのプレート(重り)を丸ごと持ち上げられるような怪力男性も存在する
世の中には、ジムのプレート(重り)を丸ごと持ち上げられるような怪力男性も存在する / Credit: Canva

世界最強の男大会『ワールド・ストロンゲストマン』は、毎年開催されている世界一の力自慢を決める祭典です。

この大会では、出場者がさまざまな力仕事や重量挙げの種目に挑戦し、最も卓越したパフォーマンスを披露した選手が「世界最強の男」として称えられます。

言うまでもなく、筋肉は、重い物を持ち上げたり引っ張ったりする力の源になるため、この大会に出場する力自慢たちは、常人を超えた筋肉量を持っています。

今回、イギリスのラフバラー大学(Loughborough University)の研究グループが、世界最強の男、エディ・ホール氏(イギリス)の下半身の筋肉量の計測データを発表しました。

当時、デッドリフトの世界記録(500kg)を保持していた彼の測定結果は、人間が鍛えることの可能性を示してくれています。

この記事では、今回の研究結果と彼のYouTubeチャンネルで語られていることなどをもとに、彼のスゴさに迫ります。

本研究結果は、『Journal of Applied Physiology』に9月23日付で最終版が公開されています。

目次

  • 世界一の怪力男・エディ・ホール氏
  • 骨盤や大腿骨を安定させる筋肉の発達がスゴい

世界一の怪力男・エディ・ホール氏

エディ・ホール氏は、ワールド・ストロンゲストマンでチャンピオンに輝いた経験を持つ、正真正銘の世界一の力持ちです。

彼はその大会以外にも、イギリス最強の男を決める大会でも5度優勝、デッドリフトの世界チャンピオンにも2度輝くなどの実績を持ち、現在では、YouTubeチャンネル『Eddie Hall The Beast』の登録者が300万人を超える人気ユーチューバーという側面も持っています。

エディ・ホール氏はドキュメンタリー映画の主演になるほどイギリスでは有名人
エディ・ホール氏はドキュメンタリー映画の主演になるほどイギリスでは有名人 / Credit: Wikimedia

今回、研究グループは、イギリス最強の男を決める大会で優勝した時から半年後に計測した彼の筋肉データを公表しました。

これまでの研究においても、力自慢の筋肉量に関するデータは報告されているものの、その結果は全身を通した数値に限られていて、部位ごとの詳細なデータはよく分かっていませんでした。

そこで今回、研究グループは、磁気共鳴画像(MRI)検査を用いることで、下半身の部位ごとの筋肉量を詳しく調べ上げました。

また、得られたデータと、特別な運動をしていない一般人、陸上競技100m競走のトップスプリンターのデータとを比べることで、彼の筋肉がどれくらい大きいものなのか、またその発達度合いは部位ごとに異なるのかを明らかにしています。

ちなみに、研究グループによると、本来のMRI検査では上半身の筋肉量も計測できるものの、彼の肩と腕が大きすぎて、上半身の計測ができなかったそうです。

そんな規格外の彼ですが、下半身の筋肉はいったいどれほどのものだったのでしょうか? 次のページでは、筋肉のデータと食生活をもとに、彼の強さに迫ります。

骨盤や大腿骨を安定させる筋肉の発達がスゴい

まず、下半身の筋肉全体でみると、彼の筋肉量は一般人のおよそ2倍(+96%)もあり、スプリンターと比べても、1.3倍(+32%)大きいことが分かりました。

それ以上に興味深いことに、下半身の筋肉量の発達度合いは部位ごとに大きく異なっていました。

特に発達していたのは、骨盤や太ももの骨(大腿骨)を安定させる役割を持ち、最終的には鵞足(がそく)と呼ばれる部位に付着する縫工筋(ほうこうきん)、薄筋(はっきん)、半腱様筋(はんけんようきん)という筋肉で、一般人に比べて、2.5~3倍も大きくなっていることが判明しました。

世界最強の力自慢の筋肉の中でより著しく発達していた部位(イメージ)
世界最強の力自慢の筋肉の中でより著しく発達していた部位(イメージ) / Credit: 写真AC

これらの筋肉は、一般にはマイナーな存在ですが、ラクダを持ち上げるのに相当する、500kgのデッドリフトを達成するためには、骨盤や大腿骨を安定させることが大切になるため、発達したものと考えられます。

研究グループは、膝や股関節を伸ばすメジャーな筋肉が最も発達していると予想していたため、得られた結果には驚いたと同時に、トレーニングや競技で最も使用する筋肉が特に発達していたことを踏まえ、運動刺激によって、人間の筋肉が成長できることを示すものだと述べています。

この記事を読んでいる人の多くは、彼ほどに筋肉を大きくすることは望んでいないでしょうが、筋肉を成長させるために、日々の取り組みが鍵となることは誰しも同じです。

実際、彼は何も特別なメニューをやっていたわけではなく、スクワット、デッドリフト、ベンチプレス、バーベルローなど、筋トレ愛好者の多くが好む種目を日々継続することで、筋肉を大きくさせていました。

ただ本当に凄いのは、食事量にあって、当時、彼は1日6〜7食、合計で16000kcalも摂取していました。

YouTubeで彼の食事を振り返る動画を見ると、朝食だけで2000kcalを摂っており、これは成人女性が1日に摂取するカロリー(目安)に匹敵します。

エディ・ホール氏の朝食
エディ・ホール氏の朝食 / Credit: Eddie Hall The Beast, I ate my old Strongman diet for a day

筋肉は脂肪に比べて、安静時でも多くのカロリーを消費しますが、身体全体に筋肉の鎧をまとい、日々トレーニングを続けた彼が消費するエネルギーは、相当なものであったと想像できます。

実際、大食漢のトップアスリートは他にも存在し、トップアスリートの成功の秘訣として語られることもあります。 たとえば、夏季五輪で28個のメダルを獲得した「水の怪物」ことマイケル・フェルプス氏は、現役時代に1日1万2000kcalも摂取していた時期があり、「良く食べ、良く睡眠をとり、良く泳ぐこと。これが僕にできることのすべてだ」とも語っています。

ということで、エディ・ホール氏の真の強さは、常人には食べられないボリュームの食事を摂ることで、身体を回復させながら重い物を日々持ち上げることを可能にした強靭な内臓にあったと言えるでしょう。

参考文献

Eddie Hall case study: Scientists investigate the secrets behind former World’s Strongest Man winner’s super strength
https://www.lboro.ac.uk/news-events/news/2024/august/eddie-hall-case-study/

元論文

Muscle and tendon morphology of a world strongman and deadlift champion
https://doi.org/10.1152/japplphysiol.00342.2024

ライター

髙山史徳: 大学では健康行動科学、大学院では体育学・体育科学を専攻。持久系スポーツの研究者として約10年間活動。 ナゾロジーでは、スポーツや健康に関係する記事を執筆していきます。 価値観の多様性を重視し、多くの人が前向きになれる文章を目指しています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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