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にしおかすみこさん、認知症の母・ダウン症の姉・酔っ払いの父……「背負う覚悟なんてない」から続けてこられた介護 『ポンコツ一家 2年目』

  • 2024.9.22

SMの女王様キャラで一世を風靡したにしおかすみこさんは、45歳から認知症の母、ダウン症の姉、酔っ払いの父と同居しています。そのてんやわんやな日々を綴ったエッセイ集『ポンコツ一家』の続編が、『ポンコツ一家 2年目』。家族の愛も介護もキャラもさらに濃くなった続編に、誰もが「にしおかさん、偉すぎる……」と思うけれど、ご本人は「自分ファースト」だから続けてこられた、と話します。

「自分が一番」の大原則

――今回の『ポンコツ一家 2年目』は、認知症&糖尿病のお母さん、ダウン症のお姉さん、始終飲んだくれているお父さんとの同居生活を描いた『ポンコツ一家』の続編。施設に預けることもできたのに、実家に帰って家族を支えると決めた理由はなんですか。

にしおかすみこさん(以下、にしおか): そもそも「家族を自分が支える」なんて腹はくくっていないんです。「私がいたほうがいいかな」「でも、完全にダメになる前に他の人に頼ろう」という程度の気持ちでいます。今も自分のできる範囲のことしかしませんし、私が元気でいることが、結局は家族のためにも一番。自分の健康や幸せが損なわれるようなことはしない、って最初から決めていました。この「自分が一番」という原則があったから、ここまで続けてこられたのかなと思います。

朝日新聞telling,(テリング)

――でも、一緒に暮らしていると、その線引きがすごく難しいと思うのですが、どこでご自身を守っていますか。

にしおか: しんどくなったら、小刻みに息抜きをしています。友人や先輩に愚痴るのもそうですが、一人でお高めのランチを食べに行くことも。私はお刺し身が好きなので、気分転換に都内に出かけて、ちょっと高めの刺し身ランチを黙々と食べたり、カフェのテラス席でお茶したり。テラス席にいると、急に自分がいい女になった気がするんです(笑)。

仕事のおかげで切り替えられる

――良かれと思って提案したことを「バカ!」と言われたり、家族から理不尽な仕打ちを受ける場面も登場しますが、引きずらないようにどう工夫していますか。

にしおか: まあまあ引きずります(笑)。とくに母は認知症なので、症状が言わせていることなんだから仕方ないんだ、と頭ではわかっているんですが、難しいですよね。例えば、仕事に行くときにメイクしたり、明るい色味の服を着たりすると、スイッチが切り替わるので、それでなんとかどんよりした気分を吹っ切っています。仕事には経済的だけでなく、メンタル的にも救われています。スタイリストさんに自分では選ばないようなワンピースを選んでいただくのも、気分が変わってありがたいです。

朝日新聞telling,(テリング)

――エッセイでは「得意技は聞き流す」だというお話もありましたが……。

にしおか: 母は時々、感情のコントロールが難しくなりますけど、本気で言ってるわけじゃないし、なるべく聞き流すようにしています。でも、以前、何度も同じことを言うので、つい「さっきも言ってたよ!」って声を荒げたら、「あんたが聞き流すから何回も繰り返してるのよ」と言われたことがあって。バレてるんだ、とびっくりしました(笑)。

――仕事と介護の両立で苦労されていること、工夫していることはありますか。

にしおか: 一人暮らしで仕事していた頃は、オフの日は本当に休めたのですが、今はだいたい母か姉を病院に連れて行っているので、常に時間に追われているような気がしていて……。意識的に「今日は絶対に気分転換する!」と決めて過ごすようにしています。

あとは、寝不足だとイライラしちゃうのですが、一時期細切れ睡眠になってしまったことがあって。「朝たんぱく質をとると、その夜の睡眠に繋がる」と聞いて、それから朝に二つゆで卵を食べるようになりました。でも、母がゆで卵のお皿に、良かれと思って生卵を補充するんですよ。だからみんなで毎朝恐る恐る割っています(笑)。

私がまずは健康でないと、と思うので週に1~2回はウォーキングやホットヨガなどの汗をかく運動もしています。

朝日新聞telling,(テリング)

庭のコスモスは自分のために

――忙しい中でも、玄関にお花を飾ったり、庭にコスモスの種をまいたりと、お母さんが少しでも安らげるように気を配っていらっしゃって、そのにしおかさんの優しさはどこからくるんですか。

にしおか: そんな大したことではなくて、母のためというより、ぜんぶ自分のためにやってることなんです。例えば、家を掃除するのも私がきれいなところに住んでいないと落ち込んでしまうからだし、庭にコスモスの種をまくのも、コスモスの花が咲いたら母が喜ぶからなんですよ。ずっと怒っている母よりも、ニコニコしている母のほうが、接する私がラクじゃないですか。だから、最終的に私のためにやってることだと思っています。

――すてきな考え方です。今、お母さんが喜んでくれることってどんなことですか。

にしおか: 凝った料理を作るよりも、なんでもないラーメンとかのほうが喜ぶんですよね。冷蔵庫に使い切れずにちょっとずつ余ってる、鮮度を失った野菜類をこれでもかと入れて、一応、栄養バランスに気をつけながらラーメンを作って二人でよく食べています。

――この本は、悲観的になりがちな状況もどこかに笑いどころがあるように書かれていて励まされます。ご自身がネガティブになったときは、どう対処していますか。

にしおか: やっぱり夜はどうしても悲観的になります。田舎なので、夜にはカフェやコンビニも閉まって気分転換も難しいですし。だから最近はイヤフォンで焚き火や雨の癒やしサウンドを聴いています。励ましのある歌を聴くと、歌詞を追っちゃってそれで疲れてしまうので、なんの意味もない焚き火のはぜる音がいいんですよ。そのまま眠りに落ちていくのが理想。無心になれる時間が大切です。

朝日新聞telling,(テリング)

――お話を聞いていて、「自分ファースト」であることが「ポンコツ一家」を支えるコツなのかなと感じました。

にしおか: 45歳のとき、実家に帰ったらゴミ屋敷になっていて、そこで母の認知症が発覚し、なし崩し的に同居生活が始まったのですが、「自分を一番大事にする」というのは最初から決めていました。母、姉、父と支えが必要な人が3人に対して、こっちは一人。もし3人を自分より優先してしまうと、絶対に私が病んでしまうことになる。私が病んでしまったら、誰も幸せにならないなって思ったんです。

ともすれば、自己犠牲に陥りがちな介護。なぜ、にしおかさんが最初から「自分ファースト」の大切さに気付けていたのか、そこにはお母さんからの深い愛情がありました。〈後編へ続く〉

■清繭子のプロフィール
エッセイスト/ライター/エディター。エッセイ集『夢みるかかとにご飯つぶ』(幻冬舎)2024年7月発売。出版社で雑誌・まんが・絵本の編集に携わったのち、39歳で一念発起。小説家を目指してフリーランスに。Web媒体「好書好日」にて「小説家になりたい人が、なった人に聞いてみた。」を連載。特技は「これ、あなただけに言うね」という話を聞くこと。note「小説家になりたい人(自笑)日記」更新中。

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