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Tシャツには人が出る。アーティスト、トム・サックス

  • 2024.9.23
2011年頃、最初期のスタジオTシャツを着たトム・サックス

愛猫の爪で開いた穴まで愛せるかどうか。この話がわかる者を皆、同じ部族とする

Tシャツっていうのは壮大なテーマで、この取材を受けるかどうかも数日悩んだほどだ。もう何年も着倒しているマーク・ゴンザレスのTシャツのことなども話したいところだが、今回はもうちょっとベーシックなところから始めたい。

僕のスタジオでは、もう何年もプロジェクトのたびにオリジナルTシャツを作っているのだが、ほとんどの場合ベースは〈フルーツオブザルーム〉だ。理由は最も安価で手に入るから。

安いものの方が、生地がボロボロになる感じのテクスチャーがいいんだよ。僕はボディは硬めの方が好きで、それを着続けることで徐々に馴染ませていくんだが、チープなものはチープなクオリティで、すぐボロボロになる。価格は決して嘘をつかない(笑)。

ある時、ほんのちょっとだけクオリティのいいボディに替えたことがある。案の定しっくりこなくて、そのボディにあえて〈フルーツオブザルーム〉のフェイクタグをプリントしたんだ。つまりダウングレードさせたってわけ。当時プリントをお願いしていたLQQK STUDIOはそれを面白がって、プリント代を無料にしてくれた。

やっぱり人が着たり、時間をかけたりしたことによるほころびというのは美しいものだ。特にこのデジタル時代にはより価値を感じるね。僕がNASAの茶器をろくろを使わずあえて手作りして指紋を残すというのと同じことさ。ボロボロのTシャツを着てNYの地下鉄に乗ると観光客に笑われることもあるが、もちろん僕の格好こそがシックであることは言うまでもない。

世界中どこにいても、どんなTシャツを着ているかでその人となりはわかるし、着古したものを愛用している人を見ると、ああ同じ部族だなって思う。一種のコードだよね。

今は亡き愛猫のモンキーが、よく肩に乗ってきては爪でTシャツに穴を作っていたんだが、それだって愛おしいダメージだ。“マジックホール”と呼び、今でもそれらを慈しみながら着ている。

メアリー・フレイとのセラミックチーム〈Satan Ceramics〉のオリジナルT
古い友人のメアリー・フレイ(写真家マリオ・ソレンティの妻)とのセラミックチーム〈Satan Ceramics〉のオリジナルT。「白だったけどメアリーが色物と洗濯してしまい色移り。その具合がよくて、似たピンクのバージョンを作った」。
YouTuber、映画監督のケイシー・ナイスタットからプレゼントされたTシャツ
元トム・サックス・スタジオのメンバーでもあり、YouTuber、映画監督のケイシー・ナイスタットがトムと困難なプロジェクトに挑んだ際、プレゼントされたTシャツ。ウィンストン・チャーチルの“決して諦めない”という名言が。
2011年頃、最初期のスタジオTシャツを着たトム・サックス
2011年頃、最初期のスタジオTシャツを着たトム。背中には“Always be knolling(いつも整理整頓)”というスタジオの教訓が書かれている。

profile

Tom Sachs(アーティスト)

トム・サックス/1966年生まれ。90年代半ばからマンハッタンのSOHOを拠点にアーティストとして活動開始。NASAや茶道をテーマにした作品で知られる。

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