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トラック3台分の軍装品を抱えるオタクの就活/やましたひでことカレー沢薫のオタクの断捨離⑥

  • 2024.9.21

断捨離®とは手に入りそうなものを「断ち」、いらないものを「捨て」、物への執着から「離れる」こと。人は断捨離により心が解き放たれ、ごきげんな人生を送ることができるという。この理念の対極に存在するのがオタクだ。物へのこだわりが人一倍強い彼らは「好きなものに囲まれた人生は最高」であることを実感している。だが実際に取材を行ったところ「本当はキレイな部屋で暮らしたい」「憧れのインテリアにして人を呼びたい」といった一般人としての願望に葛藤するオタクが多く見られた。「オタクの断捨離」では、断捨離の提唱者であるやましたひでこ氏と漫画家のカレー沢薫氏が、愛すべきオタクたちにとって快適な“断捨離の考え方”を模索していく。

※断捨離はやましたひでこ個人の登録商標です。

7人目の断捨離志望オタクは、軍装品を収集している牛島さん。息子が巣立ち、夫婦で暮らしていた家の取り壊しに伴って引っ越しをしたところ、収納場所は増えたはずなのに、なかなか物が収まりきらないという。その荷物の量とは、衣装箱30個以上、段ボール350個。じつにトラック3台分。そのうち家族の荷物はわずかで、9割は牛島さんのコレクション品だ。

小学生の頃にプラモデルの人形に惹かれ、中2の頃から軍装品や民族衣装などを収集。40年以上かけて集まったコレクションの約7割はドイツ軍の衣装だ。「収集はお宝探し。世界に数点しかないようなレア物を、仲間と競いながら集めるのは楽しかった」と牛島さんはその楽しさを振り返る。

ところが、最近になって心筋梗塞を発症。2回目に入院したとき、もう軍装品収集はこれまでにしよう、と決意した。「あと何年生きられるか分からないから、残り少ない人生を家族と大事に生きようと思いました。妻からも『とにかく物を減らしてほしい、すっきり暮らしたい』と言われ続けてきたので、もうこれ以上家族を困らせないためにも、今は終活として荷物を順番に手放している最中です」と牛島さん。

また、オタク仲間が最近になって亡くなり、家族にコレクションを捨てられたのを見て、捨てられるくらいなら自分で生きているうちに見送りたいと考えたそう。膨大なコレクションを“次の人に回そう”と心を決めるまでに丸1年かかったが、今ではもう、心が揺れることはないという。

「今のいちばんの願いは、あと5年生きること。その間に荷物の整理も終わるかな…。早くすっきりしてグアムや台湾に旅行にでも行こうと家族で話しています。自分にとっての終活は、家族との時間を大事にすること。最期を迎えるときは、家族と一緒にいたいです」。荷物がすっきりと片付いたら、これまで離れていた息子を呼び寄せて3人で一緒に暮らすつもりだとか。

〈終活ではなく断捨離を by やましたひでこ〉 オタクさんであろうと、なかろうと、 モノにどれだけの商品価値があろうと、なかろうと、 モノとの関係はご当人とモノとの間でしか成立しえません。 つまり、それぞれのモノの価値は、それぞれの所有者の感情価値でしか測れない。 諸法無我 であるならば、どんなモノであれ、モノはその人の生活の残骸、人生の残骸でしかありません。 終活とは、この「残骸である」という事実に気づくための行為といえるでしょう。 言い換えるならば、終活とは、その夥しい残骸の中から自分が「伝え残したい思いの象徴」であるモノを発掘して大切な人に託す行為。 だとしたら、終活という言葉が、いかに安易に使われているか分かるというもの。 どうぞ、終活ではなく断捨離を。 断捨離とは、これからをより良く生きるために、そう、死ぬまでより良く生きるための、生きているかぎり続く果敢な挑戦であるのだから。ダ・ヴィンチWeb

体調を崩したことで、あらためて家族の大切さに気づいたという牛島さん。コレクションを次の人に渡すことは有意義なことかもしれないが、断捨離が終わらないうちは、まっさらな気持ちで家族と向き合える時間が訪れることはないのかも…。終活の前に、早々と断捨離を。その決断は、牛島さんに委ねられている。

文=吉田あき

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