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けして交わることのなかったふたつの怪談シリーズが30年の時を経て融合!純粋に「怖い」を楽しめる、生の聞き書き恐怖譚

  • 2024.9.20
ダ・ヴィンチWeb
『「超」怖い話×中山市朗』(中山市朗、松村進吉、深澤夜/竹書房)

日常の端でぽっかりと大きな口を開く、この世ならざる世界。その闇に触れてしまった気がする。禍々しいものたちは、私たちのすぐ近くにいる。そう確信してしまうのが、『「超」怖い話×中山市朗』(中山市朗、松村進吉、深澤夜/竹書房)。怪談好きにとって歴史的ともいえる1冊だ。

どうして歴史的なのか。それは、決して交わることがないと思われていた2つの怪談シリーズ「新耳袋」(木原浩勝、中山市朗:共著)と「「超」怖い話」の血を引く3人が1冊の本に集結したからである。怪談界隈では、西の「新耳袋」、東の「「超」怖い話」と呼ばれてきた2つのシリーズ。1990年代に起きた体験者への取材をもととする聞き書き怪談のムーブメントの火付け役となったこれらは、長年にわたりライバル関係にあるだとか、因縁があるだとか言われ続けてきた(あくまでファンの話で作家どうしにわだかまりはなかった)が、30年の時を超えて本書で奇跡の融合を果たしたのだ。2つのシリーズを読んできたファンからすれば、中山市朗氏が「「超」怖い話」で怪談を書くとは驚かずにはいられないだろうし、当然期待も高まるだろう。だが、これらを知っていようがいなかろうが、確かなことはここに本物の怪談があるということだ。怪談を愚直に愛する3名が集めた至極の29篇は、全ての怪談ファンを世にも恐ろしい世界へと瞬く間にいざなってくれる。

深夜のダムに現れた白い人魂。火葬しても焼け残る右足。暗闇に浮かび上がる白装束。開かずの間に書かれていた見たこともない文字。蟻のような無数の点々が漫然と、しかし何か意味ありげに広がるコピー原稿。公園の古い木のベンチに引き込まれていく髪の毛。トンネルを抜けた先の集落に何体も並べられていた獣の生贄……。

ひとつひとつの話に触れるたびに、全身に凄まじい悪寒が走る。読めば読むほど、なんとなく近くに視線を感じるような気さえしてくるから一層恐ろしい。

本書の解説は「「超」怖い話」4代目編著者の加藤一氏が担当しているが、「「超」怖い話」はその誕生時点から1年先に生まれた「新耳袋」から大きな影響を受けていたのだという。「「超」怖い話」の2代目編著者にして、創刊時の実質的な企画推進者でもあった樋口明雄氏は、原稿執筆開始前の打ち合わせの席に発刊間もない「新耳袋」を持ち込み、こうベタ褒めしていたのだそうだ。

これ、怪談本なんだけど、こんな投げっぱなしでいいんだ。後日談なんかなくてもいいんだ。怖がらせるような書き方しなくてもいいんだ。凄いぞ。本当に凄い。ダ・ヴィンチWeb

「新耳袋」と「「超」怖い話」に触れたことがない人は、令和に生まれた本書に対しても同じ感想を持つのではないだろうか。どの怪談も投げっぱなしで、後日談なんてない。不気味さと不可解さを残して物語は唐突に終わる。だけれども、それがいい。このスタイルがこの世ならざるものが自分に迫ってくるように感じるのだろう。深い余韻に背筋が凍り、冷や汗が出る。「これが生の怪談なのだ」「これが、実録怪談なのだ」と、まざまざと見せつけられたような気がした。

やはりこの世には目に見えないものが幅をきかせているのかもしれない。鳥肌がなかなかおさまらない。何だか室温が下がったような気さえする。純粋に「怖い」を楽しむ聞き書き恐怖譚は、本物の恐怖を私たちに与えてくれる。まだまだ暑い日が続く夜、体験者から聞いた生の怪談に、ぜひとも震えてほしい。

文=アサトーミナミ

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