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「ネット中傷」にどこまで戦えますか? 漫画『しょせん他人事ですから』に見る被害者のリアル

  • 2024.9.22

こんにちは、Togetterオリジナル編集部のToge松です。漫画が好きです。

先日、『路傍のフジイ』という漫画を紹介したところ、いろいろな反応をいただきました。ありがとうございます。

調子にのって二匹目のドジョウを狙いたい。今回紹介する漫画は『しょせん他人事ですから ~とある弁護士の本音の仕事~』だ。

『しょせん他人事ですから』カラー扉絵 出典:Togetterオリジナル

本作は電子コミック誌「黒蜜」(白泉社)で連載中の作品。原作は左藤真通さん、作画は富士屋カツヒトさんが担当しており、単行本は8巻まで出ている。2024年8月からテレビ東京系で実写化ドラマも放送した。

テーマは「ネット炎上・SNSトラブル」

本作はいわゆるリーガルドラマだが、主人公の弁護士・保田理が得意とする専門ジャンルが、物語のテーマそのものと言っていい。

保田は「ネット炎上・SNSトラブル」にめちゃくちゃ強い弁護士なのだ。

ストーリーは基本的に、ネットやSNSにまつわるトラブルで困った人物が、保田に相談を持ちかけるところから始まる。第1話は、ネット中傷被害にあった主婦ブロガー(以降、依頼人)が、中傷を行った人物(犯人)に対し情報開示請求を行うエピソードだ。

保田は「他人事」を信条とし、どこか軽薄そうに見える人物。だが、依頼人に対しても歯に衣着せぬスタンスで、何事も本音で話す。受けた依頼はきっちりとやり遂げる心強い存在だ。

気になる方は、富士屋さんが第1話をX(Twitter)に投稿しているので読んでみてほしい。

主人公の保田理(やすだ・おさむ) 出典:Togetterオリジナル

また、本作は法律事務所アルシエンの清水陽平さんが監修を行っている。

単行本1巻の巻末には、清水さんによる作品解説が挿入されているが、そこで清水さんは「できるだけリアルなものにしたい」が漫画のコンセプトであることを明かし、監修では1コマずつ「実際はこうです」と弁護士から見たリアルを細かく指摘していると書いていた。

こうした制作背景を踏まえて本編を読んでいくと、漫画で描かれている内容の生々しさが理解できるだろう。

※ここから先、第1話に関するネタバレを含みますので、漫画を未読の方はご注意ください。
出典:Togetterオリジナル

漫画でありながらリアルに基づいたストーリー

たとえば第1話では、ネット中傷トラブルに遭って困惑している依頼者に対し、保田が「結局どうしたいんです?」と投げかけるシーンがある。

多くの場合、依頼者は相談した時点で「弁護士に何をしてほしいか」まで具体的にイメージできていないようだ。そこで保田は、誹謗中傷した投稿を消すためサイトに「削除申請」を行うか、書き込んだ相手を特定するため「情報開示」を行うか、2つのプランを提案する。

情報開示に関心を示した依頼者だったが、保田は「僕はオススメしませんけどね」と微妙な反応だった。なぜなら情報開示を行うには、お金と時間がかかる上に「(被害者のメンタル的に)しんどい」からだ。保田はたびたび「意思」「気持ち」といった言葉を用い、依頼者の胸の内を確認しようとする。

そして保田の指摘どおり、物語が進むにつれて依頼者のしんどさの理由が明らかになっていく。

とにかく負担の大きい情報開示請求

ネット中傷における情報開示の請求は、ざっくり書くと以下のような手順となる。4の時点までに「大体3~4ヵ月かかる」のが通例だという。

1.犯人が契約しているプロバイダを特定する
2.プロバイダに情報開示請求を行う
3.プロバイダから犯人に情報開示請求があった旨の手紙が届く
4.プロバイダと裁判して情報開示を認めさせる

また、情報開示が認められて相手の身元が明らかになってからが本番だ。保田は依頼者に、相手への対処として「3つの選択肢」を挙げる。

1.「内容証明郵便」で反応を見る
2.いきなり「民事裁判」に持ち込む
3.「刑事告訴」して警察に任せる

一つ一つの選択にメリットとデメリットが存在するだけでなく、その後さらなる選択も出てくる。依頼者はそれらを理解したうえで対処しなくてはならない。

しかも、この段階では相手側も強気で、依頼人へのネット中傷はさらに酷くなる場合もある。依頼者はいまだ終わらない中傷被害に耐えながら、弁護士からの連絡を待たなくてはいけない。ゴリゴリとメンタルが削られるしんどい時間だ。

情報開示請求を行うには相当の覚悟と根気が求められる。冒頭で保田が「依頼者の意思」を確認した理由は、ここにあった。

漫画で学ぶ「ネット・SNSトラブル」のリアル

情報開示請求を行った依頼者のその後はどうなったのか。第1巻の後半では、民事裁判でついに依頼者と相手側が対面。犯人が謝罪し、慰謝料を支払う形で「和解」が成立する。

その後も形だけで反省の素振りを見せない相手側だったが、保田の法律に基づいた「お仕置き」によって今までの代償を支払う羽目になり、猛省する様子が描かれる。読者からすれば「待ってました!」と大きなカタルシスを得られる瞬間だ。

一方で、依頼者からすれば、今回情報開示を行った犯人はあくまで「ネットで自分を中傷した大勢」のうちの一人であり、ネット上には何も反省していない人々が多数いる。根拠のない中傷が完全に止むとも限らない。

依頼者は問題が解決した後も、癒えない心の傷をいたわりながら今後の人生を送らなくてはいけない。たとえ多額の賠償金を得たとしても、失ったものも大きいのだ。

保田の弁護士事務所には、その後も「SNSで炎上した人気アイドル」や「ゲーム実況者から情報開示された未成年」、「SNSでなりすまし被害に遭った中年男性」など、さまざまな依頼人がやってくる。

いずれのエピソードもハッピーエンドとは言い難く、依頼側も訴えられた被告側もボロボロだ。トラブルの当事者たちが誰一人得しない状況を見ると、「誹謗中傷は絶対にやめよう」と心の底から誓いたくなるはずだ。

『しょせん他人事ですから』はあくまでフィクションだが、そこで描かれた「ネット中傷」における当事者たちのリアルは、決してフィクションとして読むだけには留まらない生々しさがある。

いまだ増え続けている「ネットやSNS上のトラブル」について学ぶ意味でも、読んで損はない作品だ。

第1巻。Amazonより

文:トゥギャッターオリジナル記事編集部 編集:Togetterオリジナル編集部

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