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宇宙飛行中、事件の目撃者になった男は地球にメッセージを送る――あらゆる手段で手がかりを「伝える」全5編の短編集『ミステリ・トランスミッター』

  • 2024.9.20
ダ・ヴィンチWeb
『ミステリ・トランスミッター 謎解きはメッセージの中に』(斜線堂有紀/双葉社)

『ミステリ・トランスミッター 謎解きはメッセージの中に』(斜線堂有紀/双葉社)は、謎を解く手がかりとなるメッセージを、あらゆる形で読んでいくミステリ短編集だ。本書のおもしろさは、この“あらゆる形”にある。

謎に包まれた事件に関わるメッセージと言えば、まず思い浮かぶのはダイイングメッセージではないだろうか。殺された誰かが犯人を示すために遺したメッセージをもとに、探偵や刑事が謎解きに挑み、事件解決に至るのがミステリ小説によくある型である。

はじめに言っておくと、本書にこのスタンダードな型は登場しない。メッセージが遺された目的と伝える相手、そのメッセージがもたらす結果。いずれも読者の予想を裏切る、ユニークな設定がちりばめられている。ミステリの一要素である“メッセージ”を、これだけ多彩な形で楽しめるということに驚かされる。

それぞれのメッセージを伝える手段、つまり本書のタイトルにもある“トランスミッター(送信機)”にも注目してほしい。伝える手段に工夫が凝らされていることで、読者は謎の奥行きを感じることができる。いずれの作品もトランスミッターの特徴が物語の鍵となる構成になっていて、謎が解き明かされる瞬間に生じる快感にバリエーションがあることも本書の魅力だ。

どの物語も甲乙つけがたいが、私が特に感銘を受けたのは「妹の夫」である。人類初の長距離宇宙飛行に挑む男が、宇宙飛行中、ある事件の目撃者になってしまう物語だ。男は地球で起こった事件に関わる重要なメッセージを、途方もなく距離が離れた宇宙から届けようとする。そしてそのメッセージの受け手は、ある厳しい条件があるなかで、メッセージが示す答えを導きだそうとする。

推理という行為を、これほど新鮮な感覚で味わえるとは。本作を読み終えたとき、一度本を閉じて拍手を送るほどに感動した。物語にちりばめられたあらゆる要素が謎解きに緊迫感と困難をもたらし、ミステリとしてもSFとしても楽しめる内容となっている。また、短い物語ながら、それぞれの人間関係や人柄が濃く読み取れる会話の運びも見事だった。

そう、本書は短編集であることを忘れさせる。一つひとつの物語の粒が立っていて、それぞれ独立した一冊の本になってもおかしくないくらい、時代背景、舞台、人物像が緻密に描かれている。そこに意外性に富んだ謎や仕掛けが組み込まれているのだから、読書好きにはたまらない。読書体験に新しさを求めている方には、ぜひ手に取っていただきたい一冊である。

文=宿木雪樹

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