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通常の30倍の栄養価をもつ「黄金レタス」を開発!

  • 2024.9.20

レタスはサンドイッチやハンバーガーのお供としてよく食されますが、全体の約95%が水分であり、栄養価はそれほど高くありません。

しかしスペイン・バレンシア工科大学(UPV)はこのほど、レタスの栄養価を大幅に高めた「黄金レタス(Golden Lettuce)」の開発に成功したと発表しました。

黄金レタスはその名の通り、葉の色が黄金色をしており、「β-カロテン」という栄養素が通常の30倍も含まれているものです。

β-カロテンは体内でビタミンAに変換されることから、黄金レタスはビタミンA欠乏症が蔓延している発展途上国の子供たちにも役立つと期待されています。

研究の詳細は2024年8月9日付で科学雑誌『Plant Journal』に掲載されました。

目次

  • 「黄金レタス」を開発しようと決めた理由とは?
  • どうやって「黄金レタス」を作ったのか?

「黄金レタス」を開発しようと決めた理由とは?

β-カロテンは、黄色・オレンジ・赤色などを示す天然色素の一群である「カロテノイド」の一種です。

食材としてはニンジンやほうれん草、カボチャなどに含まれています。

またβ-カロテンは「ビタミンA」の前駆体(ある化学物質が生成する前の段階の物質のこと)であり、体内に摂取された後、小腸の酵素によってビタミンAへと変換され、体に作用します。

主な効果には抗酸化作用眼病予防、免疫力の向上、ある種のがんの抑制といったものが挙げられます。

Credit: canva

その一方で研究チームは以前から、発展途上国における「ビタミンA欠乏症」の問題に関心を寄せていました。

特にアフリカやインド亜大陸、東南アジアの一部地域を中心に、約1億4000万人の子供たちがビタミンA欠乏症に陥っているといわれています。

これはビタミンAを含む野菜や果物、動物性食材の入手が困難になっていることが原因です。

ビタミンA欠乏症になると、最初に「夜盲症(やもうしょう)」という症状が現れ、夜間や暗い場所での視力が著しく低下します。

さらに重症化すると眼球乾燥症失明に至り、また麻疹(はしか)といった重度の感染症を起こす危険性も増加します。

健常者から見た夜間(左)と夜盲症から見た夜間(右)/ Credit: ja.wikipedia

これに対して、ビタミンAを含むサプリメントの摂取が対策として考えられますが、サプリは一時的な栄養補助としては有効ですが、食事全体の質が改善されない限り、長期的なビタミンA欠乏の予防にはなりません。

それよりはビタミンAが豊富な自然の食材を普段から摂取する方が本質的な解決策となります。

(またサプリの過剰摂取は特定の栄養の偏りや副作用を起こす危険性がある)

これを踏まえてチームは「サプリなどの栄養補助食品ではなく、自然な食材から十分なビタミンAを摂取できる方法はないか」と考えました。

そこで考案したのが、β-カロテンを通常より多く生産する「黄金レタス(Golden Lettuce)」の開発だったのです。

どうやって「黄金レタス」を作ったのか?

チームは今回、一般的なレタス(学名:Lactuca sativa)が自然に多くのβ-カロテンを生産できるような方法を模索しました。

しかし問題はそう単純ではなく、大きな課題がありました。

というのもβ-カロテンは通常、植物の細胞内にあって光合成を行う場所として知られる「葉緑体」で生成されます。

β-カロテンを増やすならば当然、葉緑体におけるβ-カロテンの生産量を増やす方法がいの一番に考えられるでしょう。

ところが葉緑体の中でβ-カロテンが増えすぎると、電気回路に過度な負荷がかかってショートしてしまうように、光合成が正常に機能しなくなるのです。

そうなると植物自体が枯れて死んでしまうので、元も子もありません。

研究主任のマヌエル・ロドリゲス=コンセプシオン氏/ Credit: UPV – Super golden lettuce richer in vitamin A(2024)

そこでチームはこの難点を避けるために「β-カロテンを葉緑体とは別の場所で作らせよう!」とのアイデアを思いつきました。

具体的には、レタスが葉緑体とは別の細胞内でβ-カロテンを生産・蓄積できるように、β-カロテンの生合成経路を改変することにしたのです。

その実現のために、チームは「遺伝子工学」「光照射処理」という2つの方法を取りました。

まず遺伝子工学では、β-カロテンを生成する酵素の遺伝子を組み換えます。

これにより、普通は葉緑体でのみ行われるβ-カロテンの合成を、細胞の他の部分でも行えるようになりました。

このおかげでレタスの光合成は正常な働きをキープできます。

これに加えて、光照射処理ではレタスに高強度の光を当てることで、光合成の活動レベルを増大させ、β-カロテンの生合成経路をより活性化。

この2つの方法でレタスが含むβ-カロテン量を通常の30倍にまで大幅に増加させることに成功したのです。

※ こちらはレタスではなく、実験用の「ベンサミアナタバコ」で実証したもの / Credit: UPV – Super golden lettuce richer in vitamin A(2024)

しかしβ-カロテン量が一気に跳ね上がったことで、レタスの見た目が大きな変貌を遂げています。

葉っぱの色が通常の緑とはガラリと変わって、キラキラと輝く黄金色になったのです。

ただこれは考えれば、ごく自然な成り行きでした。

β-カロテンは黄色・オレンジ・赤色などを示す天然色素の一種なので、その量が増えれば、当然ながら野菜の色も黄色や赤みが強くなります。

ここからチームは、新たに誕生したレタスを「黄金レタス(Golden Lettuce)」と命名しました。

またこれと同じ方法はレタス以外の葉物野菜にも応用可能であると研究者らは話します。

一方で、黄金レタスを実際に食べたときの栄養価、風味や香り、さらには安全性についてはまだ確認されていません。

その栄養価と安全性が実証され、安価な大量生産ラインを確立することができれば、黄金レタスが発展途上国に向けて供給されたり、私たちの食卓に並ぶ日は近いでしょう。

ファストフード店でも、栄養価の高い「黄金レタスバーガー」なるものが商品化されそうですね。

参考文献

Super golden lettuce richer in vitamin A
https://www.upv.es/noticias-upv/noticia-14794-superlechugas-en.html

Golden Lettuce: New Fortified Food Is Packed With 30 Times More Provitamin A
https://www.iflscience.com/golden-lettuce-new-fortified-food-is-packed-with-30-times-more-provitamin-a-75976

元論文

Boosting pro-vitamin A content and bioaccessibility in leaves by combining engineered biosynthesis and storage pathways with high-light treatments
https://doi.org/10.1111/tpj.16964

ライター

大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。

編集者

ナゾロジー 編集部

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