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どこからか聞こえる笛の音。禍々しい信仰と奇妙な事件… 三津田信三氏『六人の笛吹き鬼』は現実の世界との境界が曖昧になるホラーミステリ

  • 2024.9.19
ダ・ヴィンチWeb
『六人の笛吹き鬼』(三津田信三/中央公論新社)

どこからか不気味な笛の音が聞こえてくる。身を潜めるようにただ本を読んでいるだけなのに、その音はどんどんこちらに近づいてくる。何だか落ち着かない。逃げ出したいけど、何が起きているのかは気になって仕方ない。耳に障るような苛立たしさと、心をざわめかせる不穏さを孕んだ音色に、ただひたすら翻弄されているうちに、さらにゾッとさせられるような展開が待ち受けていた。

『六人の笛吹き鬼』(中央公論新社)は、そんな風に読む者を不穏な気分にさせてくる。読めば読むほど、どんどん物語と現実の世界の境が曖昧になり、怪奇な世界が襲いかかってくるようなホラーミステリだ。著者は本格ミステリ大賞を受賞した『水魑の如き沈むもの』や、『厭魅の如き憑くもの』にはじまる「刀城言耶」シリーズ、『十三の呪』にはじまる「死相学探偵」シリーズなどで知られる、三津田信三さん。本作は、桜の木の下で遊んだ子ども時代の仲間が次々殺されていく奇怪な連続殺人事件を描き出した『七人の鬼ごっこ』(中公文庫)の姉妹本だ。あわせて読めば恐ろしさは倍増だが、未読だという人も、この本から単独で読み始めてもすぐに物語の世界に入り込めてしまうだろう。

物語の舞台は摩館市のとある公園。六人の少女たちはそこで〈笛吹き鬼〉という遊びをしていた。それは、笛を吹きながら行う鬼ごっこ。鬼が笛を吹きながら、隠れた子どもたちを探し出すというものだ。だが、その笛とは別の奇妙な笛の音が鳴った時、少女たちは、一人、また一人と姿を消し、ついにはいくら探しても見つからなかった。大人たちは口々に言う。「まだら男ではないか」「あれが戻ってきたのなら、もう奇遇ではすまないな」「ここまで重なるとは」……。その数年後、公園で遊んでいた六人の少女のうちの一人であり、ホラー作家となった背教聖衣子はこの事件を調べ始める。どうして友人は姿を消したのか。何者の仕業なのか。そうして、調べを進めるうちに、眠っていた「笛吹き鬼」も蘇ってしまう。

悪寒が全身を駆け抜ける。事件があまりにも不可解で何が起きているのか、まるで分からないのだ。犯人が人なのか、人知を超えた何かなのかも分からない。聖衣子とともに、自分も調査を進めていくような気持ちになって、事件の謎を追い続けるのだが、なかなか真相は掴めず、恐怖ばかりが募る。

そんな事件の鍵を握るのが、この街に伝わる禍々しい信仰なのだが、その不気味さったらない。よりにもよって、聖衣子の母親もそれを信仰しているらしい。薄暗くて陰気な仏間に2つの明かりに照らされて鎮座する、目の部分にぽっかりと穴が空いた達磨。聖衣子の母親が発した妙な台詞。聖衣子同様、読み手の私たちだって、全身が粟立つ感覚を味わわされることになる。

叫び出したいような逃げ出したいような気持ちを抱えたまま、一心不乱にページをめくってしまった。ホラーとミステリが融合した物語は絶品。おどろおどろしい世界に、あなたも迷い込み、このゾクゾク感を是非とも味わってみてほしい。

文=アサトーミナミ

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