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友達の近くに住むことが私たちのウェルビーイングに与える影響

  • 2024.9.19

友達の近くに住むのは健康によいという研究が増えている。そこで今回は、ウェルビーイングを考慮して、交友関係を人生の中心に置いている女性たちに話を聞いた。

Karl Hendon

風潮の変化

この新しいトレンドに注目しているライナ・コーヘン氏は、新著『The Other Significant Others: Reimagining Life With Friendship At The Centre』の中で、恋愛関係ではなく交友関係を人生の軸にした人々の体験をつづっている。

コーヘン氏は、自分の夫、2人の友人と別の夫婦、その子ども2人の計8人で米ワシントンDCの借家に住んでいる。生活様式の見直しをする人が増えていることについては、「これまで正当とされてきた生活様式(核家族)が自分に合わない可能性や、より有意義な生活様式があることに、人々が気付き始めているのではないでしょうか。もっと多くの人に囲まれていたいと思っている可能性もありますね」と指摘する。

コーヘン氏は、5年に及ぶ執筆活動の中で、さまざまな風潮の変化に気付いた。「人々の会話の中身が変わりました。フォローする価値のある友情系コンテンツが増えているのだと思います」

コーヘン氏によると、2023年のハイスクール映画『ボトムス ~最底で最強?な私たち~』は10代のクィアの若者たちの友情の強さを深く掘り下げており、このテーマに関する記事やポッドキャストも急増している。それに対して1990年代~2000年代は、人々が「最後は恋愛を取る」時代だった。テレビドラマ『フレンズ』のモニカも、彼氏と同棲したいがために、親友のレイチェルをアパートから追い出している。

最近はノンモノガミーの人間関係に対するメディアの注目も高まっており、ブルックリン在住の作家モリー・ローデン・ウィンターの著書『More: A Memoir Of Open Marriage』は、従来と現代の結婚観を広い視点で捉えている。

「1人の人間の存在が自分のすべてという考え方に疑問を投げかけ、上下関係が少ないという点で、本当に仲の良い友達がいる人とノンモノガミーの人は共通していると思います」とコーヘン氏。

コーヘン氏の個人的な経験からも、友情を重視することの利点が分かる。「親密な関係とは、深い話が3時間もできることだけでなく、その人の全体を理解することでもあります。例えば、私の友人はいま新しい仕事を探しています。毎日顔を合わせているので、細かいことも全部知っているんです」

MINIWIDE

コミュニティケア

子どもがいる人にとってもメリットは大きい。例えば、コーヘン夫妻と同居している別の夫婦が上の子を救急外来へ連れて行くときも、コーヘン氏の夫に下の子を任せるだけでよかった。

経済的なチャイルドケアの不足により、友達と世間話をする暇もない現代の親にとって、このような生活様式は非常に現実的な感じがするはず。

ライターのローズ・ストークス(36歳)は昨年、夫と一緒に子育てに専念するため、10年暮らしたサウスロンドンから親友のいるバースに移った。その親友とは同居ではないけれど隣同士。

大都市での生活に見切りをつけたストークス夫妻は、バース以外の街に住むことも考えた。でも、固い友情の魅力に勝るものはなかったそう。いまは、幼少期から青年期を共に過ごした親友と気軽に会える。自分の息子に、親以外のステキな大人と有意義な交流を持たせてあげられるのも大きな利点。

「その友達とは週に1~2回会っています」と語るローズによると、この引っ越しで彼女の人生は大きく変わった。「いずれは大切な人のそばで暮らしたいと思っている人、特に自分の家族をつくろうとしている人はぜひ、友達のそばに住むことも考えてみてください。私はそばに愛する人が2人もいて幸せです」

Catherine Falls Commercial

交友関係の質

交友関係を考慮して住む場所を決めるという考え方には、英オックスフォード大学の進化心理学者で著書に『Friends: Understanding The Power Of Our Most Important Relationships』を持つロビン・ダンバー氏も賛成している。「この10年で、体と心の健康状態を最も正確に予測する指標は仲の良い友達の数である、という研究結果が急増しました」

ここでいう友達には、固い絆で結ばれた家族のメンバーや恋人も含まれる。ダンバー教授いわく適切な友達の数は5人前後。ただし、これには外向性やジェンダーも関係する(女性は男性よりも友達が多い傾向にある)。

この5人を取り囲むようにして、一生を共にするとまではいかなくても仲の良い友達の層があり、サポートネットワークと呼べる人の数が10~15人になるといい。

ダンバー教授によると、このようなネットワークが健康に与える影響は絶大で、これにはエンドルフィンの働きが関係している。まず、社会交流(一緒に笑ったり、踊ったり、食べたりすること)による高揚感は、脳内のエンドルフィンの分泌を促進させる。「エンドルフィンはオピオイドの一種です。化学的にはモルヒネに似ているため、分泌されると気分が落ち着き、一緒にいる人との結束が強くなります」

次に、「エンドルフィンが分泌されると免疫システムが刺激され、特に白血球の中にあるキラー細胞が活発化します。これにより、ウイルスが撃退されることもあります」。つまり、仲の良い友達は事実上、“第一の防衛ライン”とも言える存在。

ところが「友情は、適切な頻度で会わないと、すぐに壊れてしまいます。旅行や病気の期間があるとしても、親しい友人を内側の層(最初の5人)にとどめておくには少なくとも週1ペース、外側の層(15人)にとどめておくには少なくとも月1ペースで会わなければなりません」

ダンバー教授いわく、その友達と30分以内の距離に住んでいないと、この頻度で会うのは難しい。しかも、友情の質はたった3~4ヶ月会わないだけで「著しく低下する」そう。現代人はただでさえ未曽有の友情危機(※)にさらされているというのに、なんとも耳の痛い話(※シンクタンクOnwardによるパンデミック後の調査では、英国に住む18~34歳のうち20%は親しい友人の数が1人以下だった。この割合は2012年から3倍に増えている)。

PRの仕事をしているケジャルは、地理的な距離が交友関係の質に与える影響を目の当たりにしてきた。仲の良い人たちのそばにいたいという理由から、夫とロンドン南東部に引っ越してからは、その人たちとより充実した時間が過ごせるようになったそう。

「その中の1人とはもともと仲が良かったのですが、1.5km圏内に引っ越したことで、ブライズメイドになってほしいと言われるくらい親しくなることができました。引っ越していなければ、ありえなかったことだと思います」

Hinterhaus Productions

現代の友情観

ひとつ屋根の下じゃなくても、友達のそばに住むのがそれほど健康にいいのなら、どうしてもっと多くの人が引っ越さないのか? それは私たちが少し前まで地元密着型の生活をしていたからに他ならない。自分が生まれ育った街で死ぬまで暮らし、調子が良いときも悪いときも、血縁関係の親密なネットワークの中に閉じ込められていたからだ。

でも、経済システムの劇的な変化によって、私たちはその状況から解放された。「現代では、学業や仕事のために引っ越して、家族や地元を長期的に離れることが当たり前になりました」と話すのは、英ユニバーシティー・カレッジ・ロンドンの人口統計学者、マリア・シロニ氏。「社会経済的地位が高い人たちにとっては特にそうです」

恋愛やパートナーシップに対する人々の考え方も大きく変わった。「この150年で、結婚が他の人間関係に取って代わるようになりました」とコーヘン氏。結婚が機能的だった頃(結婚が財産の共有と子育ての必要性に基づいた取り決めで、男性が女性を見下していた頃)は、同性の親友の存在が不可欠だった。

でも、自分の配偶者を恋愛や性的なパートナーとしてだけでなく、親友、相談相手、旅仲間の役割を兼ね揃えた存在として見ることが普通になった現代では、家庭の外に友達を持つ必要性が最小限になっている。

人が友達だけを理由に引っ越すとも限らない。ローズとケジャルは、友達の存在を除いても、いま住んでいる場所が好き。だから、仮に状況が変わっても、彼女たちが幸せであることに変わりはない。

コーヘン氏の同居生活は、同居人の転出により近々終わりを迎える予定。でも、コーヘン夫妻は引っ越さず、既存の友人の中から次の同居人を見つけたいと思っている。

引っ越しは、離婚のようなライフイベントと同じくらいストレスのもとになる。国の経済状態も居住地に影響する。家賃の上昇や転職で、大好きなコミュニティを離れなければならないこともあるだろう。

それでも近々引っ越しをする可能性があるのなら、友達の居場所を考慮に入れて。結果的に、それがあなたの人生で一番健康的な決断になるかもしれない。

※この記事はイギリス版ウィメンズへルスからの翻訳をもとに、日本版ウィメンズヘルスが編集して掲載しています。

Text: Claudia Canavan Translation: Ai Igamoto

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