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いつの時代も絶えぬ“若さ”へのオブセッション。今捉え直したい、若い/若くない【TAIRAのノンバイナリーな世界 vol.3】

  • 2024.9.18

Tairaの臨床モデル学 / Taira's Gender Studiesで、モデルの視点から社会を多角的に考察してきたTairaによる新連載「TAIRAのノンバイナリーな世界」では、日頃から何気なく成り立っている身の回りの「組み分け」にスポットライトを当てる。

曖昧なことやラベルを持たないことに不安を抱きがちで、なにかと白黒つけたがる私たち(と世間)だけど、こんなにも多彩な個性や価値観が共生する世界を、ゼロか100かで測れるのか。日常に潜む多くの「組み分け」を仕分けるものさしを改めて観察し直してみると、新しい世界や価値観に気づけるかもしれない。

モデルでライターのTairaが物事の二項対立的(バイナリー)な見方を取り払い、さまざまなトピックを「ノンバイナリー」に捉え直していく。

vol.3 若い/若くない

Q1. “若い”って何だろう?

日頃は年齢に関してそこまで意識していないけれど、モデルの仕事に関していえば平均年齢が取り分けて低いということもあって、寧ろ自分が「歳をとっている」と感じさせられる場面が多い。なかでも、ファッションウィークの時期になると、世界各地から集まる大勢の次世代モデルと遭遇するのに加えて、ハイファッションのランウェイに起用されるモデルの平均年齢は、ほかの仕事よりもさらに低くなる傾向があることも相まって、自分の年齢を意識させられる局面が一段と多くなる。ショーキャスティングの現場では、モデルが1人ずつ年齢を聞かれることも“あるある”だから、そうした環境では嫌でも自他の年齢を意識してしまうことに。

一方で、欧米を拠点に活動する“アジア人モデル”たちは、比較的年齢層が高めな傾向があるのも興味深い。“西洋”で催される世界四大コレクションでは、“アジア人モデル”として活躍する多くが“東洋”から渡ってきているケースが多いから、経済的背景や言語的背景が障害となると同時に、欧米ではアジア人が若く見られがちな傾向がベースにあることなど、さまざまな要素が絡み合った結果なのかもしれない。

Q2. “若くない”って何だろう?

「もう若くないんだから」といった言い回し一つをとっても、社会で“若くない”ことがポジティブな意味合いで用いられる場面ってあまり思いつかない、“女性”に対しては特に。基本的に「若さ=正義」といった価値観は、世界的な共通認識として存在している印象がある。最近では少しずつポジティブエイジングも広まってきているものの、やっぱり“若見え”だったり“アンチエイジング”といった言葉がメインストリームでは見聞きされるし、歳を重ねること(というよりも、歳を重ねて見えること)を悪だとする考えは広く流布しているのでは。

一般的に、「お若く見えますね」が褒め言葉として用いられているのも、やはり“若さ”に価値が置かれていることの象徴だろう。反対に、「大人っぽく見えますね」は声を掛けられる当人の実年齢が取り分けて“若い”とき限定で成り立つ表現。だからそれも「若さ=正義」の方程式を逸脱してはいない。

一方で、オフィスで働く友人たちの体験談によると、ビジネス(伝統的にマスキュリンな環境)のコンテクストでは、実年齢よりも若く見えることが原因で周りから軽んじて見られたり、顧客から対等に接してもらえない場面もあるそう。ここでは「若くない/若く見えない」ことがパワーになるとも考えられるけれど、家父長制が根強い環境下ではそもそも、“ビジネスウーマン”は“ビジネスマン”と同等に扱われづらい上、ルッキズムエイジズムは“女性”に対してより強固に働く傾向がある。だから“若くない”ことがパワーとなるケースも、果たしてそれがポジティブに機能するかどうかは、個人のジェンダーに左右される部分も少なくない。

Q3. “若い”と”若くない”はどうやって仕分けられてるの?

“若い”と“若くない”の物差しは、それぞれ視点や活動するフィールド、コミュニティによって変化するもの、特定の数字を基に判断が出来るものではない。一方で「三十路」という言葉もあるように、世間ではなんとなく20代までを若者と捉えて、30歳を超えた人たちは次のチャプターに入るといった感覚が共有されている。

友人たちと何気なく交わす会話を思い浮かべてみても正直、「自分はもう若くないから」といったニュアンスを自ずから用いているケースも思いつくし、そこにはっきりとした指標がないにもかかわらずなんとなく、「若い/若くない」を仕分けている節があるのは否めないかも。30歳に近づくにつれて、身の回りの同年代の友人が家庭を持つようになったり、子育てに励んでいたり、キャリアチェンジに挑戦していたり……。なんだか“大人”としての分岐点に立たされているというか、人生の次章に突入する節目を迎えている感覚もあって、そんな背景も後ろ盾となって尚更、“若くない”という心持ちに拍車がかかっている気もする。

Q4. そんな組み分けは必要?

例えば、求人の募集要項で“〇〇歳以下まで” “〇〇歳以上から”と出願者の年齢が制限されているケースは、ある意味でその組み分けが根底に必要なものとされて成り立っている。年齢でフィルターがかけられているのは、出願者の能力だけでなく年齢に何かしらの価値が期待されているからだ。

モデル業でいえば、多様性を見直す業界全体の流れによって少しずつ変わりつつあるものの、やはり“若いこと”に大きな価値が置かれている側面は根強い。特にショーでは、毎シーズン多くのブランドが新しい“It Girl”を発掘しようと躍起になるため、若くて“フレッシュ”な新人モデルへの需要が甚だ大きい。一般的に「美しさ」が通貨とされるこの業界では、「若い=正義」の方程式がより強固に働いている。だから、モデル志願者に年齢制限をかけているキャスティングの公募をよく見かけるし、新しくキャリアをスタートするモデルには基本的に「若い」ことが暗黙に求められている。

2024年7月5日に政権交代して発足した、英国スターマー内閣
Keir Starmer Holds First Shadow Cabinet Meeting Since His Reshuffle2024年7月5日に政権交代して発足した、英国スターマー内閣

一方で、昨今では世界的に政界で働く者の年齢が話題として挙がることも目立つ。果たして、一国の元首となる者にとって、「若い/若くない」ことがディールブレイカーとなり得るのだろうか。個人的に身の回りでは、「もっと若い政治家が必要だ」という声を見聞きすることも少なくない。ジェネレーションギャップがあるように、政治家の年代によって共感できる世代に差が出たり、その結果として優先される政策アジェンダに影響を及ぼす可能性は大いにあると思う。同時に、若い方が“政治家”として優れているのかというと、そこには経験値といった要素も関与してくるから、必ずしもそうだとは言い難い。もちろん政治家が歳を重ねていることで、プロフェッショナルとしての活動に影響を及ぼすのであれば、それは避けられるべきだろう。

それらを踏まえると、政界の年齢の問題は「若い/若くない」という一本軸ではなく、個人の経験値や文化社会的背景、能力といったさまざまな要素が総括的に俯瞰され、偏りのない適材適所が考慮される課題であるように思う。

Q5. もしその組み分けがなかったら?

若い人の方が体力があるとか、若くない人の方が経験に富んでいるとか……。その個人が「若い/若くない」ことから期待される特性は確かに存在する。仕事の募集要項などで年齢制限が課されていることがあるのも、こうした理由からだろう。そんな組み分けは、ステレオタイプを用いてざっくりと人々を仕分けるという点で、ジェンダーや人種などと同様に“わかりやすい”仕分けの手段だ。ところがこの広い世界、そんな画一的な特性に当てはまらない個人がたくさん存在するのも事実。組み分けの裏にはどんな憶測が立てられているのか、考察してみるとまた新しい発見があるかもしれない。

一般に大衆が連想する「若い/若くない」という組み分けのボーダーラインは、時代によって移り変わってきている。例えば、自分の親世代が“若かりし頃”なんかは、20代後半までにはマイカーやマイホームを持って家庭を築き、キャリアも安定して、子育てに励んでいるというのが典型的な人生の歩みとして期待されていたよう。でも今日の社会では、そんな人生を歩んでいる個人は減少している。時代とともに人々の平均寿命も大きく上昇し、大衆のライフスタイルや社会経済的な背景も変化してきたことにより、社会ではより多様な人生のあり方が享受されるようになった。平均初婚年齢も、ジェンダーを問わず継続して上昇傾向にある。そんな背景からも、「若い」と言う概念に結びつけられる世間の感覚自体が、時代とともに移り変わっていると言える。

アンチエイジング関連のマーケットは、世界的にこれからも成長していくことが予想されているそう。「若くいたい/見られたい」という欲求は、割とグローバルに存在している価値観だ。そもそも“YOUTH”への社会のオブセッションは、一体何処から来ているのだろうか。エンタメ業界を含めたメディアが果たす役割も少なくないはず。街で高校生を見かけたりする際に、青春期ならでは(?)のキラキラした姿に哀愁を感じるさせられることがあるけれど、あのなんともいえないセンセーショナルな魅力も、若さへのオブセッションの片鱗なのかな……。

Photos: Courtesy of Taira Text: Taira Editor: Nanami Kobayashi

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