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実話怪談マンガ『憑きそい』の重くのしかかるような息苦しさと気持ち悪さ。

  • 2024.9.18
ダ・ヴィンチWeb
『憑きそい』(山森めぐみ/扶桑社)

「オカルト」や「怖い話」はいつの時代も人々の心を魅了する。1970年代の第一次オカルトブームに始まり、80年代から90年代にかけての都市伝説ブーム、00年代に人気を博した洒落怖など、「恐怖」は時代の流れに応じて形を変えながら、私たちの身近に存在し続けてきた。そして令和の時代に注目されているのが、語り手が実際に体験した、もしくは体験者から聞いた話を語る「実話怪談」である。『憑きそい』(山森めぐみ/扶桑社)は、その実話怪談ブームの真っただ中で登場した“インスタ最恐トラウマ系心霊漫画”だ。

本書は、イラストレーター兼占い師でもある山森めぐみ氏の実体験をもとに描かれた短編集。本編276ページに及ぶ作品のほぼすべてが描き下ろしで、発売されるや否やホラーファンの間で話題に。フジテレビが運営する動画配信サービス「FOD」でもドラマ化され、多くの人を恐怖のどん底に陥れている。

全14話で構成されており、心霊、怪異、ヒトコワなど、淡々と怖い話が展開していく。電車通勤中に目撃した謎の男にまつわるエピソードを描いた「黒い服の人」。遺品整理のバイト中に起こった不可解な現象を紹介する「そっちじゃない」。シンプルでラフなタッチの絵柄とともに、著者や周囲の人に振りかかった恐怖体験が語られていく。

絵柄がカジュアルかつ、セリフがすべて手書きなこともあり、まるでエッセイ漫画を読むかのようにするすると読めてしまう。ゾッとする描写は多いものの、「ぎゃあ!」と叫んでしまうような怖さではない。ホラーに慣れ切った人にとっては物足りないと思うかもしれないが、じわじわと背後から忍び寄るような怖さがそこにはある。通勤やバイト、子ども時代の思い出や就活の面接中など、誰もが経験してきた“日常”が舞台となっているからだろう。話が進むごとに、生活の中に潜む不気味な違和感や気持ち悪さが読み手の私たちを襲う。

実話怪談の特徴は、本当にあった話だからこそ“オチ”や“謎の解明”がないことだ。本書に収録されているエピソードたちも、「あれは一体なんだったんだろう……」と読者の心に後味の悪さや不安を残す内容になっている。

12話まで読み終わり、13話目の「憑きそい」の文字を見た瞬間、「きっと何かがある」と直感した。表題作にもなっている話だ。読者をずんっと落としてくるような、最高の恐怖が待っているに違いない。――そう期待交じりにページを1枚、また1枚とめくるたび、悠長に構えていた自分を恨んだ。著者と同僚の何気ない会話から始まる、身の毛もよだつ出来事。「憑きそい」。この話は猛毒だ。心霊描写といえるものは一切ない。なのに、話の核心に触れた瞬間、心臓が冷え切るような底知れない恐怖が全身に駆けまわった。

一体どんな話なのか、それはぜひ本書を手に取って味わってほしい。余談だが――……本書を読み終わったあとから、重くのしかかるような息苦しさと気持ち悪さが身体から離れない。本書を通して、読者の私も何かに“憑きそわれて”しまったのだろうか……。

文=倉本菜生

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