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「魚の前に鏡を置いた結果…」自分よりデカい奴に喧嘩を売らなくなる

  • 2024.9.16
Credit: canva, ナゾロジー編集部

以前の研究で、ホンソメワケベラは鏡に映った自分の姿を見て「これは私だ!」と認識できることわかっていました。

さらに大阪公立大学は今回、ホンソメワケベラが鏡に映った自分の体格を基準に、それより大きなホンソメワケベラには攻撃しない判断を取ることを発見したのです。

これはホンソメワケベラがヒトと同じように、鏡に映った像を何らかの目的を達成するための「道具」として利用できることを意味します。

魚の自己意識は予想以上に、私たちヒトのレベルに近いようです。

研究の詳細は2024年9月11日付で科学雑誌『Scientific Reports』に掲載されています。

目次

  • ホンソメワケベラは「鏡の中の自分」が理解できる
  • 鏡の中の自分を基準に「喧嘩を売る相手」を選んでいた!

ホンソメワケベラは「鏡の中の自分」が理解できる

私たちは自分の顔を直接見ることはできません。

そこで鏡に映った自分の姿を見て、髪型を整えたり、メイク直しをしたりしています。

つまり、私たちヒトは鏡に映っている像を「これは私だ」と自己認識し、自らの外見の情報(髪型が崩れているとか、目にゴミが入っているとか)を得るための道具として鏡像を使うことができるのです。

Credit: canva

ヒト以外でも鏡に映る像を自分であると認識できる種はいます。

それはチンパンジーやゾウ、イルカ、カラスといったお馴染みの賢い動物たちです。

加えて2019年には「ホンソメワケベラ(学名:Labroides dimidiatus)」も鏡に映る自分がわかることが特定されました(大阪市立大学, 2019)。

ホンソメワケベラはスズキ目に属する小魚で、体長は12センチほど。

彼らは一般に、大きな魚の口の中に入って寄生虫を取り除いてくれる「掃除屋」として知られています。

ホンソメワケベラが鏡に映る自分を理解するプロセスは、チンパンジーやゾウなどの他の動物たちと一緒でした。

彼らはまず、鏡に映った自分の姿を同じ種の別個体とみなし、攻撃行動を繰り返します。

しかし、しばらくすると鏡の前で像の観察を繰り返したり、自分の体を調べたりし始めて、「これは自分だ!」と認識できるようになるのです。

このときの実験では、ホンソメワケベラの喉にマークをつけ、それを鏡で確認したホンソメワケベラが砂や石に喉をこすりつけてマークを落とそうとしたことから、鏡像を自分だと理解していることがわかりました。

Credit: canva, ナゾロジー編集部

さらに研究チームは、ホンソメワケベラが鏡像を単に自分だと認識するだけでなく、より複雑な認知行動を遂行するための「道具」として使えないかどうかを検証することにしました。

鏡の中の自分を基準に「喧嘩を売る相手」を選んでいた!

ホンソメワケベラには、環境下で見知らぬ同種個体が近づいてくると、自分の縄張りを守るために攻撃をして追い払う習性があります。

ただ無闇に喧嘩をふっかけているとケガをするリスクもあるので、明らかに自分より大きな相手との喧嘩は避けることが知られ知恵ます。

そこでチームはこの習性をヒントに、「ホンソメワケベラが自分の鏡像を情報源として利用し、攻撃する相手を選別できるかどうか」を検証してみました。

実験ではまず、本物のホンソメワケベラ1匹を水槽の中に入れます。

水槽の一方の壁には「鏡」が設置してあり、自分の姿を確認できるようにしました。

反対側の壁には、水槽に入れたホンソメワケベラより「体長が10%大きい個体」「体長がまったく同じ個体」「体長が10%小さい個体」の3種類の写真を実験ごとに貼り替えます。

また水槽の中央には不透明な仕切りを立てて、ホンソメワケベラが鏡と写真を同時に見れないようにしました。

そしてホンソメワケベラが鏡を見る前と後で、写真の個体に対する反応がどう変化するかを観察。

その結果、鏡を見ていない状態のホンソメワケベラは3種類のどの写真に対しても、同じ時間と頻度で攻撃をすることがわかりました。

これは鏡で自分の大きさをチェックしていないので、相手との大きさ比較ができなかったからでしょう。

ところが驚くことに、鏡を見た後のホンソメワケベラは、自分より小さな個体の写真には長く攻撃したのに対し、自分より大きな個体の写真には攻撃をしかけなくなったのです。

これは鏡で自分の大きさをチェックできたことで、「喧嘩を売っても勝てそうな相手」と「喧嘩をしかけたら負けそうな相手」とを選別できたからだと考えられます。

Credit: canva, ナゾロジー編集部

以上の結果から、

・ホンソメワケベラは鏡を見て自分の体格を正確に把握できること
・自分の鏡像を基準に相手との体格差を認識して、攻撃をしかける相手を選別できること

が明らかになりました。

これはホンソメワケベラが鏡で自分の姿を確認するだけでなく、鏡像を意図した目的に利用できる高レベルの認知能力を持っていることを示すものです。

従来、ホンソメワケベラを含む魚類の行動の多くは一般的に「本能」によるものとして説明されてきました。

しかし今回の知見から、彼らの自己意識は非常に柔軟であり、これまで考えられてきたよりは私たちヒトにずっと近いレベルにあると考えられます。

参考文献

鏡よ鏡、私はライバルを攻撃しない方がいい? 魚は自分の大きさを鏡像で把握できる
https://www.omu.ac.jp/info/research_news/entry-13243.html

元論文

Cleaner fish with mirror self-recognition capacity precisely realize their body size based on their mental image
https://doi.org/10.1038/s41598-024-70138-7

ライター

大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。

編集者

ナゾロジー 編集部

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