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ハラハラしたくない女たち 結末を先に知るのは悪……?

  • 2024.9.16

情報爆発時代の中で、私たちはさまざまな「HAVE TO:やらなければならないこと」に囲まれている。でもそれって本当にやらなきゃいけないこと? 働く女性たちを研究している博報堂キャリジョ研プラスによる連載「XXしない女たち」。今回は「ハラハラしたくない女たち」。映画やドラマ、漫画などのドキドキする展開が苦手で、ハラハラを避けるために結末を先に見たり、対戦ものでもあえて応援しなかったりする女性がいます。聞けば、日常生活との兼ね合いも背景にあるようで……。そんなハラハラ、ドキドキの感情になりたくない女性たちを紹介します。

コンテンツのドキドキが日常生活にも支障?

広告代理店に勤務するNさん(36)は、ドラマだったら最初の数話だけ、あるいはあらすじを見て、面白そうと思ったら、まずは結末を先に見ることにしている。そして、自分の感情がアップダウンしそうな内容のものは見ない。

「感情がズーンって落ちるようなものは、その日その感情から抜け出せなくなるので嫌なんです。自分の周りでそういった悲しい出来事が起きたらどうしようと思ってしまいます」

Anastasia Nelen/Unsplush

Nさんは学生の頃はそういったジャンルのものも見ていた。社会人になって、なぜか段々とそういったものは見たくないという感情になっていった。

Nさんはもともと責任感が強いタイプ。社会人になって、年齢とともに色々と責任も重くなっていくと、何かメンタルにダメージがあると仕事上よいパフォーマンスができなくなるのではと不安を感じ(実際には今のところそんなことは起きたことがないが)、悲しい内容のコンテンツは見られなくなった。

「社会人になって歳を重ね、多種多様な人と関わるようになったことで、色々なことが自分の身近なことと感じられるようになりました。だから、学生の頃は自分の周囲とは切り離し、実際には起きえないと思えていたことも、今ではもしかしたら起きるかもと思うようになり、もっとそういうコンテンツが苦手になったのだと思います」

もちろん、コンテンツではなく地震や交通事故、犯罪が起きたなどというニュースなどをみると、Nさんは暗い気持ちになる。「コンテンツよりズーン度は高め。現実に起きていることなので、より心に響きます。それでもニュースは、事実を見ないわけにはいかないですから」

PeopleImages/iStock/Getty Images Plus

登場人物に共感しすぎてしまう

Nさんも学生のころまでは、先に結末を見るようなことはしていなかった。まだガラケーを使っているような時代で、映画やドラマの要約サイトのようなものはあまりなかった。自分の周りでも、結末を先に知ってからコンテンツを見るという人はあまり見かけなかった。

「そのころまでは結末を先に知るのはなんとなく“悪”と思っていました。でも今は、要約サイトみたいなのも気軽にチェックできるようになって、結末を知ってからコンテンツを見るという人も一定数いて、別にいいじゃんと思うようになりました」

結末を先に知りたいのは、時短意識というわけでもない。コンテンツを早送りして見るというようなことはない。じっくり楽しみたいそう。「先に結末を知ったとしても、その過程は十分楽しめます」

コンサルティング会社に勤めるIさん(25)は、映画の「約束のネバーランド」は先に結末を調べてから改めて最初から全部を見たと言う。「この作品では、優しくて主人公にとってお母さんのようなキャラクターが登場しますが、その人が本当にいい人なのか、実は悪者なのか、わからないような状況が起きます。そういった、先行きが見えないような状況が苦手で、作品そのものを楽しめなくなるので先に結末を見てしまいます」。また、Iさんはそういった恐怖を感じるようなコンテンツでなくても「恥ずかしさ」を感じるコンテンツも苦手だそうだ。

「例えば、主人公がはた目からみて恥ずかしい行動をとったりするといたたまれない気持ちになる“共感性羞恥”もめちゃくちゃ感じるのです。そもそも、登場人物に共感し過ぎてしまうんですね」

fizkes/iStock/Getty Images Plus

しかし、現実の世界では、誰かの話に共感し過ぎて心が動かされるということはそれほどないそうだ。「例えば友達が泣いたりしても、すごく共感するタイプという感じではなくて、普段はどちらかというと俯瞰して話を聞けちゃいます。でもコンテンツって、その世界に引き込まれるようにできているので」。逆に幸せな結末のコンテンツを観ると、その日すごく幸せになるそう。

Iさんも、たとえ結末を先に知ったとしても、最初から全部の話を飛ばさずに見るという。

「ハラハラ、ドキドキする感情は、結末までの過程を楽しむのに邪魔なんです。話の筋に集中できなくなるから」とIさん。例えば、Mリーグという麻雀の団体戦のセミファイナルを見ていた時も、最後に誰が勝ったか知ってから番組を見たという。「とにかく集中して麻雀そのものを見たかったんですよね。私は結末を先に知っても、面白さが半減するとは全く思わないです」

コンテンツでは疲れたくない

IT会社に勤めるKさん(27)は小学生の頃、ウイルスについてまとめた図鑑を読んだことがあった。エボラ出血熱などの病気について知り、その怖さに、夜寝られなくなった。「それがすごくトラウマみたいになってしまい、それからは人が死んだり、血が出たりするような映画などは見られなくなりました」

Kinga Howard/Unsplush

また、Kさんは感動系のコンテンツも見られない。非常に共感力が強く、泣けるコンテンツを見るとものすごく疲れる。特に社会人になって日常で忙しくなって、心が疲れるようになった分、余暇の時間に疲れたくないという気持ちがあるそう。

「別に仕事で感じる感情と、コンテンツで感じる感情がリンクしているわけではないですが、ただシンプルに、仕事をずっとしていると疲れるので、仕事以外で疲れたり、悲しくなったりする時間を過ごしたくないと思っています」

また、Kさんは例えば結末が分からないようなスポーツの試合を観るときは、ハラハラしないためにあえてどちらのチームを応援しないようにしている。「応援することがあるとすれば、もう絶対安定して勝ちそうだなと思ったチームにだけするって感じですね」

例えばフィギュアスケートだと、Kさんは羽生結弦さんを応援していた。「羽生さんは絶対王者、と言われているだけあって、ほぼ負けがなく安心して見られました」。ただし、とにかく安定感のある試合を観たいという気持ちなので、メダル候補だったとしても、ぎりぎり勝つといった展開だと最後まで見られないことがあるそう。

「今回のパリオリンピックは、負けそうになってはチャンネルを変えたくなって、を繰り返してました。結果が怖くて見られないので一旦寝て、翌朝起きてからニュースで結果を見るとか。本当はそういうハラハラな展開からも目を背けず、ちゃんと見届けたいという気持ちはあるんですが、選手の想いとか表情とか見ると、辛くなりすぎてなかなか最後まで見届けられないのです」

gorodenkoff/iStock/Getty Images Plus

Kさんもニュースは暗いものでも、知ったほうがいい情報があるため、たまにチェックはしている。ただ、それでも、例えば戦争系のニュースは特に苦手なため、何がいつ起きたのか、という最小限の事実のみを見聞きする。殺人事件なども、なぜ起きたのかが気になる一方で、自分の知り合いがそういう目にあったら、とか、被害者の人の気持ちを考えると辛すぎて立ち直れないと感じるそう。そして日常生活に支障が出るといけないので、どうしても知りたいときは夫に情報を見てもらい、フィルターを通して教えてもらうこともあるという。

他人の考察を知ったうえで楽しむ

メーカー勤務のEさん(28)も結末を先に知ってからコンテンツを見る派の1人。リアリティショーやオーディション番組が好きだが、見る時間がない時に簡易的にまとめたSNSの投稿をチェックするようになったのがきっかけかもしれない。

「SNSで動きがあったか確認して、大切な回なら見るというのを繰り返しているうちに、時間があっても先にネタバレを見たほうが安心して見られると思うようになりました」

やはりEさんもドキドキしながら観ると、途中の過程のディテールに集中できず、気付きたい部分に気付けず終わってしまうのが嫌で、心の準備をしておきたいそう。また、安心して見られるというだけでなく、他人の考察を知ってから見ると、より楽しいということに気づいた。「いろいろな思考を巡らして、学んだ考察を思い出し、なるほどねと、納得しながら見るのがなんか楽しいんですよね」

「簡単にそのコンテンツのオタクになったみたいな視点で、そのコンテンツを楽しめるっていうのがいいと思っています」

「結末を先に知りたい」人は2割強

【グラフ1】(単一回答) 【グラフ2】(複数回答)博報堂キャリジョ研プラス「映画やドラマ、漫画などのコンテンツの楽しみ方に関する調査」

博報堂キャリジョ研プラスは2024年8月、20-59才の女性150人を対象に「映画やドラマ、漫画などのコンテンツの楽しみ方に関する調査」を行った。グラフ1、2の母集団は調査対象者全員150人。

グラフ1をみると、「先にネタバレされるのは絶対にイヤ」39%が一番多くなった。またグラフ2からハラハラドキドキするようなコンテンツも「好き」「まあまあ好き」が合わせて70%と肯定的な意見が多かった。

一方でグラフ1から「物(ジャンル)によっては結末を先に知っておきたい」「先に結末を知っておきたい」が合わせて23%は存在することが分かった。

【グラフ3】(複数回答)博報堂キャリジョ研プラス「映画やドラマ、漫画などのコンテンツの楽しみ方に関する調査」

グラフ3の母集団は、全体150人のうち、グラフ2の設問で「嫌い」「あまり好きではない」を選択した人17人とする。

グラフ3を見ると、ハラハラドキドキするようなコンテンツを好まないのはコンテンツ視聴中に不快感を伴うからという答えが多い。

また、日常でハラハラドキドキするようなことがあるので、コンテンツの中ではしたくないと、安寧を求めるような声もあがった。

BongkarnThanyakij/iStock/Getty Images Plus

インタビューの結果、コンテンツの結末を先に確認してしまう心理として、そもそも結末を見ても過程の面白さを半減させるという感覚がないことが共通のインサイトとして分かった。

一方で、ハラハラ、ドキドキという感覚に苦手意識がある、人によっては避けたいという理由には、「仕事に支障をきたしたくない」、「仕事で疲れているので、コンテンツでは疲れたくないから」といった日常生活との兼ね合いや、「ハラハラドキドキすると話の過程に集中できないから」と、結末を知って落ち着いたうえで話の過程に集中したいことが理由として挙げられた。

実は筆者もハラハラドキドキするコンテンツは、自分の願った通りの結末にならないと、ズーンと心が重くなり嫌な気持ちになるので、先にどんな結末か見ておくことがある。結末を先に見るのはネガティブな理由なだけでなく、Eさんのように、結末や内容を知っていることでより深い視座でコンテンツを観ることができるというプラスの面もあるということは、新たな発見だった。

■北里礼のプロフィール
「博報堂キャリジョ研プラス」所属。1997年生まれ。グローバルマーケティング部で、ストラテジックプランナーとして、ヘルス&ビューティーブランドや通信会社のマーケティング、リブランディング、競合調査などを担当。趣味は旅行、ハイキング、ゴルフ、YouTube鑑賞。

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