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キノコは「菌糸ネットワークを流れる電気信号」で会話をしている

  • 2024.9.15
キノコは50種類の「単語」を使って会話をしている
キノコは50種類の「単語」を使って会話をしている / Credit:Canva . ナゾロジー編集部

キノコはおしゃべりかもしれません。

英国西イングランド大学(UWE)で2022年に行われた研究によれば、4種類のキノコで観測された電気信号を分析したところ、人間の言語に似た「単語」と「文」が確認できた、とのこと。

菌類には神経細胞が存在しませんが、細胞同士が脳のニューロンのようなネットワーク構造を形成し、ネットワーク内部では活発な電気信号の送受信が行われています

研究者たちがこの電気活動を数学的及び言語学的に分析したところ、菌類が使う電気信号は人間の「言語」と非常によく似た構造を持っていることが示されました。

しかし菌類の言語とは、いったいどんなものなのでしょうか?

研究内容の詳細は2022年4月6日に『Royal Society Open Science』にて公開されています。

目次

  • キノコに電極を刺して電気活動を観測する
  • 菌類の「単語」は人間の単語と似た文字量を持つ
  • 「スエヒロタケ」は最も複雑な「文」を作るキノコだった

キノコに電極を刺して電気活動を観測する

キノコに電極を刺して電気活動を観測する
キノコに電極を刺して電気活動を観測する / Credit:Canva . ナゾロジー編集部

私たちの脳はニューロンが結びついたネットワークで構成されており、ネットワーク内部に走る電流の無数のパターンによって、意識や思考がうまれます。

またネットワークを物理的に再編することによって新しい情報の「記憶」や「学習」が可能になります。

しかし一部の菌類では、ニューロンなどの神経細胞が存在しないにもかかわらず、記憶や学習、迷路の攻略、最適な経路の選定、数学的な演算能力など、高度な情報処理を行えることが知られています。

脳がない菌類が、これら複雑な情報処理能力を如何にして実現しているかは、いまだ多くが解明されていません。

ですが近年の研究により、菌類の内部で活発な電気活動が行われていることが判ってきました。

たとえば木材を栄養源とする菌類に木製のブロックを与えた場合、電気信号の増大が起こることが知られています。

このことから、菌類が電気的な「言語」のようなものを使って、栄養源などにかかわる情報を体内の細胞間ネットワークで処理している可能性が示されます。

そこで今回、西イングランド大学の研究者は4種類の菌類の電気活動を測定し、活動パターンの数学的及び言語学的な分析を行うことにしました。

すると意外な結果が現れます。

菌類の「言語」は人類の言葉とよく似ていたのです。

菌類の「単語」は人間の単語と似た文字量を持つ

キノコの単語は人間の単語と似た文字数を持っていました
キノコの単語は人間の単語と似た文字数を持っていました / Credit:Canva . ナゾロジー編集部

菌類の言語はどんなものなのか?

調査にあたってはまず、菌類の菌糸体(キノコ)に電極を刺し込み、電気活動(スパイク)を記録していきました。

すると上の図のように、種族ごとの特性のあるバーコードのようなパターンが記録されました。

次に観測された電気スパークの塊を「単語」とみなし、電気活動パターンが「言語」だった場合の「単語」の文字数と「文」の複雑さを調べました。

(※具体的には観測されたスパイクパターンをバイナリと解釈して文字に変換しました)

ロシア語はキノコ語だった・・・?
ロシア語はキノコ語だった・・・? / Credit:wikipedia . Canva . ナゾロジー編集部

結果、菌類の平均的な単語の長さは「5.97文字」であることが判明します。

この数字は英語の平均的な単語の長さ「4.8文字」やロシア語の平均的な単語の長さ「6文字」と非常に似通っており、人間の話す単語と似た文字量を含むことが示されました。

また観測された「単語」の数は合計で50種類に及ぶものの、最も頻繁に使われる「単語」はそのうち15~20種類であり、長い単語ほど使われにくい傾向にあることが判明します。

人間の言語にも複数の単語があるものの、日常会話で使われるものは短く簡素なものに限られています。

もしかしたら菌類たちの言語もよく使う「単語」とそうでない「単語」があるのかもしれません。

では、菌類ごとに「単語」や「文」の複雑さに違いがあるのでしょうか?

「スエヒロタケ」は最も複雑な「文」を作るキノコだった

Credit:wikipedia

今回の研究で調査対象となった4種類の菌類は、食用にもなる「エノキタケ」、南極以外のほとんどに生息する「スエヒロタケ」、冬虫夏草の一種である「サナギタケ」、発光キノコの一種である通称「幽霊キノコ (Omphalotus nidiformis)」でした。

研究者たちが電気活動の分析データを比較したところ、最も複雑な「文」を作るのがスエヒロタケであり、次いでサナギタケであることが判明します。

また「文」の複雑さは菌の種類を予測できる因子でもありました。

菌類たちが異なる「文」を生成する原因として研究者たちは、種によって異なる「方言」を持つからであると述べています。

今後、研究者たちは種間の「方言」の違いや文法の解釈法を調べるとともに、分析方法の最適化を行っていく、とのこと。

もしこれらが解明されれば菌類の文法構造や構文、単語の意味が解明され、菌類の言語を解読できるかもしれません。

また重要な点として、菌類がネットワークと電気信号で情報処理を行っている場合、菌類は体全体に脳としての働きがあることになります。

だいぶクレイジーな主張にも聞こえますが、SFでは菌類が作るネットワークに知性が宿るという設定もよくみられます。

もしかしたら、そこにはある程度の真実が含まれているのかもしれません。

※この記事は2022年4月公開のものを再掲載しています。

参考文献

Fungi May Be Communicating in a Way That Looks Uncannily Like Human Speech
https://www.sciencealert.com/fungi-communicate-with-patterns-that-look-uncannily-like-our-own-speech

元論文

Language of fungi derived from their electrical spiking activity
https://royalsocietypublishing.org/doi/10.1098/rsos.211926

ライター

川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。

編集者

海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。

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