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「仕事で体を動かす人は逆に健康を損なう」運動が抱えるパラドックス

  • 2024.9.15
倉庫作業員は仕事中の身体活動が多い職業として知られている
倉庫作業員は仕事中の身体活動が多い職業として知られている / Credit: Canva

体を動かすことは健康に良いと言われており、健康的な生活習慣と言うと、運動をイメージする人も多いと思います。

しかし、種類やタイミング、状況によっては、体を動かすことが健康に悪いことが分かっています。

この現象は「身体活動パラドックス」と呼ばれていて、具体的にどういったものなのかというと、余暇時間に体を動かすことは健康面でメリットがある一方、仕事中の身体活動は病気のリスクや寿命にマイナスの影響を及ぼすという逆説的なものです。

この記事では、身体活動パラドックスに関する研究に触れながら、なぜ身体活動パラドックスという現象が起こるのか、その背景に迫っていきます。

目次

  • 身体活動パラドックスとは?
  • 身体活動パラドックスの背景は複雑

身体活動パラドックスとは?

体を動かすことが好きな人には信じがたい事実かもしれませんが、体を動かすことが時に健康リスクになることを示した研究が多数存在します。

例えば、デンマークの国立労働環境研究センターに所属するホルターマン氏を代表とする大規模研究では、10万人以上を対象に約10年間にわたり、追跡調査を行った結果、余暇時間の運動量が多いと心血管疾患や死亡リスクを減少させる一方で、仕事中に体をよく動かす人は、逆にリスクを増加させることが分かりました。

この結果は、余暇時間に体を動かすことは健康メリットがある一方、仕事中の身体活動は病気のリスクや寿命にマイナスの影響を及ぼすという身体活動パラドックス現象を明確に表していて、体を動かすのは余暇時間に限った方が良いことを示唆しています。

仕事中によく動く人は心疾患などの健康リスクがある
仕事中によく動く人は心疾患などの健康リスクがある / Credit: 写真AC

当時、ホルターマン氏は、仕事中の活動量が多い人たちは、職場で体を動かすことが健康に繋がると信じているが、実際にはその見解は間違っている可能性があるとコメントしています。

さらに、仕事中によく動く人たちであっても、余暇時間に運動すれば健康に良い影響が期待できるものの、現実的には仕事で疲れ果ててしまい、余暇時間に運動するのは難しいとも述べています。

このように、身体活動パラドックスという現象は、俗説レベルではなく、信じるに足るきちんとしたエビデンスがあります。

では、なぜ仕事中に体を動かすと健康が脅かされてしまうのでしょうか?

身体活動パラドックスの背景は複雑

ホルターマン氏は、建築業、配送・運送業など、仕事中の活動量が多い職種の体の動かし方と余暇時間でよく行われているウォーキングやジョギング、サイクリングといった運動との間には、根本的に違いがあり、これが体に異なる影響を与えていると指摘しています。

まず、仕事中に体をよく動かす職業であっても、その際の強度は低く、長時間にわたって続くことが多いです。これは、健康リスクを下げるために役立つ心肺機能を高めるのには不十分で、効率的な運動とは言えません。

次に、こういった仕事中の身体活動では、心拍数が上がり続け、重い物を持ったり同じ姿勢を長時間続けたりすることで、血圧が高くなりやすいです。これでは、心臓に負担がかかり、長期的には健康を損なう可能性が高まってしまいます。

仕事中の活動量が多い人の体の動かし方と、余暇時間での典型的な運動には違いがある
仕事中の活動量が多い人の体の動かし方と、余暇時間での典型的な運動には違いがある / Credit: 写真AC

また、仕事中は、十分な休息が取りにくく、自分のリズムでコントロールできないためストレスが溜まりやすく、長時間の活動が炎症状態を引き起こすこともあります。

加えて、仕事中の活動量が多い労働者は、学歴や収入、婚姻状況などの社会経済的地位が低いことが多く、こういった背景の方が結果に影響しているのではという指摘も多々あります。 実際、こうした労働者は適切な医療を受ける環境が整っていないことが多く、健康管理が難しい状況にあるようです。

まとめると、身体活動パラドックス現象の背景は複雑で、仕事中の運動が問題を引き起こすだけでなく、こういった人たちの置かれている状況も影響している可能性があります。

さて、私たち日本人の多くは、座りがちな生活が問題視されています。

特にデスクワークが中心の職業では、仕事中の身体活動が少ないことが大きな社会問題となっていて、本記事の読者の中には、軽いストレッチや筋トレ、階段昇降など、むしろ仕事中の身体活動を高めた方が健康に繋がる場合もあるでしょう。

ただ、身体活動パラドックスという現象は、何が何でも体を動かすことが健康に良いと解釈するのは正しくないことを教えてくれています。

自分に合った適度な運動の取り方や適切な休息とのバランスを見つけることが、健康の維持、増進には不可欠と言えるでしょう。

参考文献

Leisure physical activity is linked with health benefits but work activity is not
https://www.sciencedaily.com/releases/2021/04/210408212952.htm

元論文

The physical activity paradox in cardiovascular disease and all-cause mortality: the contemporary Copenhagen General Population Study with 104 046 adults
https://doi.org/10.1093/eurheartj/ehab087

The physical activity paradox: six reasons why occupational physical activity (OPA) does not confer the cardiovascular health benefits that leisure time physical activity does
https://doi.org/10.1136/bjsports-2017-097965

ライター

髙山史徳: 大学では健康行動科学、大学院では体育学・体育科学を専攻。持久系スポーツの研究者として約10年間活動。 ナゾロジーでは、スポーツや健康に関係する記事を執筆していきます。 価値観の多様性を重視し、多くの人が前向きになれる文章を目指しています。

編集者

海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。

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