1. トップ
  2. エンタメ
  3. 映画監督・今泉力哉が二度と観たくない名画『街の灯』

映画監督・今泉力哉が二度と観たくない名画『街の灯』

  • 2024.9.16
二度と観たくない映画_今泉力哉

観客が夢中になる姿に、自分が映画を撮る理由を見失いかけた絶望が蘇るから

『街の灯』は映画そのものより、初観賞時の客席の空気が忘れられません。一度映画から離れて、再び撮り始めた2000年代後半に、飯田橋ギンレイホールで観て、映画を作るのがイヤになるような観賞体験でした。

僕も楽しく観てたんですよ。チャップリンと自殺志願者のドリフのようなやりとりや、有名なボクシングシーンには笑ったし、盲目の女性との交流にも感動した。でも上映が終わって劇場から出た時、ふと気づいたんです。全員が何度も同じタイミングで笑い、すすり泣き、最後は満足感に浸っている。

帰り際のあの空気、観客たちの表情……70年以上前に撮られた作品に現代の観客が夢中になっている光景はなかなかに衝撃的で、映画の素晴らしさを感じるとともに、これから僕が映画を撮る意味はあるのかな、と本気で思いました。

山下敦弘監督の『リアリズムの宿』では「自分のつくりたかったものが既に存在する」ことに衝撃を受けましたが、それとも違う絶望でしたね。僕は、年に1本しか映画を観ない人も、シネフィルも満足させたくて映画をつくってます。その意味でも『街の灯』は理想の一本ですね。

今回久々に観たら、ベタな笑いのシーンが意外としつこくて、ちょっと退屈しましたが……(苦笑)。でも本当にすごい映画。劇場で体験できるのが一番だと思います。

映画監督・今泉力哉

Information

『街の灯』

路上で花を売る盲目の女性に恋をしたチャップリン演じる放浪者は、彼女のために金策に走る。サイレントとトーキーの過渡期に作られた無声映画の傑作。製作期間は3年近く、チャップリンのこだわりが遺憾なく発揮された。'31米/監督:チャールズ・チャップリン。

profile

今泉力哉(映画監督)

いまいずみ・りきや/1981年福島県生まれ。2010年『たまの映画』で長編監督デビュー。『サッドティー』『知らない、ふたり』『愛がなんだ』『his』『街の上で』など恋愛映画に定評がある。
Twitter:@_necoze_

元記事で読む
の記事をもっとみる