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滝藤賢一の熱演と退場に涙…”多岐川”の愛に満ちた言葉とは? NHK朝ドラ『虎に翼』解説&感想レビュー

  • 2024.9.15
連続テレビ小説『虎に翼』©NHK

伊藤沙莉主演のNHK朝ドラ『虎に翼』。本作は、昭和初期の男尊女卑に真っ向から立ち向かい、日本初の女性弁護士、そして判事になった人物の情熱あふれる姿を描く。「女三代あれば身代が潰れる?」と題した第24週では、最高裁長官になった桂場(松山ケンイチ)を筆頭に、様々な人の変化が描かれた。【あらすじ キャスト 解説 考察 評価】
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【著者プロフィール:あまのさき】
アパレル、広告代理店、エンタメ雑誌の編集などを経験。ドラマや邦画、旅行、スポーツが好き。

連続テレビ小説『虎に翼』第24週
連続テレビ小説『虎に翼』©NHK

物語も佳境に入っている『虎に翼』第24週。「女三代あれば身代が潰れる?」と題して描かれたのは、己の正義を貫くことと自分らしさであったのではないかと思う。

残念ながら原告側の敗訴で幕を閉じた原爆裁判。記者の竹中(高橋努)は、長い記者人生のなかで初めて本を出版する。寅子(伊藤沙莉)のことを「お嬢ちゃん」ではなく「佐田判事」と呼び去って行く姿には、少しの哀しさと充足を感じた。

原爆裁判で、関係者たちはみな苦汁をなめた。おそらくは政府側の代理人も。よね(土居志央梨)たちのもとにやって来た寅子に、よねは「黙って飲め」と酒を勧める。

でも、裁判をしたこと、原子爆弾の投下が国際法に違反するとした判決文は残る。「あげた声は決して消えない」。かつての尊属殺人のことがふと頭をよぎる。

時は流れ、寅子は東京家裁少年部部長に、桂場(松山ケンイチ)は最高裁長官になった。直人(青山凌大)は裁判官になり子どもが生まれ、優未(川床明日香)は大学院で寄生虫の研究中。それぞれに自分の道を進んでいる。

連続テレビ小説『虎に翼』第24週
連続テレビ小説『虎に翼』©NHK

そんな折、よねと轟(戸塚純貴)のもとへ、父親を殺害した美位子(石橋菜津美)が依頼人としてやってくる。原爆裁判の最後に、「あげた声は消えない」という言葉が再び登場したのはここに繋がっていたのか、と合点がいく。

美位子は母親が逃げ出した家で、長年父親から虐待を受け、子どもを出産。さらに恋人と結婚をしようとしたところを反対され、首を絞めて殺してしまった。

これに対し、よねたちは尊属殺人(目上の血族を殺害すること。刑罰は死刑か無期懲役)は、法の下の平等を訴える憲法に違反すると主張する方針をとることを寅子に話す。

穂高(小林薫)が尊属殺人を違憲だとするも、ほかの裁判官たちが合憲と判断し認められなかった判例があった。あのときに穂高があげた声は、時を経てどのように作用してくることになるだろう。

連続テレビ小説『虎に翼』第24週
連続テレビ小説『虎に翼』©NHK

また、寅子の子どもたちの世代にも様々な変化が現れる。

のどか(尾碕真花)は、芸術の道を志す誠也(松澤匠)と恋人関係にあった。結婚をするにあたって、誠也は夢を諦めようとするが、のどかはその必要はないとし、諦めずに結婚することを選択する。

優未は寄生虫の研究をしていても先がないと感じ、大学院を辞めたいと申し出る。航一(岡田将生)はこれに猛反対するが、寅子は「この子の道を塞がないで」と反論。困惑する航一に、「自分で選んだ道を生きてほしい」と続ける。

そして、「ここから先は地獄かもしれない。それでも進む覚悟はある?」と優未に問いかけるのだった。法律の勉強をしたいと言ったとき、寅子に問いかけたはる(石田ゆり子)の姿が思い浮かぶ。いろいろなことがあったけれど、寅子はいい母親になったのではないかと感じた。

汐見(平埜生成)と香子(ハ・ヨンス)の娘・薫(池田朱那)は、学生運動に没頭。安田講堂で逮捕されるが、起訴猶予処分となった。また、香子が朝鮮人である生い立ちを隠していたことで母娘関係が悪化してしまっていた。

そんな薫が逃げ込むのは、同居していた多岐川(滝藤賢一)の部屋。病を患い、ほとんど寝たきり状態の多岐川と薫が会話する様子はほぼ描かれなかったものの、きっと小さなころから多岐川にかわいがられて育ったのだろうことは容易に想像できる。

連続テレビ小説『虎に翼』第24週
連続テレビ小説『虎に翼』©NHK

薫は時代の風に当てられて学生運動に没頭していたというよりは、そこに自分にとっての正義を見出していたように感じられる。そんな人が、母親の偽りを知らされたショックはいかばかりだっただろう。

しかし、香子が歩み寄ることで和解。「薫の前で崔香淑を取り戻してみたい」と語った。これを聞いていた多岐川は、布団のなかで優しく微笑み「愛だなぁ」と呟くのだった。

このとき、家裁は少年法改正の問題に直面していた。安田講堂の一件も関連し、少年たちの犯罪が増えていることを危惧した法務大臣が厳罰化を求めていたのだ。これに対する意見書の作成のため、多岐川のもとに寅子、稲垣(松川尚瑠輝)、小橋(名村辰)が集まっていた。

そして、厳罰を課して終わりではなく、更生のために愛を持って向き合うことを訴えた。床に伏し、弱々しさが目立っていた多岐川の、怒りに震えた涙ながらの訴えは迫力があった。少年たちのために粉骨砕身してきた男は、最期の最期まで愛に溢れて美しかった。

ここでまとめた抗議文だが、多岐川が直接最高裁長官である桂場に渡すことは叶わなかった。多岐川の訃報をライアン(沢村一樹)が伝えに来ると、桂場の前に若かりし頃の多岐川の姿が。「頼んだからな、桂場」とギリギリまで顔を近づけ高笑いする。

自分の生き方を見つけたのどか、模索することにした優未。そして薫の正義を見て、自分の生き方を取り戻した香子。それぞれの人生が、それぞれの軸で自分らしく展開していく。そして持ち越しとなった控訴された尊属殺人の行方と少年法の改正。寅子がこれまで向き合ってきたものにも、ひとつの答えが提示されていくのだろう。

(文・あまのさき)

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