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Tシャツが増え続ける家に住むオタク/やましたひでことカレー沢薫のオタクの断捨離⑤

  • 2024.9.14

断捨離®とは手に入りそうなものを「断ち」、いらないものを「捨て」、物への執着から「離れる」こと。人は断捨離により心が解き放たれ、ごきげんな人生を送ることができるという。この理念の対極に存在するのがオタクだ。物へのこだわりが人一倍強い彼らは「好きなものに囲まれた人生は最高」であることを実感している。だが実際に取材を行ったところ「本当はキレイな部屋で暮らしたい」「憧れのインテリアにして人を呼びたい」といった一般人としての願望に葛藤するオタクが多く見られた。「オタクの断捨離」では、断捨離の提唱者であるやましたひでこ氏と漫画家のカレー沢薫氏が、愛すべきオタクたちにとって快適な“断捨離の考え方”を模索していく。

※断捨離はやましたひでこ個人の登録商標です。

「オタクの断捨離」の第1回に“漫画を全巻そろえるオタク”として登場した小林さんは、Tシャツ作りのオタクでもある。小林さんが運営するブランド「マニアパレル」では、自身がデザインしたTシャツや手ぬぐいなどのグッズを販売。今回メインで登場するのは、そのマニアパレルで管理人を務める妻のリカさんだ。

リカさんは、夫の作るTシャツが自宅に増え続けることが悩み。1ヶ月で制作されるTシャツは平均3種類。新作ができるたびに商品が自宅に届いていたため、ついに置き場がなくなり、今は近くに住む夫の実家に商品を送ってもらっているそうだ。Tシャツは受注販売のため、注文した人に送付してしまえば在庫は溜まらない。困るのは、夫妻が自分たちで着用する分のストックだという。

夫妻がよく着るTシャツは「昇龍、しんかい、酷道標識、暗渠、アロエ、リフト(索道)、CCB(秩父)、フラソス製…」だというが、これらはすべて柄の名称。暗渠とは地下に埋設した水路のことだし、フラソス製は“フランス製”を買ったつもりが“フラソス製だった…”の意味。小林さんが「かわいい」と感じたものがTシャツの柄になるそうで、このラインナップからも小林さんのマニアックぶりが伝わるだろうか。

Tシャツのストックは、タンスの引き出しや季節替え用の茶箱、スーツケースの中など、隙間があれば手当たり次第に詰め込まれており、その数は300枚を超える。以前、「マニアパ断捨離大会」と称してマニアパファンにどれか1枚を送料込み500円で送るイベントを開催し、ずいぶん数は減ったそうだ。それでも、年間約36枚のペースで製作されるTシャツは自宅の収納に収まらず、小林家の生活空間を侵食していく…。

「作ることをやめたら泳ぐことをやめて死んでいくマグロと同じ。好きなものを具現化して物にすることで、好きなものに対するアンサーを出すのがオタクの使命。正直めんどうだし、つらいこともあるけど、嫌いなことはしていない。それがいい」

これはTシャツオタク・小林さんの名言である。Tシャツを作ることは小林さんにとって日々の幸せをまっとうすることと同義であり、人生を生き抜くためのモチベーション。さらに、自身が生み出したTシャツは我が子のようなもので、容易には捨てられないという。

〈正負はそれぞれにある by やましたひでこ〉 モノを愛でる派 空間を味わう派 嗜好も、志向も、生活も、人生も、それぞれの自由な選択。 沢山の趣味、オタクという人生を選択したのならば、 それによって被る負の部分も潔く引き受ける覚悟を。 家の中の混乱を愚痴ることこそ、断捨離を! やましたひでこは、当然、空間派 スッキリ空間 ピカピカ空間 うっとり空間 それを目指しているからこそ、常に、モノを選び抜く「せめぎ合い」、モノを捨てる「後ろめたさ」を引き受けている日々。 タメコミアンであれ、ダンシャリアンであれ、正負はそれぞれにあるのです。ダ・ヴィンチWeb

「弱音を吐いたら、私がすぐに『やめれば〜!』って言うのがわかっているから、本人は楽しんでいますよ」というのがリカさんから見た小林さん像。毎日のように「聞いて聞いて!こんなTシャツあったら良いよね?」とリカさんに声をかけてくるという小林さんは、Tシャツ作りが楽しくて仕方ないようだ。

また、小林さんの作るTシャツには熱烈なファンが大勢いて、クローゼットがもういっぱいなのに新作を待ち望んだり、子どもの成長に合わせて買ってくれたりするという。

世界の誰かを幸せにするTシャツ作りとは、控えめに言っても最高。Tシャツに生活空間を侵食されるという「混乱」を真正面から引き受け、その混乱を愚痴らない日々を選択できるのなら、小林一家にも快適な断捨離ライフが訪れるかもしれない。

文=吉田あき

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