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ドラマを超えた小池栄子の名演説…”ヨウコ”&”享”だけじゃない影の主人公とは? 『新宿野戦病院』最終話考察&評価

  • 2024.9.14
『新宿野線病院』最終話 ©フジテレビ

小池栄子と仲野太賀がW主演のドラマ『新宿野戦病院』(フジテレビ系)が完結を迎えた。宮藤官九郎の最新作である本作は、新宿歌舞伎町にたたずむ「聖まごころ病院」を舞台に、様々な”ワケあり”の患者が訪れる。今回は、最終話を多角的な視点で振り返るレビューをお届けする。(文・田中稲)【あらすじ キャスト 解説 考察 評価】
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【著者プロフィール:田中稲】
ライター。アイドル、昭和歌謡、JPOP、ドラマ、世代研究を中心に執筆。著書に『そろそろ日本の全世代についてまとめておこうか。』(青月社)『昭和歌謡出る単 1008語』(誠文堂新光社)がある。CREA WEBにて「田中稲の勝手に再ブーム」を連載中。「文春オンライン」「8760bypostseven」「東洋経済オンライン」ほかネットメディアへの寄稿多数。

『新宿野戦病院』第11話より ©フジテレビ
『新宿野戦病院』第11話より ©フジテレビ

ルミナ禍からの最終回。この10回で色々あり過ぎて「このまま見逃されるのか」と思っていたが、ヨウコ(小池栄子)が無免許で医療行為していたことが、最後になって響いてくるとは…。

それだけではない。第1話から何気なく見ていたシーン、人が、つながりを、芋を掘り起こすようにポコポコ思い出させ、「こう来るか!」のラストシーンが待っていた。

話は、ルミナ第2派直前からスタート。ドラマと同局の情報番組『Mr.サンデー』(日曜後10・00)がタイアップ。ヨウコと院長の高峰啓介(柄本明)が、宮根誠司が司会を務める情報番組にリモート出演、ルミナ禍について議論する…という展開となった。

この番組で、ヨウコは、第5話で、ヨウコたちが搬送したホームレスのシゲさん(新井康弘)とECMOの順番を争った官房副長官・川島一也(羽場裕一)と対峙する。防衛副大臣から、官房副長官となった彼に、ヨウコが訴えるのは、医療従事者への支援と、「犯人さがしの無意味さ」であった。

「感染源は? これだけは言える。運んだのは人間です。どれだけ危険なウイルスだって、足が生えて密林から出てくるわけではありません。人間の移動によって広まるのは間違いない。だから犯人さがしは意味がない。特定の人を悪者にするのをやめてください」

この、訴える場面だけ、岡山弁&英語は封印し、ヨウコは標準語で話すのだ。ドラマという架空の設定を超えた、苛立ちが伝わってきた。

『新宿野戦病院』第11話より ©フジテレビ
『新宿野戦病院』第11話より ©フジテレビ

これを機にテレビに露出し、一躍ヨウコは人気者になるが、過去の無免許をリークされ、逮捕されてしまう。そして、情報をリークしたのが、まさかの南舞(橋本愛)!

このドラマで、舞は常にヒエラルキーの上にいた。ボランティアをし、享(仲野太賀)と岡本(濱田岳)に好かれ、山ほど株主優待券を持ち、啓三(生瀬勝久)に崇められ――。

それが、ルミナ禍で「NOT ALONE」は誹謗中傷にさらされ、一転。ヨウコとの差にいらつき「ついつい」SNSで投稿してしまうのだ。ただ、ヨウコの療養先のホテルまで出向き、それを自白し謝るあたり、闇落ちとまでは言い難く、とても舞らしい。

「悔しかったんだと思います。目指している方向は同じなのに、ヨウコさんだけチヤホヤされて」

まさかの承認欲求からの、うっかりSNSアップ。一番こういったことを軽蔑しそうだった舞が、「うっかり」してしまう、と言うのがなんともリアルであった。

『新宿野戦病院』第11話より ©フジテレビ
『新宿野戦病院』第11話より ©フジテレビ

今回は南舞のパパ、歌舞伎町の風俗王(松尾スズキ)が登場。ムーディーな音楽に乗って登場したその姿は、逆・喪黒福蔵的で、まさに「救いの神」。真っ白なスーツにまっ白なハットをかぶり、ダンディボイスで、閉店した風俗店を病院に無償で提供するという提案をするのだ。

「ナチュラルローション、天下いっぴんぴん、マットMAX、聖したごころ女学院、鬼滅のヤバい…」

ヒット作をもじった店名がいかにも風俗店名あるある。どのダジャレも素晴らしい完成度だ。

これまで、南舞が風俗王の娘、という歌舞伎町的な設定はちょっとクドイかも。 と思っていたが、まさかルミナ禍第2波の「ベッド不足」解決につながるとは…。

コロナ禍の際、新型コロナウイルスの軽症、無症状の感染者に対し、状況によっては自宅や自治体が借り上げたホテルで療養したのは記憶に新しい。

考えてみれば、ラブホテルも濃厚接触をするために提供された場ではあるものの、ホテルはホテル。立地も、繁華街から近くに建てられていることが多く、物資を調達するのに便利だ。

ルームサービスも可能だし、学校など公共施設から200メートル以上の距離を置くという規制も、ある意味感染対策にもってこいともいえる。入浴設備は万全だし、消毒液もある。なるほど…!

『新宿野戦病院』第11話より ©フジテレビ
『新宿野戦病院』第11話より ©フジテレビ

ヨウコを中心に、目の前の患者を助けることで団結していった「聖まごころ病院」。そのなか、一貫して「世間的に言っちゃまずいことを言う」「不謹慎」担当だった啓三。

利益主義で、極端な異論をサラリと日常会話にする、生瀬勝久の持つ明るさに感動した。リツコに対しての「妖怪ジャズババア」はともかく、ヨウコの「ビッチの姉ちゃん」が笑って流せるのは、生瀬の憎めなさゆえ。ヨウコの無免許について情報リークを家族全員の疑われた際の、

「お前らが俺を疑う気持ちもわかるし、俺ですら、俺を疑う実績が俺にはある。ただ、今回ばかりは俺じゃねえ!」

という説明は見事である。

そして最後に、はずき(平岩紙)。病院の長女に生まれ、女性なだけで、居場所がなくなる。それでも父の面倒を見、ソーシャルワーカーとして働き、積み上げ築いた自信。それがヨウコの登場で木っ端みじんに打ち砕かれてしまうのだ。怒りを爆発させ、自然にまた自分を取り戻していく感じを平岩紙が仏頂面ながら温かく演じていて、本当に好きだった。

このドラマは私にとって、はずきの物語でもあった。なので、ヨウコが逮捕された際、病院のメンバーのなかで真っ先に「ヨウコ!」と叫ぶのが享ではなく、はずきなのは、納得も納得、大納得である。

ラスト、ヨウコが「聖まごころ病院」に足りないものとして、舞に託すのが「心のケア(カウンセリング)」。名前まで回収していく職人技を見せつけて終わった最終回。ラストのナレーションは、享。とてもやさしい語り口であった。

歴史は繰り返す、ということをコメディに包んで見せつけられた今作。このドラマで描かれたトラブルや感染拡大が今後、現実と化さないようにと願うが、簡単になんとかできるものではない。それでも、「雑」にでも、できることをしよう、と、つくづく思うのである。

(文・田中稲)

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