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孫はかわいいが「3日以内に帰ってほしい」?高齢者にとっての「孫」「ペット」「ロボット」の違いを考える

  • 2024.9.14
高齢者にとっての「孫」「ペット」「ロボット」とは…?
高齢者にとっての「孫」「ペット」「ロボット」とは…?

高齢者に関する研究活動を行う筆者は先日、ある高齢女性に、ご自身が詠まれた短歌を見せていただく機会がありました。「楽しみは 年に三回 孫が来て 三日以内に帰りたるとき」。思わず笑ってしまいましたが、高齢者にとっての孫の存在というものがよく分かります。

孫はとてもかわいいし、会いたいと思うが、あまり長くいられると疲れてしまう。盆、正月、ゴールデンウイークと年に3回くらい来て、2泊して帰ってくれるくらいがちょうどよい、という本音が表れています。(ちなみに、「たのしみは」から始まって「とき」で終わる形式は、幕末の歌人・橘曙覧の「独楽吟」から取ったものです)

孫はかわいいけれど、年も違えば話が合わないし、体力が違い過ぎるから一緒に長くは遊べない。おいしいものを食べさせよう、何か買ってあげよう……などと思えば思うほど、いろいろと気も使うでしょう。普段とは全く違う日が何日も続けば、「そろそろ帰ってくれないかな」と思ってしまうのも仕方ありません。「帰った後は、ちょっとは寂しさもあるけれど、心からホッとする」という話は、他の人たちからもよく聞きます。「1週間もおられたら、疲れて死にそうになるわー」と笑っておられた人もいました。

孫とペットの“不思議”な違い

「話が合わない(意思疎通が難しい)」「体力がかなり違う」という点で、孫とペットはよく似ていますが、ペットに対して「3日以内に帰ってほしい」「疲れて死にそう」などとは思いません。2010年の「動物愛護に関する世論調査」(内閣府)によれば、70歳以上では約24%の人がペットを飼育していますし、ペットを「本当の家族」と考えて暮らしている人も多くいます。

ペットを飼えば世話をしなければなりませんし、飼うには責任が伴います。「旅行に行けない」といった行動の足かせになることもあります。また、寿命が来ればその死を見届けなければなりません。高齢者には「私が先に死んだら」という不安もよぎるでしょう。飼うには場所を取りますし、エサ代もかかります。近所や周囲にペットを嫌がる人がいれば、軋轢(あつれき)の原因になるかもしれません。なのに、「ペットがいるから日々、疲れ切ってしまう」という声は聞きません。

高齢者にとっての孫とペットの違いは、なかなかに不思議です。「孫は自分よりもはるかに長生きするが、ペットは自分と同じで命はそんなに長くない」という思いから、より愛おしい気持ちが強くなるのでしょうか。孫は自分を超えていくし、自立して生意気になっていきますが、ペットはいつまでも自分に依存し続けるので、よりかわいく感じるのかもしれません。

そして、孫とは言葉を使ってコミュニケーションをしますが、ペットとは身体的な触れ合いや視線・表情などの非言語的なコミュニケーションで、後者の方がより深い癒やしや和みを得られるような気もします。

コミュニケーションロボットの動向

近年、高齢者の暮らしや健康に有用として、コミュニケーションロボットが注目されるようになりました。何度かデモンストレーションを見ましたが、ストレスなく会話をすることができ、相手のことを記憶する力もあります。顔を画像で認識した上で話の内容を記憶し、次回の会話にそれを使えるので、例えば、「◯◯さん、先日行かれたゴルフの結果はいかがでしたか?」といったことをしゃべってきます。メモリーされている歌を歌ったり、踊ったりといったパフォーマンスもできます。そしてAIによって、そのレベルは飛躍的に向上しています。

当たり前ですが、ロボットですから世話をしなくてもいいですし、死を心配する必要もありません。コンパクトなサイズなので場所も取りませんし、見た目もそれなりにかわいらしく出来ています。話し相手にはなるし、面倒も心配もいらないとなれば、もっと広まってもいいと思うのですが、そうはなっていません。一時話題となった「Pepper(ペッパー)」くんも、今は生産が中止されているようです。

現在のところ、高齢者市場におけるロボットは、入浴介助や移動・体位変換といった介護施設における職員の介護実務を助けるロボットが注目され、広がりを見せている一方、コミュニケーションや癒やしの提供といった人間の感情に関わる分野ではなかなか難しいというのが実態です。考えてみれば、高齢者にスマホの待ち受け画面を見せてもらうと、孫やペットの写真はよくありますが、ロボットにしている人は記憶にありません。

もちろん、孫もペットもロボットも、高齢期の不安を根本的に取り除けるようなものではありません。「遠くの親類より近くの他人」ということわざがありますが、高齢になると体調急変や事故などの危険性が高くなりますし、最近では災害や犯罪の不安も大きくなってきています。

そんなときに頼りになるのは、他人であってもやっぱり近隣にいる人たちです。地域コミュニティーが細り、“頼りになる他人”がとても少なくなった現代においては、余計にその重要性は高まっています。孫やペットやロボットがその代わりになることがないのは、当然のことなのかもしれません。

NPO法人・老いの工学研究所 理事長 川口雅裕

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