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「楽しい」はどう作る? 駆け出しダンジョンデザイナーと元魔王の有能スライムが繰り広げるお仕事ファンタジーコミック『商業ダンジョンとスライム魔王』

  • 2024.9.13
ダ・ヴィンチWeb
『商業ダンジョンとスライム魔王』(チャレヒト:原作、緑豆:作画、藍葉悠気:ネーム構成/KADOKAWA)

多くの人が求めてやまない「楽しい」「面白い」「ワクワクする」という感覚。でも、いざそれを生み出そうと考えると、「なんか違う」「コレジャナイ感…」と、目指した形からは程遠いものになってしまうことは多い。いったいなぜなのか。もしかしたらそれは、根底にある「そう感じる仕組み」を理解しているか否かに大きく左右されるのかもしれない。

『商業ダンジョンとスライム魔王』(チャレヒト:原作、緑豆:作画、藍葉悠気:ネーム構成/KADOKAWA)は思わずそんなことを真剣に考えてしまう、駆け出しのぽんこつダンジョンデザイナー・フランと元魔王の有能スライムが織りなす“商業ダンジョン”クリエイトコメディ。「コミックNewtype」などで連載されており、2024年9月10日に単行本2巻が発売された。

本作の舞台は、魔王が人間の勇者に討伐されて50年が経った架空の世界。ここでは残された魔族がダンジョンを再利用し、財宝を目的とする人間の冒険者を誘い込み、アイテムの売買などで経済を成り立たせる「商業ダンジョン」というビジネスに成功していた。なかでも「挑戦して楽しいダンジョン」は特に人気があり、多くの利益を生み出している。

主人公・フランは、そんな世界で駆け出しのダンジョンデザイナーとして働くデミハーピィの女の子。……なのだが、世界一の商業ダンジョンでデザイナーをしていた父親に憧れてこの職業に就いたものの失敗してばかり。そしてついには、ダンジョンオーナーに「3日以内に改修(アップデート)しなければクビ」と言われ、窮地に追いやられてしまう。

自信をなくし落ち込むフランの前に現れたのは、勇者の封印によってスライムの姿になってしまった元魔王・レイゼだった。レイゼはフランに「ハマるダンジョン」とは何かを伝え、改修を手伝い、3日で見事なまでのV字回復をさせることに成功。ここから、フランとレイゼふたりでのダンジョンデザイナー生活が始まっていく。

見た目がスライムで性格も穏やかなレイゼだが、商業ダンジョンをデザインする知識と技術は本物。宝箱を設置するメリットや意図から始まり、トラップを仕掛けた石畳の色をあえて変える意味、冒険者を夢中にさせる手法などを具体的かつ分かりやすく説明していく。

また、ダンジョンで働く人たちのことも無視できない。彼らにはそれぞれの性格や思いがあり、その声を聞かなければ、ダンジョンが思うように機能しない。だが、逆に言えばそれは“個性”として光る可能性のある部分でもある。フランはその個性を活かしたいと考え、レイゼの力を借りて更なる改修に挑んでいく。

例えば、「魔族が人間と全力で戦って何が悪い!」と憤るウェアウルフ・フォウには、希望どおり全力で人を襲ってもらうなど。ダンジョン側のストーリーを工夫し、冒険者に「倒せない敵からギリギリ逃げるスリルと達成感」を味わってもらう戦法に出たのだ。

ほかにも、竜王・ディオーナにダンジョン改修案を出すことになった際は、彼女がどういう思いでいるのかを聞き出し、そこから竜族の伝統でもてなす異色のダンジョンを作り上げた。

レイゼのこうした機転をきかせた発想力を見ていると、既存の枠にとらわれない自由な発想で「“遊び”の形」を創出する大切さに改めて気づかされる。こうした考え方は、人を楽しませるだけでなく、自分の人生もより鮮やかに彩ってくれると感じた。

第5話では、50年前の勇者と魔王の出会いやふたりの真の関係も描かれる。

勇者がレイゼを封印した際、「この封印はおまえが面白ぇダンジョンを作る度に…少しずつ解けるようにしておいた」と言ったのはなぜなのか。また、レイゼが無事に勇者の納得するダンジョンを作り上げ、元の姿を完全に取り戻すことができるのかも気になるところだ。

本作は、フランやレイゼ以外のキャラクターも個性的かつ魅力的で、その点にもぜひ注目してほしい。一時的に元の姿へ戻った魔王と再会したフォウの嬉しそうな顔には思わずキュンとしてしまった。

2巻では、選りすぐりの名ダンジョンだけを集めて冒険者に攻略してもらう「大ダンジョン万博」が開催され、一層の盛り上がりを見せる。ここで「世界中の人から一番面白いって思われるダンジョンを作ること」という父の夢を思い出したフランは、強敵に揉まれながらも、レイゼを含む仲間とともに更なる成長を遂げていく。

何気ない感覚や感情も、少し掘り下げるとそこには「仕組み」が存在する。ダンジョンってなんて奥が深いんだとしみじみ感心してしまった。普段ダンジョンものを読む人にも読まない人にも、ぜひともダンジョンデザイナーたちに心の内を言い当てられる感覚を体感してほしい。きっとクセになる。

文=月乃雫

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