1. トップ
  2. エンタメ
  3. 40代独身の非正規社員は「かわいそう」? 就職氷河期世代が漫画『路傍のフジイ』を読んで思ったこと

40代独身の非正規社員は「かわいそう」? 就職氷河期世代が漫画『路傍のフジイ』を読んで思ったこと

  • 2024.9.13

こんにちは、Togetterオリジナル編集部のToge松です。就職氷河期世代です。

私は社会人生活の大半がフリーランスなどの非正規雇用だった。派遣だった時期もある。「それなりに苦労したなぁ」という実感があるせいか、同世代のツラい話をX(Twitter)で見かけると「みんな頑張れよ…」と思ったりもする。

…と、唐突になぜ自分語りを始めたかというと、とある漫画の主人公が、私と同じ就職氷河期世代だったからだ。

その漫画は『路傍のフジイ』という。

すごく好きな作品なので、布教の意味を込めて記事を書きたい。

第1話の扉絵、こちらを見ているのが主人公のフジイ 出典:Togetterオリジナル

フジイに向けられた周囲の「哀れみ」の視線

『路傍のフジイ』は鍋倉夫(@nabekurao)さんが「ビッグコミックスピリッツ」(小学館)で連載中の作品。現在は第3巻まで発売中だ。

サブタイトルは「〜偉大なる凡人からの便り〜」という。

主人公は40歳過ぎの冴えない非正規社員、藤井守(以降、フジイと呼ぶ)。

物語はフジイによる視点は少なく、フジイと人生のどこかで交差した人々の視点で綴られる。いわゆる群像劇だ。

第1話はフジイと同じ職場で働く田中の視点から幕を開ける。鍋倉夫さんのポストでも投稿されているので、よかったら読んでほしい。

『路傍のフジイ』第1話 出典:Togetterオリジナル

田中は会社では若手に属する一人。それなりに社会人生活も長くなり、友人の中には結婚してマイホームを購入する者やゴルフを始める者など、人生の次のステージへ進む者も出てきた。

しかし田中は自分の人生を「つまらない」と感じていた。変わり映えのない毎日、裕福とは言えない生活、独身・彼女なし。押し寄せる現実に不安を感じる田中は、フジイを見て「俺も10年後、ああなってしまうんじゃないか…」と心の中でつぶやく。

たしかにフジイは職場ではいつも無表情で、口数が少なく、誰かと仲良く話している姿を見ていない。同僚たちの飲み会で声をかけられることもない。いわゆる「浮いた存在」だ。

田中だけでなく、周囲からも「ああはなりたくない」「かわいそうな人」「面白味ゼロじゃん」と散々な評価を受けている。

私も派遣だった頃、フジイに似た境遇だったことがある。職場で私は「いてもいなくてもいい人」で、与えられた雑務を一人で淡々とこなす日々。責任を伴われないので気楽ではあったが、チームの重要な会議に呼ばれない状況に少し凹んだ記憶を思い出した。

私だけでなく、フジイのこうした状況について「自分と同じだ」と感じる人もいるのではないだろうか。

※ここから先、第1話の後半に関するネタバレを含みますので、漫画を未読の方はご注意ください。
出典:Togetterオリジナル

フジイの人生は不幸なのか?という問い

しかし話が進むにつれて、田中はフジイへの見方を改めるようになる。きっかけは街で休日を過ごすフジイを目撃したことだった。

公園で何者かに落書きされた亀の甲羅を掃除するフジイ、どこかの施設で子どもたちと混ざって展示物を見るフジイ、酔っ払いの高齢者が車道に出ないよう止めようとするフジイ…。

田中が見た休日のフジイは「善良な人」であり、少なくとも自分のように「人生をつまらなそう」にしている様子はなかった。

皮肉交じりで思わず「人生楽しそうですね」と聞く田中に、フジイは「はい。楽しいです」とぎこちなく笑う。田中は「この人がつまらない人間に見えたのは、俺自身がつまらないやつだからだ」と気づき、思わず涙を流す。

たしかにフジイは、田中に言わせるところの「金もない。友達もいない…孤独な中年男」だ。おまけに決して優秀であるとは言い難く、職場で「浮いた存在」であることに変わりはない。

しかし、周囲に対して自分をよく見せようと虚勢を張ったり、誰かに遠慮したりして生きることに比べれば、不器用ではあるが嘘も無理もないフジイの生き方は、ずっと魅力的ではないかと思える。

フジイは「令和のニューヒーロー」なのか

フジイに対し「ああはなりたくない」と思っていた田中は、やがてフジイの職場で最初の友人となり、良き理解者の一人となっていく。『路傍のフジイ』では、こうしたフジイの「生き方」に感化された人たちが、「正直に」「善良に」生きようとする様子が描かれている。

私が『路傍のフジイ』を読み始めたきっかけは「同じ氷河期世代だったから」だが、今思えばその動機は「自分と同じような境遇の人の物語を読みたい」だった。

その点で私も、田中と同じように「フジイは哀れな人」という先入観から漫画を読み始めており、田中と同じタイミングで「大事なのは周囲は関係なく自分が『楽しい』と思える生き方をしているかどうか」と感化されてしまった。フジイ、恐るべし。

『路傍のフジイ』のキャッチコピーでは、フジイを「令和のニューヒーロー」と紹介している。やや大げさに思える宣伝文句だが、「彼のようになりたい」「彼と肩を並べられるような誇れる自分でありたい」と理想を抱かせるような存在という意味で、フジイにはヒーローの資質があるのかもしれない。

ちなみに私は今、仕事を含めて人生を「楽しい」と感じている。みなさんはどうだろうか。

より 出典:Togetterオリジナル

文:トゥギャッターオリジナル記事編集部 編集:Togetterオリジナル編集部

元記事で読む
の記事をもっとみる